2017 Fiscal Year Research-status Report
概括化した記憶を改善する転換的語り直しの認知基盤および心理行動的波及効果の解明
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17K04439
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Research Institution | Shokei Gakuin College |
Principal Investigator |
池田 和浩 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 准教授 (40560587)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西浦 和樹 宮城学院女子大学, 教育学部, 教授 (40331863)
佐藤 拓 いわき明星大学, 教養学部, 准教授 (10577828)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 自伝的記憶 / 転換的語り直し / 認知的感情制御 / 希望感 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,転換的語り直しと記憶の概括化との関連性を明らかにすること,および,転換的語り直しから生み出される心理・行動的波及効果を検証することを目的としている。平成29年度は,語り手が有する語り直し方略特性と感情制御方略との関連性を検証することで語り直し特性の構成概念を検証し,語り直し方略がもたらす認知処理的な波及効果を未来への希望感の生起から検証した。 第一に,ネガティブな記憶の自伝的推論と語り直し方略が,トラウマ指標に与える影響を検証した。188名の参加者は,参加者自身が過去に体験したつらい出来事のトラウマ記憶特性および,語り直し傾向,自伝的推論傾向に回答した。その結果,転換的語り直し方略を繰り返し実施することが,反芻的な推論思考の減少につながり,記憶に新たな解釈をもたらすことでトラウマ得点値が減少することが確認された。これは,転換的語り直しがもたらす心理的介入効果であると推察される。 続いて,追加データを得たのち,記憶の語り直し方略と感情制御方略の関連性を確認するとともに,語り直し特性が将来への希望感に与える影響を検証した。313名の参加者は、認知的感情制御方略を測定尺度(日本語版CERQ)と,語り直し特性尺度(Re-TALE),および日本語版Herth Hope Scaleに回答した。調査の結果,ポジティブ反復方略とポジティブ変化方略の語り直し傾向を有する参加者は,より多くの肯定的感情制御方略を保有するだけでなく,将来への希望感を意識しやすい状態にあることが確認された。 これらの調査結果から,肯定的感情価を伴う転換的語り直しの使用は,当該記憶の否定的感情を提言させるだけにとどまらず,多様な感情制御方略に裏付けられた未来への肯定的認識を拡大させる可能性が推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
複数の転換的語り直しの中から,ポジティブ変化方略・ネガティブ反復方略・ポジティブ反復方略の3つの語り直し形態の構成概念を検証することができた。結論として,ポジティブ反復方略は肯定的な感情制御方略との関連が示されたが,自責,破局的思考などの否定的な制御方略とも関わっていた。ポジティブ変化方略も複数の肯定的感情制御方略と関連していたが,他者避難による制御方略との関連も認められた。ネガティブ反復方略の得点は否定的な感情制御方略に全て関連していた。 加えて,ポジティブ変化方略とポジティブ反復方略の2つの語り直し形態の頻繁な使用が,将来への希望感の認識に大きく寄与しうる可能性を検証することができた。加えて,認知心理学会にて成果発表を行うことができた。これらを総合的に判断した結果,研究は概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、転換的語り直しと記憶の概括化との関連性を明らかにすることを中心的に検証する。また,語り直しによる概括化制御による自己認識の適正化に伴って,語り手が自身の将来の状態を肯定的なものとして認識するかどうかという希望感への影響についても検討を行う。これらの成果は,6月に開かれるAutobiographical Memory & the Selfにて報告する。また,国内学会においてシンポジウムを開き,過去の研究成果と併せて語り直しの効果に関する研究発表を行う。
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Causes of Carryover |
研究構想および経費支出過程で,部分的に調整が必要となる点が生じたため。次年度の実験における人件費および謝金,加えて学会発表旅費で使用する。
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Research Products
(5 results)