2018 Fiscal Year Research-status Report
感謝スキルが対人関係と自己認知に及ぼす形成・拡張効果の介入的実証研究
Project/Area Number |
17K04307
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
相川 充 筑波大学, 人間系, 教授 (10159254)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 麻美 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (40635918)
藤枝 静暁 埼玉学園大学, 人間学部, 教授 (60521515)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 感謝感情 / 感謝表出スキル / 儀礼的感謝行動 / ソーシャルスキル / 学校適応感 / 心理的負債 |
Outline of Annual Research Achievements |
感謝表出スキル尺度を開発するために,大学生を対象に,横断的質問紙調査を2回,縦断的質問紙調査を1回,実験室実験を1回行った。これらの4つの研究から,感謝表出スキルの因子構造,信頼性,再検査信頼性,基準関連妥当性に関する妥当性の証拠を複数収集した。感謝表出スキル尺度は,32項目から成り,十分な信頼性を備えている。また,感謝表出スキル尺度は,既存のソーシャルスキル尺度(相川・藤田,2005),対人的感謝尺度(藤原・村上・西村・濱口・櫻井,2014),心理的負債感尺度(相川・吉森,1995)と正の相関関係を示した。 儀礼的感謝行動の実行頻度や儀礼的感謝行動と対人関係の良好さの認知との関連について検討するために,女子大学生を対象に,感謝行動尺度(相川,2014)の儀礼的感謝の項目を用いて質問紙調査を行った。その結果,回答者が実行する儀礼的感謝行動は感謝行動全体の4割以上を占めていた。また,感謝行動全体における儀礼的感謝行動の割合が多いほど対人関係認知が悪化することや,儀礼的感謝行動に接触する側の孤独感を高める効果も示された。 小学校教師の「挨拶」「感謝」「謝罪」の3つのソーシャルスキルの実行が,子ども達のソーシャルスキルの実行を促進させるか,また,子ども達のソーシャルスキルの実行が自らの学校適応感を高めるのかを検証するために,小学校教師100名を対象に質問紙調査を実施した。分析の結果,「感謝」に関して,教師の実行が子どもの実行を促すこと,子どもの「感謝の実行」が学習活動と社会的機能を高めること,社会的機能が学校適応感を高めることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度の研究成果は,感謝表出スキル尺度を開発できたこと,「儀礼的感謝行動」という,「感謝表出スキル」と似ているが内容が質的に異なる行動がもたらす影響について実証できたこと,小学校教師の感謝スキルの実行が,子ども達の「感謝の実行」を高め,これを媒介して,子どもたちの学習活動,社会的機能,学校適応感を高めることを明らかにできたことである。 これらの研究成果は,3年間の研究計画全体の2年目として,おおむね順調に進展していると言える。なぜならば,これらの研究成果を踏まえて研究を発展させれば,2019年度の最終年度は,研究計画全体の当初の目標に達することができる可能性が高いと判断できるからである。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の縦断的質問紙調査によって,感謝表出スキルは,知覚されたサポートおよび互恵意識を高め,これらを媒介することで,信頼感を向上させると同時に孤独感を低減させることを実証した。この結果を踏まえて,2019年度の研究では,開発した感謝表出スキル尺度を用いて,大学生を対象に,感謝表出スキル・トレーニングを行う。その際,孤独感が高い大学生をスクリーニングし,介入実験を行う。この介入実験により,2018年度の縦断的質問紙調査の結果を実験的に証明し,感謝表出スキルの実行の効果性を因果的に実証する。 この研究と並行して,女子大学生を対象に感謝スキル・トレーニングを実施する。このトレーニングにおいては,儀礼的感謝行動が対人関係認知を悪化させるという2018年度の調査結果をふまえた内容を含める。具体的には,儀礼的感謝行動を頻繁に行わないよう教示し,相手に儀礼的感謝だと誤解されないための記号化の仕方を練習する。トレーニングの事前・事後・フォローアップ調査を実施し,トレーニング効果について検証する。 他方,2018年度の小学校教師を対象に実施した質問紙調査と同様の目的で,2019年度は,中学校教師および中学生を対象に実施し分析する。調査対象は関東圏内の公立中学校3~5校を想定している。中学校教師の視点に,中学生自身による自己評定の視点を加えて検討する。これにより,教師の視点と中学生の視点の両方から目的を検討することができる。また,生徒のソーシャルスキルと学校適応の関係性の認知について,教師と生徒,両者の視点は同じなのか差異があるのかを検討することができる。 さらに2019年度は,2018年度の研究成果を,学会発表や学術論文への投稿を通じて広く公開して,研究成果に対する他の研究者からのフィードバックを得る。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は,物品費については,当初計画していた物品よりも安価なものが手に入ったためである。また,実験研究を1つ取りやめたためである。旅費については,当初計画していた海外での学会発表を中止したためである。謝金については,実験研究を1つとりやめたこと,および,実施した実験研究での実験参加者への謝礼が,当初計画していた参加人数よりも少なかった為に,それに応じて謝礼額が少なくてすんだためである。 次年度は,最終年度の研究に相応しく,かつ,当初の研究計画の目標に達するために,規模の大きな実験研究と調査研究を行う。これに伴い,物品費と謝金等は,当初の計画以上に必要となり,助成金が余ることはない。また,昨年度,一定程度の研究成果を得ることができたので,これらの研究成果を国内学会と国際学会で積極的に学会発表を行う。これに伴い旅費が必要になるので,旅費も使い切る予定である。
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