2018 Fiscal Year Research-status Report
戦後開拓地における学校を基盤とした地域文化の形成過程に関する歴史的研究
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17K04519
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
高瀬 雅弘 弘前大学, 教育学部, 教授 (20447113)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60225050)
福島 裕敏 弘前大学, 教育学部, 教授 (40400121)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 戦後開拓 / 学校 / 地域社会 / へき地教育 / 教師 / 共同性 / 生活綴り方 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来の地域教育史・地域社会史研究において十分に検討されてこなかった、戦後開拓地における地域社会や文化の形成と、学校の設立・維持の過程との相互関係を捉え、ローカルなレベルでの学校化がどのように受容・利用されたのかを明らかにしようとする試みである。平成30年度の研究実績は以下のとおりである。 1.学校所蔵資料の整理:平成29年度に実施した青森県鰺ヶ沢町の学校資料の所蔵調査に基づき、町内の小中学校において統合された学校の資料整理を行った。これらのうち戦後開拓地に所在した学校の関係資料については、資料リストの作成と一部写真複写を実施した。 2.文献資料の収集と分析:上記学校所蔵資料の調査に加え、青森県内の図書館が所蔵するへき地教育関係資料、生活綴り方教育関係資料を収集し、他県を対象に行われた先行研究と対比させることで、本研究が対象とする鰺ヶ沢町ならびに西北津軽地域の特性を把握し、位置づけを行った。 3.聞き取り調査:青森県鰺ヶ沢町において、戦後開拓地の学校での勤務経験をもつ元小中学校教員2名を対象に、当該校での教育実践、地域社会との関わり、児童生徒の特徴、進路指導の様態、周辺他地域からの戦後開拓地へのまなざしの質、といった点について聞き取りを行った。併せて旧小学校分校校舎を利用した集会所において、かつての在籍児童と保護者を対象に、主として1960年代後半から70年代前半の学校と地域の状況について、座談会形式での聞き取りを行った。 4.データ分析:今年度は、収集した文書および文献資料について、青森県内のへき地教育のなかでの位置づけに重点を置いた分析を進めるとともに、聞き取り調査の内容を分析した。今年度の研究から明らかになったのは、ひとつは戦後開拓地における学校と地域社会との相互作用に見られる双方向的な積極性であり、もうひとつは教師のライフコースにおける戦後開拓地経験の意味である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究計画に挙げた1.文献資料の収集と分析、2.学校資料の調査と整理、3.聞き取り調査(個別・集団)の3項目は、いずれも予定通りに着手、進捗している。 このうち2.学校資料調査と整理については、小学校に関しては、統合校に収容された各校の資料残存状況を把握し、これらを管理する鰺ヶ沢町教育委員会との連携協力のもとに整理収納作業を実施し、その全体像を把握するに至った。その結果、戦後開拓地の学校と、他のへき地校との比較から、前者の特徴を把握することが可能となった。一方、中学校については、学校統合の過程において相当量の資料が廃棄されていることが明らかとなり、残存する資料の整理と、学校文書資料に代わる資料の収集・分析という課題が浮かび上がった。 3.聞き取り調査については、前年度に引き続き、個別聞き取りを通して、元教師の視点から見た戦後開拓地の学校のありようや、地域社会と学校の関係に見られる特徴が明らかになりつつある。同時に、今年度に聞き取りを実施した元教師のなかには、複数の戦後開拓地の学校での勤務経験をもつ人がおり、その証言からこれまで主たる研究対象としてきた鰺ヶ沢町の戦後開拓地以外の地域と学校について調査・研究する必要性も明らかとなった。この点については、すでに他の地域・自治体の関係者とコンタクトを取り、今年度に資料調査と聞き取り調査を行う準備を進めている。複数の戦後開拓地とそこにおける学校の比較検討は、先行研究でもこれまでほとんど行われておらず、本研究の意義を高めるものである。また、集団聞き取りを通して、学校維持という観点からの地域と学校の関わりの具体相が明らかとなった。 以上のように、本研究の当初の目的についてはおおむね順調に達成されていると考えるが、同時に新たに取り組むべき課題が発見された。これらについては、今年度において引き続き分析・検討を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の最終年度となる令和元年度は、以下のような形で研究を進める。 1.マクロデータとミクロデータの関連づけ:これまでに収集を行ってきた、青森県内の教育と農業に関する基本的資料、とくに1950~60 年代の教育・農業関連の統計資料、開拓地の営農状況に関する調査資料といったマクロデータから鰺ヶ沢町と西北津軽地域の社会変動を把握し、そのうえで学校資料、聞き取り調査のデータ、児童生徒の作文といったミクロデータを読み解きながら、両者を関連づけ、そこに表れた学校や地域の位相を把握する。 2.他の戦後開拓地の学校関連資料の調査:これまで調査研究の対象としてきた鰺ヶ沢町に隣接する深浦町において、戦後開拓地の学校に関する資料調査を行う。なかでも学校沿革史や創立記念誌、地域史といった資料を重点的に収集・分析し、その歴史的展開について把握する。同時にこれまで分析してきた戦後開拓地との比較検討を行うことで、両者の共通点/相違点について分析を行う。 3.聞き取り調査:引き続き戦後開拓地の学校関係者へのインタビューを継続して行う。上記2.と関連して、対象を鰺ヶ沢町から深浦町など、西津軽郡の他の自治体にまで広げ、それぞれの視点からの学校体験の意味づけについて聞き取りを行う。その際には世代間の相違にも配慮する。卒業生に関しては、地元に在住者へのインタビューを予定しているが、他地域に移住した人については、同窓会への出席などを通しての調査も実施できるよう対応する。 4.データ分析:収集した文献、文書資料およびインタビューデータをもとに、戦後開拓地における地域文化の形成に対して学校が果たした役割について総括的な分析を行う。マクロな社会変動とミクロな学校・地域社会の動き、さらには学校での教育実践とを相互に関連づけながら、これらの関係構造を読み解くことで、戦後開拓地をめぐる人びとにとっての学校の意味を明らかにする。
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Causes of Carryover |
資料収集調査および聞き取り調査の日程を、相手方の都合により短縮することになり、旅費の所要額が当初の予定よりも少なくなったため、次年度使用額が生じた。これについては次年度に実施する現地調査の旅費ならびに物品費(文献および資料購入費用)として使用する。
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Research Products
(1 results)