2017 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical Research on the Political Neutrality of Public Education
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17K04530
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小玉 重夫 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 教授 (40296760)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | シティズンシップ / 政治教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる改正公職選挙法が、2015年6月に成立し、2016年夏の選挙から18歳以上による投票が実現した。18歳選挙権の実現は戦後史におけるきわめて大きな転換であり、戦後の教育においてタブー視されてきた政治と教育の関係を問い直す大きな契機となる可能性がある。本研究では、以上のような今日的局面を、教育の再政治化という思想史的な文脈のなかでとらえ、そのことの思想的意味を、特に教育の政治的中立性に関する思想的転換という視点から、深く探究することを目的とする。従来の研究では教育は政治から独立した自律した領域として扱われる傾向が強かったが、本研究では、18歳選挙権の成立以後の日本を教育と政治が相互浸透している段階としてとらえ、それを見すえた新しい政治的中立性概念の構築を目指す。 本年度は、歴史的課題に焦点化し、18歳選挙権の実現が日本の政治史上きわめて大きな制度変更であったこと、さらに、戦後の教育においても、これまでタブー視されてきた政治と教育の関係を問い直す大きな契機となる可能性があることをふまえて、現代の学校教育が立っている歴史的な位置を、教育の再政治化という思想史的な文脈のなかでとらえ、そのことが政治的中立性におよぼす意味を、日本の戦後教育史における1950年代(教育が政治化していた時代)、1960年代以降(教育が脱政治化していく時代)、1990年代以降(教育が再政治化していく時代)のそれぞれに即して分析し、学校における虚構性の変容、虚構と現実の相互浸透という視点から、戦後日本における教育の政治的中立性が直面する今日的な固有性を明らかにした。また、沖縄と日本の関係をふまえたシティズンシップ教育の視点からの政治教育の可能性についても、実践的な視座を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、歴史的課題への焦点化を文献調査に限定して行う予定であったが、2017年の夏に沖縄に、冬に能登に、総合学習の視察出張を行い、戦後の歴史的展開のなかでの政治的中立性の位相変容を、具体的な現代の実践的な課題と関わらせながら解明していくことが可能となった。 すなわち、生徒が境界を越境し異質な他者と関わるなかで、自らのアイデンティティを相対化し、政治的な主体として形成されていく過程が明らかになった。教育には、可能性(できること)があらかじめ想定される領域がある。これは必然性によって定義される教育といえる。しかし政治的市民、民主主義の担い手の教育は、そうした可能性(できること)をあらかじめ想定することが困難な教育であり、したがって、偶然性に定位した教育、教育哲学者のタイソン・ルイスがいう可能性と不可能性の間にとどまることに定位した教育である。この点を他者との関係性に関わる視点に拡張すれば、教育哲学者のガート・ビースタは述べるように、「その焦点は私たちが他者と共有する世界において主体としていかに存在しうるかという点にあてられている。」のであり、「このことは、私のアイデンティティの中断を、いいかえれば、私が私と共にあることの中断を伴う。」といえる。こうしたアイデンティティの中断こそが、普遍的な超越性に定位しない教育における政治的中立性の新たな地平を開くものであることが明らかとなったことは、想定された以上の成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は、理論的課題に焦点化し、日本のみならず欧米で1980年代以降展開されている教育の政治的中立性をめぐる理論状況の展開をふまえつつ、教育の政治的中立性に関する理論パラダイムの革新を遂行することをめざす。すでに拙著(『教育政治学を拓く』)で明らかにしたように、アルチュセールのイデオロギー論のインパクトを経て、1980年代以降の中立性をめぐる理論パラダイムは教育と政治の相互浸透を前提とした新しい段階に突入している。2000年代に入るとそうした段階をふまえた新たな理論構築を提案する研究も出されるようになってきている(たとえば、LILIA I. BARTOLOMÉ(ed), Ideologies in Education: Unmasking the Trap of Teacher Neutrality, Peter Lang, 2008)。これらの理論動向をふまえつつ、政治の外部での中立性確という従来の理論的前提を刷新し、教育と政治が相互浸透している局面における政治的中立性の成立条件を、その可能性と不可能性の双方を視野に入れつつ理論的に探究し、教育の政治的中立性に関する新たな理論的パラダイムの構築を行う。あわせて、海外からの研究者の招聘や交流によって、理論的な革新と結びついた実践的展開の可能性を探究することを予定している。
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Causes of Carryover |
当該年度に予定していた海外からの研究招聘を見送り、次年度にその招聘、および国際シンポの開催を予定しているため、そのための資金を次年度使用額として確保した。
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