2018 Fiscal Year Research-status Report
要保護児童対策地域協議会の機能発揮を促進するための研究プログラム開発
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17K04224
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
松宮 透高 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 准教授 (10341158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 聡子 県立広島大学, 保健福祉学部(三原キャンパス), 教授 (30582382)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 要保護児童対策地域協議会 / メンタルヘルス / 子ども虐待 / 研修プログラム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,「メンタルヘルス問題のある親による子ども虐待の実態把握およびその予防に向けた生活支援・子育て支援システムの開発」を目指した研究の一環に位置している。この科研研究においては,基礎自治体における情報共有と連携促進のために設置された要保護児童対策地域協議会(以下,要対協)の職員を対象とした研修プログラムの開発を目指している。その機能の発揮には,基盤となる共通認識の獲得のための研修プログラムが必要と考えたためである。そこで,この科研プロジェクトでは主に以下3点に取り組んだ。 先駆的な活動に取り組んでいる要対協への視察およびヒアリング調査:前年度に引き続き,自治体担当課を訪問し,運営の実際をはじめ 研修やチームマネジメントに関する取り組みについて情報を収集した。本年度は明石市および糸島市を訪問し,連携や研修の体制充実が活発な要対協運営と結び付いていることを把握した。また,これまで一部の自治体で取り組まれてきた当事者参加型のカンファレンスを児童養護施設で実施している札幌市の活動例も視察し,要対協機能の民間における大体の可能性についても新たな知見を得た。2017年度より義務化された要対協職員への研修について,その実施状況に関する質問紙調査を行い,全国すべての都道府県と政令市67の担当課に回答を求めて41票を回収した。概ね順調で有意義であったと評価されているが,伝達内容や講師確保に関する困難さがあること,メンタルヘルス問題に関する内容には不十分さもあることが把握できた。これまでの研究から得られたデータに基づいて作成した研修プログラム案(親のメンタルヘルス問題への対応)を用いて,実際の要対協研修会で試行し,受講者からの評価アンケートを回収した。評価は概ね高かったが,具体的な対応策に関する研修ニーズに対応する必要が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた計画と比較して,順調に進展している。後述するように,当初計画にはなかった追加調査(自治体以外の先駆的活動例調査,近接領域における研修プログラム例調査,要対協研修実態全国調査2回目)の実施も具体的に検討中であり,より精緻で多様な知見を得ることが期待できる状況である。とくに,メンタルヘルス問題のある親による子ども養育世帯の実態と支援課題については,オリジナルのデータに基づく研修資料作成が進展しており,実際の研修会での試行も重ねている。ただし,研修プログラムのうちチームマネジメントに関する研修内容については部分的には取り組めているものの十分な形にはなっていない。現場で困難感の高いケースマネジメントの具体的方法,カンファレンスの運営,スタッフへの個別スーパービジョンおよびグループスーパービジョン,多様な場面で活用できるチームマネジメント技術など,マネジメント業務に求められる方法論の体系化とその研修プログラム化について,引き続き取り組みたい。エビデンスに基づく研修プログラムの作成にとどまらず,そのテキスト化,実際の研修における活用マニュアルの作成など,汎用性を高めるための付帯的プログラムにも取り組む必要がある。このように,当初計画通りに進展しているとはいえ,要求水準を高めたことから,研究期間内に取り組むべき課題も多くなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2019年度は,主に以下の課題に取り組む。①要対協研修実態全国調査(2回目):研修必修化2年度目にあたる2018年度内に実施した要対協研修について,第1回目の調査内容との共通性を残した上で新規に項目を追加し,全国郵送調査を行う。前年度に実施した調査では,自由記述欄には具体的で有用な情報が多くみられたもののスケールでの質問項目では際立った特徴は見出せなかった。そこで,研修プログラム策定にかかわった識者へのインタビュー調査も行い,その情報も加味した上で調査項目を確定する予定である。②先駆的な要対協および自治体以外の先駆的活動例へのヒアリング調査:追加調査を検討している自治体のほか,新規に追加調査を行う対象を検討中であり,随時実施する予定である。③研修プログラムの試行・評価:引き続き,研修機会を設定して研修プログラムを試行し評価を得る予定である。すでに数自治体との間で事前協議を進めている。とくに,チームマネジメントの研修プログラムについては,少人数での演習型研修プログラムを策定し,実際に試行と評価を行うことを計画している。④研修プログラムテキストの公刊:1)メンタルヘルス問題のある親による子ども養育世帯への支援(メンタルヘルス問題の理解,子ども虐待リスクが高まるメカニズム,精神保健医療福祉との連携方法,支援事例など)に関するテキスト,2)チームマネジメント(要対協各種カンファレンスの進め方,スタッフへの個別・グループスーパービジョン,スタッフへのケアとモチベーション向上へのアプローチ,ケースマネジメントのシステム提示,民主的で話し易く相互支援的なスタッフ関係の構築,関係機関との連携調整の方法など)に関するテキスト,を現場で活用できる形式でまとめる。実際に現場での活用を試行し評価を得た上で修正を加え,最終的には公刊を目指す。
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Causes of Carryover |
これについては,主に2つの要因があると考えている。第1に,同時期に取り組むことになったJST-RISTEX研究費に基づく調査研究が先に最終年度を迎えていたことから,エフォート配分が当初計画よりもそちらに取られてしまったことである。そちらでは,この科研研究にも関連する基礎的な調査に取り組んだことから,その知見は相乗的に活かされることにはなる(児童相談所,児童福祉施設,さらに医療機関所属の精神保健福祉士においても,メンタルヘルス問題のある親による子ども養育世帯支援に関する研修機会は極めて不十分であり,連携阻害の一要因となっている可能性が示唆された)。とはいえ,本研究計画の進捗自体に影響してはいないものの,研修プログラム開発にかかる本研究の展開を圧迫した部分はある。第2に,研究環境整備のための機材購入を予定通り進められなかった点があげられる。デスクトップ・パソコンおよびノート・パソコンその他の設備備品整備を行う予定であったが,既存の作業環境からのデータ移行等が困難であったため,整備時期を遅らせたためである。これについては,作業を継続しながらの新規機材への移行が可能な状況となったことから,早急に機材整備を行い,作業環境の改善に活かす予定である。
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