2017 Fiscal Year Research-status Report
中国版介護保険制度の試行と日本の医療福祉輸出戦略の取り組みに関する研究
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17K04239
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
于 洋 城西大学, 現代政策学部, 教授 (60386521)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 高齢者福祉 / 介護サービス / 救貧型福祉 / 救貧型福祉 / 海外のノウハウ / 医療と福祉の混合 / 私的な医療機関 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、中国における介護サービスの急拡大について、需要と供給の両面における多様性の検討することを中心に研究活動を行ってきた。研究内容は、当初の研究計画にしたがい、先行文献の収集とサーヴェイ、中国国内の研究者との定期的な意見交換(メールやインタビュー)、そして現地調査や関連学会の参加などである。 これまでの研究過程においては、中国の高齢者福祉や社会化された介護サービスの形成歴史に関しては、一定の研究蓄積があるが、本年度の研究においてはその研究蓄積に新たな発見を加えて時系列に整理してみた。また、上記の研究成果に、現地調査で行った病院や介護施設での聞き取り調査の結果と突き合わせると、以下の研究救貧型福祉成果を得ることができた。1つ目は、中国も日本と同様に「救貧型福祉」から「普遍型福祉」へと政策転換のプロセスが見られるが、その転換プロセスにおいて単なる公(公的)から民(私的)への転換ではなく、外資と海外のノウハウを積極的に導入しようとする特質が見られる。2つ目は、介護(保険)制度が明確に打ち出されていない状況のなかで、急速に増えてきた要介護度の高い介護需要(特に重度な認知症患者のケアと終末期ケア)に対しては、介護事業者による対応よりは、医療機関による対応が拡大しているように見られる。この点に関しては1980年代の日本で起こっていた医療と福祉の混合とよく似ている。しかし、中国ではその担い手は医療供給の大半を占める公的な医療機関ではなく私的な医療機関がほとんどである。 本年度の研究から上記の2点(これまでの先行文献にほとんど見られない議論)を明らかにすることができ、大変有意義だと思われるが、論文などの形で活字に残ることができなくて残念だ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年3月末現在の時点では、交付申請書に記載した「研究の目的」の達成のために順調に研究を進めていると判断される。後に記載するように、今年度において当初の計画より多くの医療機関と介護施設に出向かい現地調査が行わられたことと、多くの研究成果を各種の学会・研究会で発表してきた。行われた主な現地調査は以下の通りである。①中国大連市・瀋陽市・鞍山市・営口市・北京市での社会保障・社会福祉政策に関する現地調査(平成29年8月7日(月)~平成29年8月19日(土))、計3つの医療機関、5つの介護施設に訪問した。②中国北京市での社会保障・社会福祉政策に関する現地調査と行政担当者のインタビュー(平成30年02月17日(土)~平成30年02月23日(金))、計2つの医療機関、3つの介護施設に訪問した。③中国杭州市・長春市(経由)・四平市・大連市での中国版介護保険の試行状況について現地調査(平成30年03月18日(日)~平成30年03月25日(土)、「東アジアにおける高齢者介護制度の構築段階と日本の経験の伝播に関する研究」(基盤研究C、課題番号:16K04252)と兼ねている)、計3つの医療機関、5つの介護施設、1つの障碍者施設に訪問した。 参加した国内外の関連学会は以下の通りである。①「介護保険制度における受益者の設定と日本の介護保険制度からの啓発」、中国吉林省社会学会2017年度学会年会(中国長春市・長春師範大学主催、2017年10月13日)、②「中国の公的年金制度改革の最前線―基礎年金と個人口座に関する論争―」、アジア政経学会2017年秋季大会(富山大学、2017年10月21日)、③「急成長している中国の介護市場と女性介護労働者の役割」、シンポジウム:福祉国家における介護労働と女性の役割-国際比較を交えて日本の問題を考えるー(京都女子大学、2017年12月9日)。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降も当初の計画通りに研究を進めていく。具体的に、平成29年度の成果として得られた歴史展開と制度の現状に対する理解を、現地調査などを通してさらに検証していく。研究費については、前者の歴史・現状分析に関しては、資料収集・現地調査の費用、そして理論研究に関しては、文献研究や学会・研究会での報告・討論のための費用がかかると予想される。また、平成29年度の成果を踏まえ、医療福祉混合型の介護サービスの提供に対して、中国の行政担当者及び学者の意見をインタビューし、事業者の考え方と比較してみる。医療保険制度の“非合理的利用”と医療財源の“横取り”はいつまで、どこまで容認されるかと分析してみる。 中国政府が「在宅介護」を提唱しているが、「後発型福祉国家」にみられる「家族依存型福祉国家」といった特徴が、中国の人々の実際の生活にいかなる影響を及ぼしているかという点に着目しつつ、施設介護の拡大と合わせながら実態調査を行いたい。そこからみえてくる問題点を明らかにし、その問題点の解決策を考慮に入れた政策論を展開していきたい。 そのうえ、中国の主要都市と地域に進出している日系介護関連企業の実態調査を行い、日本の経験がどの程度参考にされているかを明らかにする。 平成30年度の最重要の研究活動となるが、現地調査とアンケート調査とあわせて、該当地域の介護サービスの提供体制の形成経緯、これまでの展開、要介護認定の基準と認定方法、民間業者の役割、財源調達の状況について正確かつ最新の情報を入手するとともに、できるだけ介護サービスの需給双方に関する多くのミクロデータの獲得を目指す。
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Research Products
(5 results)