2018 Fiscal Year Research-status Report
知ること・教えることの値段:情報の価値の心理学的検討
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17K04327
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
中村 國則 成城大学, 社会イノベーション学部, 教授 (40572889)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 数値 / 情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請課題は”情報の価値”を心理学的に検討することを目指してスタートした.その中で浮かび上がってきたのは,人は特に数字に表された情報に高い価値を見出すという知見であった.すなわち,人間が生きる不確実な環境の中では,情報が数値のような厳密な形で表されること自体が大きな価値を持ち,それだけ情報としての重要度を増す.そのため,人の行動が意外な形で数値という情報から大きな影響を受けていることを明らかにすることが,情報の価値を理解する重要な手がかりであると考え,2018年度は主として以下の検討を進めてきた。
(1)概数効果(round-number effect: Pope & Simonsohn, 2011)の歴史的変化を検討した.概数効果とは,切りのいい数字が行動の評価の準拠点となってその値の前後で行動が変化することを指し,打者成績において打率3割(0.300)が目標の準拠点となって打率3割0分0厘の打者の比率が打率2割9分9厘の打者と比べて過度に高くなる(Pope & Simonsohn, 2011)ことが知られている.そこでこの傾向がどのように変化してきたかを19世紀末以降のMLBデータから分析し,このような傾向が1970年代以降に見られるようになったことを見出した.
(2)近年,何かの支払いを求める際に示される“最低**円”といった情報が,かえって支払金額の目安となって示された最低金額に近い金額が選択され,結果的に支払い金額が下がってしまう“最低金額のアンカリング効果”(Stewart, 2009)が報告されている.このような知見を踏まえ,“**円”という数値の提示,最低金額への言及自体の効果を検討した.その結果,統計的には有意にならなかった場合もあったものの,金額に言及すること,および高い金額の札を提示することが寄付金額を高める可能性があることを見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請課題は"情報"という形にならないものの価値を心理学的に検討することを目的として出発し,その中で数値という情報自体が持つ価値の検討という新たな問題に踏みこみはじめた.その中で数値という情報がいかに人の行動に大きな影響を与えるかを実験のみならずプロ野球の打撃成績という現実データを用いて検討し、興味深い成果を得た。この成果は改めて数値という情報が現実世界で生きる人間にとって極めて大きな価値を有しているということを明確な価値で示した点で、本申請課題の目的と照らして重要な貢献を与えたといえる.この新しい展開は十分にこれまで想定していた申請課題の流れに組み込むことが可能と考えており,当初想定していなかった新たな広がりを与えたといえるであろう.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2019年は、情報の価値判断に関する理論的なモデルを構築したい.想定している理論的内容を踏まえれば,話題の分布や価値と事前信念との間の関係や影響のパラメトライズが主たるモデル化の検討対象となろう.しかしながら平成29年度の研究計画にもあるように,本研究課題は情報の内容に応じて様々な要因が影響してくることが予測でき,現時点では多くの要因が絡んだ複雑な問題という様相を呈している.この問題に対し,できる限りシンプルなモデルを模索していきたい.
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Causes of Carryover |
数値という情報の価値,という新たな課題の検討にはいったことにより,やや理論的な分析に時間を割くことになり,実証的データ収集に向ける予定であった予算を執行する機会が当初の想定より減ったことが主な理由である.今年度の理論的分析を踏まえて次年度では実証データの収集・分析を積極的に行うことで予算を執行することが見込まれる.
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