2018 Fiscal Year Research-status Report
在宅看取り介護の初期段階における困難性とその原因の分析
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17K04234
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Research Institution | Japan Health Care College |
Principal Investigator |
林 美枝子 日本医療大学, 保健医療学部, 教授 (40295928)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永田 志津子 札幌大谷大学, 社会学部, 教授 (60198330)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 在宅看取り / 家族介護者 / 環境設定 / 困難性 / Webサイト / 死生観 / 死の受容 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は家族介護者による在宅看取りの準備段階における医療と介護の環境整備の困難性に関して明らかにすることを目的としている。調査対象として北海道A市K区とその周辺域を選択し、初年度には看取り介護における困難性に関連する文献のレヴュー、その後在宅医療を支援する専門医、ケアマネ、訪問看護師等のヒアリングを実施し、支援における医療と介護の連携不足や、地域による資源の格差を明らかにしてきた。 今年度は、専門家の継続的聞き取りや地域の施設見学等を経て、家族介護者への支援の在り方が家族介護力を補完するものでしかなく、選択肢を示し当事者の決定を促すものではないことなどを、介護者に対する視線という観点から日本文化人類学会で5月に口演、日本公衆衛生学会では11月に示説で発表を行った。前年度、および補足的な今年度の調査内容から、医療・介護関係者の在宅看取り介護者への視線に関する論稿をまとめ投稿・掲載した(林・永田 『地域ケアリング』12月号 94~99頁 北降館 2018)。 さらに前年度の調査内容から看取りの環境を整えるための資源に関するシートを作成し、医療や介護の専門家から紹介を受けた在宅看取りの家族介護者に対する聞き取り調査を実施した。聞き取り内容の途中経過に関しては、7月に国立民族学博物館の看取りに関する共同研究チームの招聘を受け、記述的内容で発表を行った。 家族介護者に関する聞き取りでは、看取りの経緯についての詳細な記録データを提供してくれた人がいて、その看取りの準備性における当事者からの聞き取りと、その後の介護状況の詳細な記録、看取られる患者側の死生観や死の受容の在り方が分かる資料であったため、看取りの初期段階における困難性が、その後の看取りの経過や看取り後のグリーフ・ケアへの影響を考察することができた。また新たな調査課題も示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では今年度中に20名程度の聞き取り調査を予定していたが、看取り後の専門家と家族介護者の関係に継続性がほとんどなく、グリーフ・ケアが終了していること等の条件を設定していることもあり、調査対象者の獲得に困難をきたした。専門家からの紹介を継続的に依頼しつつ、9月からは対象地域で看取りに関する講演会に呼ばれる都度、在宅看取りの当事者がいないかを参加者に尋ね、直接、調査協力を呼びかけることも試みた。また居宅介護事業所の施設管理者を訪問して、改めて紹介を依頼するようにしたが、結果的には今年度中は9人、10事例を聞き取ることしかできなかった。 しかし医療・介護の専門家からの紹介だけでは成功事例に偏る傾向がみられたが、当事者からの事例からは、医療・介護の専門家が抱く家族介護者への視点との乖離に気づくことができ、研究発表や論文にまとめるための切り口を得ることができた。その反面、調査シートを利用した半構成的インタビューであったが、家族介護者の環境整備や看取りの過程は多様で、聞き取り内容の焦点を絞ることは容易ではなく、テキスト・マイニングの分析準備の作業に時間を要した。 当初予定していた中国での国際学会の発表は開催が今年度は中止となり、英語による発表は行っておらず、前年度の成果に関する英語論文の作成が滞っている。 一方、看取りの患者やその家族介護者には医療・介護関係者以外の支援も必要であることが分かった。特にスビリッチュアル・ケアに関する萌芽的な支援の動きを聞き取ったことで、この点の地域資源の不足を認知することができた。医療・介護関係者や家族介護者の双方から、看取りの環境整備に関する困難性の一つとして予期悲嘆や死の受容への備えが置き去りになっていることの指摘を受け、計画を変更し、研究の更なる進捗のために、そうした資源や環境に関する調査や情報収集の必要性を新たに課題とすることにした。
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Strategy for Future Research Activity |
在宅看取りの環境整備の困難性に関する、医療・介護の専門家や家族介護者からの聞き取りの結果からこれまで研究結果をまとめるとともに、今年度得られた新たな課題に取り組み、どのような具体的な知識や技術、あるいは支援があれば看取りの初期段階での困難が回避できるのかを成果として考察する予定である。対象地域では死の受容に関する死生観の共有や、医療・介護の専門家以外からの支援は、ほとんど得ることはできない。家族介護者の看取り後のグリーフ・ケアに関する専門家は地域にはおらず、スピリッチュアル・ケアへの需要や患者や家族介護者のスピリッチュアル・ペインへの備えとして、どのような知識・技術が必要で何か整っていればよいのかということも全く分かっていない。 次年度は予定の研究計画の遂行とともに、新たに得られた課題に対応するため、以下の4点を実施する。1.聞き取り対象の家族介護者を一人でも多く確保し、分析するテキストデータを整えて、研究目的である見取りの環境設定における困難性をテキスト・マイニングのソフトを活用して分析すること、2.資源がほとんど確認できなかった医療・介護関係者以外の家族介護者支援に要する専門家や知識、技術に関する情報を国の内外を問わず調査・収集すること、3.それらの結果から、明らかになった困難性を回避するための方法を考察し、その実現の可能性を検討した成果物をまとめること、4.研究代表者が管理している研究用Webサイト『看取りねっと』に、本研究から得られた資料を研究倫理に配慮しつつコンテンツ化してアップし、研究の成果を広く発信することである。 なぜ医療・介護の適切な専門家と看取りの家族介護者が繋がることに困難性があるのか、あるいは他の困難性の有無やそれが何に起因するのかを特定地域を対象として明らかにするとともに、看取りの環境整備段階における支援の新たな在り方を模索できるよう努める。
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Causes of Carryover |
新たな課題を得て、国内外の調査を実施することになり、その実施を2月に予定していた。研究内容の先取的地域への調査であったが、計画が校務の関係で実施することが叶わなくなった。調査計画は次年度に持ち越すこととなり、そのための交通費、謝金等が次年度へ繰り越されることとなった。代表者、共同研究者、供に同様の理由である。 8月に共同研究者とデンマーク、フィンランド等の北欧に調査に出かける予定である。また国内の看取りに関する医療・介護関係者以外の支援に関する教育を実施している場所や組織に対する聞き取り調査も予定している。実施は9月初旬である。
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Remarks |
2015年に開設をした看取り介護の経験的知識や技術を集積し、社会的に継承することを目的とするサイト。以後の看取りに関する研究の成果をここに反映させていくことで、これから看取りを行う家族介護者の支援を目指している。今回の研究成果は順次、次年度にコンテンツ化してアップする予定である。
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