2019 Fiscal Year Research-status Report
伊勢湾台風被災者支援と女性生活運動の地域社会史:ヤジエセツルメント保育所を中心に
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17K04270
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Research Institution | Chubu Gakuin University |
Principal Investigator |
平野 華織 中部学院大学, 教育学部, 准教授 (60454302)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅野 俊和 中部大学, 現代教育学部, 教授 (00300351)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 女性生活史 / 保育運動 / セツルメント |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の1年目、2年目は関係する文献等の調査・収集を精力的に行い、伊勢湾台風被災者支援活動の全体像、ヤジエセツルメント保育所による各種実践の輪郭を把握できるよう努めた。 その上で、令和元年度以降(3年目)は、前年度の作業を継続するとともに、それまでの成果を踏まえ、名古屋市南部の被災地域周辺に関する資史料の調査・収集を行った上、民衆生活を記録した文書や物質文化、存命者の記憶などの内容について分析を試みた。特に、「女性独自の行動力」(伊藤康子)としてとらえなおし、言わば「失敗の女性生活運動史」という負の側面も押さえる点を重視した。社会福祉研究者の一番ヶ瀬康子は、戦後を扱った「運動史の多くが、いわゆる成功のそれのみに、かたよりがち」であり、「挫折あるいは失敗のそれが、史料的にも見出すことが困難なためでもあろうが、ともすればかくされがち」であったし、「成功あるいは失敗いずれも、その条件と原因あるいは問題について、可能なかぎりより正確に記す努力」が必要であると指摘していた(同『社会福祉著作集 第2巻 社会福祉の歴史研究』労働旬報社、1994年、p.303)。本研究においては、そのような一番ヶ瀬の指摘にも学び、男性研究者や当事者から「成功」面の評価だけに偏りがちであった「保問研史観」を相対化した上で、保育実践などの再検証・評価を試みようとしている。特に、「いずみの会」など女性独自の行動力が発揮された実践について、関係資史料の調査・整理を行うことで、単行本の記述だけに基づいてなされた先行研究の限界を克服するよう、分析をすすめている。その結果は、研究ノートとしてまとめている最中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前半の研究で分析対象としたのは、研究代表者が研究ノートを作成する過程で新たに発掘した、ヤジエセツルメント保育所発行のガリ版刷り通信『レンガの子ども』や文集『レンガの子ども――母親特集号』などの一次史料である。後年5回版を変えて発行された単行本『レンガの子ども』には収められていない文書(特に、母親自身による記述)等が数多くみられるため、関係する文献の調査・収集を精力的に行い、ヤジエセツルメント保育実践を取り巻く当時の生活世界の輪郭を把握するよう努めた。また、さらに、1959年から1960年代前半にかけて、伊勢湾台風被災後の愛知県名古屋市南部地域の生活史や女性史に関わる資史料を調査・収集し、その整理・分析を行い、高度経済成長初期段階の社会・地域・家族の構造的変動や被災による生活基盤の破壊と再生過程の全体像を把握した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の補助事業期間を延長した4年目は、1959年から1960年代前半にかけて、伊勢湾台風被災後の愛知県名古屋市南部地域の生活史や女性史に関わる資史料を調査・収集し、その整理・分析を行い、高度経済成長初期段階の社会・地域・家族の構造的変動や被災による生活基盤の破壊と再生過程の全体像を把握する。また、男性研究者や当事者から「成功」面の評価だけに偏りがちであった「保問研史観」を相対化した上で、女性生活運動の視点からの保育実践などの再検証・評価を試みたい。
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Causes of Carryover |
研究補助事業の目的をより精緻に達成し、成果を公表するため、補助事業期間を延長することとした。それにより、次年度使用額が生じた。
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