2018 Fiscal Year Research-status Report
妊娠出産経験の語りの分析による女性セラピストのライフサイクルにおける成長過程解明
Project/Area Number |
17K04456
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
笠井 さつき 帝京大学, 付置研究所, 准教授 (70297167)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 女性セラピスト / 妊娠出産 / 質的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、出産前後の女性心理援助職8名(臨床心理士、精神保健福祉士、精神科医)を対象として、分析テーマを「妊娠出産子育てという体験の中で、女性心理援助職がセラピストとしての自分を見つめ直していくプロセス」と設定し、事前の質問紙と1回30分から1時間の半構造化面接のべ41件により、セラピストの妊娠出産子育て経験やクライエントとの関係等を尋ねた。得られたデータを逐語化し、修正版グラウンデッド・セオリー(木下, 2017)の方法に従い分析し、15の概念と5カテゴリーを生成した。結果図とストーリーラインから、女性心理援助職はまず自身の妊娠を知り,自責感を抱きつつ,セラピストとしての<不十分さに直面する>。そのプロセスのひとつの流れとして,【親であることの体験活用】においては<親であることの還元期待>や<親であることの還元> <子育て経験からの現実感覚活用><Clの母親の視点をもつ>という自らの経験をクライエント理解へと還元しようという積極的な動きが見られた。さらにセラピストの内面では【関係性の変化】により<Cl主体の視点>という広がりや,<Clとの距離感への気づき><これまでより一歩踏み込む感覚>を抱くなど,出産前のセラピストとしての自分やクライエントとの関係を現在のそれと照らし合わせるかのような振り返りが生じていた。これらのプロセスにより,さらに【受容感】として<こうあるべきという感覚のゆるみ><Clとゆっくり向き合う>という変化が生じたが,こうした一連の流れを促進したのが,【子育ての現実】における<被援助者として自分を見直す><被援助者の持つ能動性>という経験であった。 これらのプロセスを進めつつ復職したセラピストは,【Thであることの主体性】をもち<子育てと臨床の切り替えと集中><臨床の方向性の明確化>を経験しつつ,<不十分さを受け入れる>という終点へと進んでいった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に基づき、妊娠中の女性セラピスト(臨床心理士等援助職)に対して面接を行い、半構造化面接において得られた語りを検討することを通じて、妊娠出産を通したクライエントとの関係の変化についての気づきやセラピストの女性性と職業継続についての意識の関係を明らかにすることを目的として、①クライエントとの関係性 ②妊娠・出産を通してのセラピスト自身の女性性の発達 ③女性職業人としての成長プロセスを明らかにする方向で研究を進めている。すでに学会報告、研究会報告、論文投稿などの過程において、①と③についてはほぼ計画通りに進んだと考えられるが、②については今後さらに分析方法を工夫し、協力者を追加した形で再分析を行うことを考えている。本研究においては質的研究法のM-GTA法を分析方法として選択して分析を行ったが、分析結果をM-GTA研究会報告した際に受けたいくつかの技法上の重要な指摘を生かす形での再分析を計画している。具体的には、すでに分析を行った8名分(臨床心理士、精神保健福祉士、精神科医の妊娠前と出産後、復職前後を含む)のインタビューの中から1部(臨床心理士の出産後復職後のみ)と新たな復職後の追加インタビューを分析対象とし、分析テーマを「妊娠出産子育てという体験の中で、女性心理援助職が母親としての自分を見つめ直していくプロセス」として再分析を行う予定である。この再分析により、セラピストの女性性についても言及した考察が可能となり、先に挙げた3点の研究計画が達成される予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
M-GTA法の分析方法をより的確に用いることで、リサーチクエスチョンに則した結果を得ることを目的として、新たな協力者のインタビューデータの追加と、すでに分析を行ったインタビューデータのうち、再分析の対象に適したデータのみ抽出して分析を行う。具体的には、本研究のインタビューデータの中から、8名分のインタビュー中6名(臨床心理士の復職後のみ)と新たな協力者のインタビューを追加して合計10名分を分析対象とし、分析テーマを「妊娠出産子育てという体験の中で、女性心理援助職が母親としての自分を見つめ直していくプロセス」(「妊娠出産子育てという体験の中で、女性心理援助職がセラピストとしての自分を見つめ直していくプロセス」からの修正)としてM-GTA法による再分析を行う予定である。この再分析から得られた結果をもとに、②妊娠・出産を通してのセラピスト自身の女性性の発達 という研究目的に対応した結果を得られることを目指し、最終的には「心理臨床における母性の働き」という研究テーマに則した考察を進める。 これらの目的を得るための再分析の課題としては、技法上の問題を修正していくためのM-GTA法の熟練者によるスーパーヴィジョンを受ける機会の確保、それに伴う分析焦点者と分析テーマの再設定の妥当性の検証、さらに分析焦点者として適した協力者の確保などである。これらの課題に対応するため、今後も引き続き研究会に参加しながら、本研究への協力を求めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
本研究の質的分析を行うに当たり、M-GTA法の熟練者の協力を求めて2回M-GTA研究会での発表希望を出したものの、他の発表希望者との調整から、実際に発表を行うことができたのは、2019年3月であった。そのため、学会発表と論文投稿については、それ以前に進めていたため、個人的なスーパーヴィジョンなどを受けつつ、主に自分自身で分析を進めることとなった。当該年度に予定していたスーパーヴィジョンの謝金などは次年度使用となった。 また、当初は協力者1名につき、10回程度までのインタビューを想定していたものの、M-GTA法での理論的飽和が当初よりも早く生じたと判断され、その結果としてインタビュー回数は計画されたものより少なくなり、当該年度での謝金が想定を下回ることとなった。しかしながら、M-GTA法のより適切な使用を目指すため、分析テーマと分析焦点者を修正した再分析を今後計画しており、その際にインタビューの追加が必要とされることとなった。その際に、追加の協力者への謝金が次年度使用となった。 旅費について、当該年度に日本質的心理学会と日本精神分析学会の日程が重なるなど、想定外の事態から学会出張の回数が減ることがあり、旅費や学会参加費が当該年度の想定額を下回った。これらも次年度使用額として、学会出張日程の調整を行っていくこととする。
|