2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K04505
|
Research Institution | Hoshi University |
Principal Investigator |
川崎 勝義 星薬科大学, 薬学部, 准教授 (20339526)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 行動対比 / 予期的対比 / オペラント条件付け / 道具的条件付け / 脳内メカニズム / ラット |
Outline of Annual Research Achievements |
予期的対比(AC)は、後により価値の高い報酬が与えられるとき、それ以前に与えられる報酬へのアプローチが減少することを言う。例えば、休憩後に32%の甘いショ糖液を舐めることができるラットは、休憩前に舐められる4%のショ糖液を飲む量を減少させる。しかし、ラットのACは完了行動でのみ確認され、道具的行動においては見られないとされてきた。本研究はラットの道具的行動においてACが見られる条件を見いだし、脳内メカニズムを探ることを目的としている。H30年度は、前年度に引き続きAC発現に関するパラメータの検討を行った。報酬量と強化スケジュールのパラメータを組み合わせる実験とコンポーネント間間隔(ICI)に関する実験であった。これまで、1日に1回被験体に与えられる実験の手続きのうち、休憩前を第1セッション、休憩後を第2セッションと呼んでいたが、今後これをそれぞれ第1コンポーネント(1st.comp)、第2コンポーネント(2nd.comp)と呼び、その間に挟まれる休憩をICI、1日の実験手続きすべてをセッションと呼ぶ。 パラメータを組み合わせる実験では、被験体にFR3スケジュール(3回のノーズポーク<NP>に対して1粒の餌報酬が与えられる)でNPを学習させた。その後被験体はP3R1群とP1R3群の2群に分けられ、それぞれ2nd.compにおいて3回または1回のNPで1粒あるいは3粒の報酬ペレットを与えられた。1st.compでは両群とも、FR1、報酬1であった。その結果、P1R3群において1st.compでのNPが有意に抑制され、ACが発現することが明らかになった。 ICIパラメータを検討する実験においては、コントロール群(P3R1)の他の3群はすべてP1R3であったがICIを5秒,30秒,180秒の3条件とし、有意ではないもののICIが長くなることでACが小さくなる傾向にあった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H30年度においてはH29年度に引き続き、これまで確認されていない「道具的行動」における「予期的対比」について確認するとともに、その発現に関与するパラメータに関する研究を行った。H29年度中には「道具的行動」において「予期的対比」が確認できなかったため、H30年度に条件を工夫して、さらに「予期的対比」が確認できなければ計画を変更し、「道具的行動」ではなく、これまでにも確認されている「完了行動」における脳内メカニズムを検討する予定であった。しかし、報酬量と強化スケジュールのパラメータを組み合わせることによって、はじめてラットの「道具的行動」における「予期的対比」を確認することができた。 その後、コンポーネント間間隔パラメータについても実験を行うことができ、これらによって、およそ「予期的対比」に関与する脳内メカニズムを推測することができた。H29年度末に行われた予定外の空調工事による若干の遅れをいぜん引きずってはいるものの、今年度パラメータを十分検討することができたことにより今後すぐに取り戻せると思われるため、研究全体はほぼ予定通り推移しているものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
H30年度まで進めてきた研究により、ラットの道具的行動においては見られないとされてきた「予期的対比」がノーズポーキング行動において見られることを世界ではじめて示すことができた。H29年度においては、ノーズポーキング行動を用いて「報酬量パラメータ」ならびに「強化スケジュールパラメータ」の影響について検討してきたが、いずれのパラメータの効果も限定的で平均値上では「予期的対比」が観察され、第2セッションにおいてより有利な報酬が与えられた動物ほど第1コンポーネントにおいてノーズポーキングを抑制する傾向が見られたものの、いずれも統計的に有意な「予期的対比」は観察することができなかった。この原因を、検討したパラメータの範囲にける行動への影響が限定的で個体差による分散に埋没してしまったものと考え、より個体差が小さいと考えられる近交系ラットを被験体とするなどの対策を考えていたが、2つのパラメータを組み合わせることで1行動あたりの報酬価を広げることにより「予期的対比」が得られる条件を見いだすことができた。したがって、今後においてはこれまでに見いだした条件(第1コンポーネントにおけるFR3スケジュール1粒報酬、第2コンポーネントにおけるFR1スケジュール3粒報酬、ICI30秒)を用いて実験を行うこととする。 さらにH30年度においては、脳内メカニズムの検討を始めるためにその候補部位を探る目的でICIパラメータの検討を行い、古典的条件付けの関与を示す結果を得ることができた。これによって、いくつかの候補部位を特定できたものの、残された時間を考えるとさらに候補部位を絞る必要があると考えられる。H31(R元)年度は国際学会などで成果を報告すると同時に、早急に脳内関連部位の候補を絞り込みを行い、候補となった脳部位を対象としたNMDA微量投与法などによる損傷実験を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
H30年度、脳部位損傷手術を行うための装置を購入する予定で予算を申請していたが、行動実験を行うために維持している装置が一部老朽化し故障があいついだいだため、急遽これを代替する部品を購入する必要が生じた。そのために予算を振り分け、差額が生じた。次年度助成額と合わせて、今後必要となる報酬用餌ペレット購入代金として使用する計画である。
|