2018 Fiscal Year Research-status Report
長期縦断研究に基づく地域在住高齢者における認知機能と関連する運動機能評価法の同定
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17K04431
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
岩原 昭彦 京都女子大学, 発達教育学部, 教授 (30353014)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
八田 武志 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 教授 (80030469)
長谷川 幸治 関西福祉科学大学, 保健医療学部, 教授 (50208500)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 認知加齢 / 健脚度 / 歩行機能 / 遂行機能 / 認知症予防 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動機能の低下は、歩行機能を低下させるだけでなく、認知機能の低下を加速させることが知られている。しかしながら、本邦においては、歩行能力の保持が認知機能の低下を減速させるのかについての研究は十分であるとは言えない。本研究では、健脚度を中心とした運動機能と認知機能との関連性を検証することを目的とする。本年度はストループ検査に新ストループ検査Ⅱを追加することで、遂行機能と運動機能との関連性を詳細に検討することとした。 住民健診に参加した中高齢者261名を対象とした。健脚度はTUG(Time Up and Go)、10歩行、最大歩幅、2ステップテスト、片足立ちによって評価した。認知機能は、D-CAT(注意機能・作業記憶)、ストループ検査(遂行機能)、ストループ検査Ⅱ(遂行機能)、言語流暢性検査(言語産出機能)、論理的記憶検査(エピソード記憶)、Money道路図検査(空間認知機能)によって評価した。 健脚度を説明変数、性別、年齢、教育歴を調整変数、各認知機能検査得点を目的変数とした重回帰分析を行った。D-CATの1文字末梢検査(処理速度)と片足立ち(バランス機能)および10m歩行(歩行速度)との間に関連性が認められた。D-CATの3文字末梢検査(作業記憶)とTUG(歩行機能)および10m歩行(歩行速度)との間に関連性が認められた。以上の結果は、昨年度に採取したデータを再現していた。また、本研究で新たに追加した新ストループ検査Ⅱで評価した遂行機能と10m歩行とTUGとの間に関連性が認めらられた。 運動機能、特に、歩行機能が認知機能と関連することが明らかとなった。認知機能の中でも前頭葉機能と歩行機能との間に関連性が認められたことは、歩行訓練が運動野や帯状皮質の働きを強めたという先行研究とも一致するものであった。遂行機能と運動機能との関連性について検証していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、①身体活動や運動機能は認知機能の低下防止や認知症の発症予防に影響を与えているのかを明らかにする、②何を指標として取り出して活用すれば認知機能の低下防止や認知症の発症予防に効果的であるのかを明らかにすることである。運動をすれば認知機能が高められることはさまざまな研究で報告されているが、運動機能のどの要素(たとえば、歩行能力、バランスや姿勢、関節可動域、痛みなど)が認知機能と強く関連するのかについては報告されていない。 本年度は昨年度に引き続き研究分担者の協力により、研究フィールドでのデータの収集は順調に進んでいる。次年度にも本年度と同様の項目を測定することで、最終的な対象者数を増やしていきたい。認知機能の測定評価についても、研究分担者と密に相談をすることで、研究の目的を達成することが可能な水準で測定ができている。 本年度は、昨年度の成果を再現できたことが重要な成果である。新たな対象者に対して昨年度同様の解析を実施しても、同じ結果が得られたことは、理論の構築において有用である。また、新たに追加した指標であるストループ検査Ⅱは遂行機能をより精緻に測定することが可能な検査である。新ストループ検査Ⅱで測定されたストループ効果だけでなく逆ストループ効果においても、同様の関連性が認められたことにより、運動機能の中でも歩行機能が遂行機能と強く関連する可能性が示唆された。運動機能と認知機能との関連性を検証する研究の目的に対する結論の道筋が見えてきた。ストループ検査Ⅱを遂行する際の神経基盤としては、前頭前野と前部帯状皮質の働きが想定されてていることを鑑みると、運動機能と前部帯状皮質との関連性が重要であることが推定される。 次年度にもデータを追加するとともに、本年度に得られた結果の再現性を確認するとともに、運動機能と認知機能との関連性を帯状皮質の働きを鍵として考察したい。
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Strategy for Future Research Activity |
運動プログラムによる介入が認知機能を向上させるとの報告がある一方で、認知機能には影響しないという報告もなされている。運動が認知機能に効果をもたらすか否かの違いには、対象者の動機づけや対人関係といった心理社会的な要因が関与していると考えられるが、この観点から運動機能と認知機能との関連性を検証した研究は見当たらない。 今後の研究の推進方策としては、本研究のもう一つの目的である、心理社会的要因が運動機能と認知機能との関連性にどのような影響を与えているかを評価することである。これまで包括的には検討されてこなかった運動機能と認知機能との関連性が明確になることで、認知機能の低下を防止したり認知症の発症を予防したりするためには、どのような運動機能を訓練するべきであるのかについて考察できる。また、動機づけの高さが身体活動と関連すること(Alosco et al. Health Psychol, 2012)やバイタリティや対人交流の頻度が認知症の発症を予防すること(Wilson et al. Arch Gen Psychiat, 2007)が知られている。また、家の外で過ごす時間が長いと認知機能がよくなると同時に身体活動が高まるとともに、対人交流がさかんになり孤独感が減少する(Petersen et al. Plos One, 2015)という報告がある。つまり、運動機能が高いことが外出の頻度を高め、人と関わる機会を増やすために、物事に対する前向きな気持ちを維持することができるようになることが推察される。 本研究では、運動機能と認知機能との関連性には、運動が脳の構造や機能に直接的に影響して認知機能を高めるといった生理学的な機序だけでなく、心理学的な機序が関わっている可能性について検証していきたい。
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Causes of Carryover |
心理社会的要因が運動機能と認知機能との関連性に与える影響を検証することが本研究の目的の1つである。ポジティブ神経心理学を先進的実施している米国の神経心理学会に参加する旅費として15万円の助成金を残しておいた。諸般の理由により、情報収集を目的として参加する予定であった国際学会に参加することができなくなったために残額が発生した。次年度に、米国の国際学会に参加して情報を収集するための旅費として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)