2019 Fiscal Year Research-status Report
「可視化した社会システム」導入による「接触」促進と社会的包摂過程の検証
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17K04329
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
上瀬 由美子 立正大学, 心理学部, 教授 (20256473)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ステレオタイプ / 偏見 / 社会的包摂 / 社会的統合 / 刑務所 / 出所者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は初年度に行った住民調査のデータを過去に行った他地域の住民調査データと併せ、仮説モデルの検証と精緻化のための総括的な分析を行なった。結果については、研究報告書としてまとめるとともに、その一部を論文化および学会報告した。住民調査全体を通して、官民協働刑務所に対する態度には地域差が存在するが、いずれの地域でも施設に対する抵抗感は大きく低減していた。また全体として開設前に行われた住民向け説明会の評価が高い住民ほど、開設後に様々な形で施設へ接触し、それが施設に対する抵抗感や出所者への受容的態度に結びつくことは共通していた。また官民協働刑務所に対する接触は直接接触・間接接触・拡張接触に大別され、いずれの接触でも施設理解に結びついていた。さらに、施設理解は刑務所運営への信頼を高め、結果として施設への抵抗感低減や出所者一般への受容的態度を導くことが明らかになった。これはこれまで十分検討されていなかった接触に対する「社会的・制度的支持」の影響過程を示したものと位置付けられる。また住民説明会は住民に矯正制度のあり方や趣意を住民に伝える場、施設への接触は施設の実際を住民に開示する場である。両者が偏見低減に結びついたことから、社会システム可視化の有効性が改めて確認されたものと論考される。 なお本年度は、前年度に行ったカナダ刑務所の視察結果についても論文化した。刑務所と地域の連携が進むカナダでは、住民が受刑者や出所者に接する機会、あるいは住民代表が施設を視察する機会が広く提供されている。事例分析を通して、地域連携が社会システムの可視化を促進させている実際が論考されるとともに、地域代表者やボランティアなどのキーパーソンを介した拡張接触の有効性と日本での実装可能性が指摘された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画で示した調査および結果公表は完了した。ただし日本で得られた刑務所近隣住民調査の結果を海外の研究者や行政担当者にも知ってもらうことが有効と考え、研究期間を延長して海外誌への投稿を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
偏見を低減し社会的包摂を促進するために、社会的・制度的支持をどのように示していくか、その実装のあり方はさらに検討していくことが重要である。本研究が焦点を当てた出所者の社会的包摂に関する取り組みは、日本のように可視化が十分でない国からカナダのように地域連携が進む国まで、各国で大きく姿勢が異なっている。このため引き続き矯正システムに焦点をあてて、施設と地域住民の関係について国際比較を行う中で、効果的な社会的・制度的支持のあり方を検討していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究成果については当初の計画通り日本語での専門誌掲載と学会報告を完了している。しかし本研究を遂行する中で関連の海外事例を現地にて収集する機会に恵まれ、計画以上に広く研究を進めることができた。このため時期計画を1年延長し、補助の一部を海外専門誌への英文投稿にかかる費用にあてることとした。
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