2022 Fiscal Year Research-status Report
実環境における物体色知覚および照明光推定機構の心理物理実験と分光計測による解明
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17K04503
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
福田 一帆 工学院大学, 情報学部(情報工学部), 准教授 (50572905)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 照明光 / 分光計測 / 色覚 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトは物体の色を知覚するときに無意識に照明光の影響を差し引くことにより,多様な照明環境においても安定した色の見えを実現していると言われている.しかし実環境における照明光の変容は非常に大きい.自然光は天気や時間帯により変容し,その色は日没前の夕日の暖色から昼間の青空の寒色まで様々であることは良く知られている.また,自然光の色は空間的にも変動が大きい.例えば昼間の屋外の照明光は,主に太陽からの白色の直射日光と,太陽光が大気により拡散されて生じる寒色の天空光からなる.そのため,直射日光と天空光の両方に照らされる日なたの領域と,直射日光が遮られて天空光のみに照らされる日陰の領域とは照明光の色は大きく異なる.また,周囲の物体による二次反射の影響,物体表面の法線方向の太陽の方位に対する角度なども,照明光の空間変容に影響する.このような実環境における複雑な照明光に対するヒトの照明光推定機構および物体色知覚の性質を明らかにすることが本課題の目的である. 本年度は,屋外の不均一照明を記録する計測実験を実施した.計測実験では,昨年度までに構築した手法を用いて,屋外における照明光のスペクトル(分光特性)の空間変容をハイパースペクトルカメラにより近似的に記録する計測実験を実施した.その成果として,機器により記録した各シーンにおける一画素ごとの光のスペクトル情報から,天空光を一様照明と仮定して,太陽の直射光と被写体の分光反射率それぞれの空間変容を分離して記録できたことが確かめられた.これにより,従来法では個々の地点で計測が必要であった実空間の不均一照明を,二次元画像として記録できることを示した.また,直射光と天空光それぞれを任意のスペクトルの光源に置き換えたシミュレーション画像を作成することも可能であり,不均一照明下の色知覚の心理物理実験の刺激画像などに応用できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
申請当初の研究計画に対して,不均一照明の分光計測手法の見直しおよび感染症対策による心理物理実験の準備と実施計画の見直しが必要となったため,進捗が遅れている.しかし,不均一照明を記録するための分光計測手法については,研究課題期間中に新たに簡便な計測手法の考案に至り,昨年度は実験室で複数光源に照明されたシーンの計測を実施し,今年度は屋外の自然光に照明されたシーンの計測を実施した.これらの計測手法とその計測結果については,現在論文を執筆中である.また,照明光や物体色の知覚特性を明らかにするため,照明光の記憶と再現に関する心理物理実験,色票周辺における立体の自然物の存在有無によりシーンの実物感をコントロールして色知覚を比較する心理物理実験を実施した.以上の進捗に加えて,本研究課題における模索の過程により発見した新たな錯視現象について,昨年度にコンテスト応募,今年度に現象を記述した学術論文の投稿,錯視現象を心理物理実験により示した結果の学会発表を実施した.この錯視現象は,周辺に向かい輝度が低下する放射状の輝度変化に囲まれた白色が輝いて見えるグレア錯視を生じる図形を格子状に複数個配置することにより,輝く光源に見えたり立体物に見えたりという知覚交代を繰り返す現象である.この錯視現象の有用性として,明るさ眩しさの知覚,光源と物体の色知覚などに新たな知見をもたらす可能性があり,観察時の知覚様態および生体反応を調べる研究を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度から今年度にかけて実施した独自手法による不均一照明の分光計測実験について,次年度は成果発表のためのデータの可視化を完了させる.この計測実験では,被写体となるシーンを横N×縦M画素の各画素における光のスペクトルを計測し,そのデータから画素ごとに,太陽の直射光,天空光,被写体の分光反射率を分離して記録した.これらのデータから,次の手順でデータを可視化する.(1)各画素における太陽の直射光と天空光のスペクトルを足し合わせることにより照明光のスペクトルを求める.(2)各画素における照明光のスペクトルをRGB画像に変換して照明色の空間変容を画像表示する.(3)各画素における照明光のスペクトルをCIE1931 xy色度に変換して色度図上にプロットして色度の変容範囲を明示し,CIE昼光の軌跡と比較する.(4)白色の幾何学立体のみを被写体として配置したシーンを基準条件として,自然風景を被写体としたシーンとの照明光の色度範囲の違いを比較する.これらの計測およびデータ処理の手法とその結果をまとめて,学術誌に論文を投稿する計画である.また,計測実験において取得したデータから作成した,自然風景の照明光を任意のスペクトルの光源に置き換えたシミュレーション画像を用いて,不均一な照明光環境における色知覚についての心理物理学的な研究を実施する.この実験では,特に自然風景における照明光の空間変容に対して,視覚系がどのように照明光を推定するのかを明らかにすることに着目する.
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Causes of Carryover |
感染症対策による研究計画の変更,投稿した論文の査読期間が長期に及んでいることなどにより,論文投稿と学会発表のための予算に次年度使用額が生じた.次年度使用額は論文の掲載掲載料および学会発表の参加費交通費に使用する計画である.
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