2018 Fiscal Year Research-status Report
未来社会志向の単元習作ワークショップと理論の研究-システムと生活世界を手がかりに
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17K04533
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
金馬 国晴 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (90367277)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ワークショップ / 単元習作 / 形式化 / システム / 生活世界 / カリキュラム・マネジメント / パフォーマンス心理学 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
目的の第一は,理想の社会像を描くこととその実現とを教師や子ども達が共に試みるような未来社会志向の単元を,教師・市民・学生が参加するワークショップを開いて構想・試作することであった。これまで得られた知見と論点,およびその捉えの根拠となる戦後初期の事例の分析を,実践記録集への寄稿と,学術論文とにまとめた。 単元習作ワークショップは5回行なった。フィリピン視察の報告をもとにした会,高校生対象のインターンシップと教職課程学習体験の他に,集会分科会に続けて30分間で,校内研修でビデオ資料をもとに60分間でやり切る会を初めて試みた。綿密な計画の実施という「形式」にこだわらず,コンセプトとコンテンツを明確に持てば,プロセスは参加者とその場の状況に合わせるワークショップが行え,理想の社会性のイメージともなるとわかった。 目的の第二としては,理論的な道具として,ユルゲン・ハーバマスの〈システムと生活世界〉論を研究し活用することであった。この論における「植民地化」論を,政治・経済のシステムが生活世界に浸透してくることでの「形式化」問題として捉え直せ,上記のようなワークショップをその克服策の一つとして活用するような見通しをつかみかけた。 こうした「形式化」克服の視点が,ニューヨークでパフォーマンス心理学を提唱し実践する研究所のプログラムや,日本質的心理学会の現象学のセミナーほかに参加することでいくつか得られた。この視点とは,生活世界の側を豊かにイメージさせるものであった。 以上を通じて,こうしたワークショップでの語り合いが,会話・議論・活動を豊かにする試みが固いシステムを緩める一つの風穴として機能し得る,という見通しが立った。こうした発想から教育課程・カリキュラム,教育史ほかを捉え直したものとして,大学のテキスト『カリキュラム・マネジメントと教育課程』を編集・執筆することもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以上のような知見・視点を得るまでに,様々な作業を多方面に進展させた。 上記のワークショップにおける,研究集会との共同としては,神奈川県民教での総合学習分科会の他に,新たに県組合の教育研究集会のミニWSを加えた。さらに講演や講義での活用としても,引き続き本学での高校生インターンシップ,神奈川県立総合教育センター主催の高校生のための教職課程学習体験で,また本学の講義(初等生活科教育法,初等社会科教育法,教育課程・教育方法論など)で,理想の授業案・単元案・学級・学校案づくりのファシリテートを試みた。加えて,社会思想史演習Bでは,さらに「システム思考」のワークショップへと発展させ,未来社会のイメージやプランづくりにも活用することができた。 リソースとして,学会大会,研究会,講演会,シンポジウム,ワークショップなど,教育や社会問題に関する企画に,科研費を使わないものも含めると198件参加した。これらから得た情報やその視点・発想を,上記や学術論文,雑誌論文でも活用することができた。 参考文献の整備でも,教育学関連と隣接する分野の文献購入とともに,今後の必要に即して活用すべく追加配架を行なった。とくに日本社会,アジア関係,ESD,新教育課程などに関する文献の動向や,様々な学問研究の個々の深まりと互いへの広がりが把握できた。 以上を踏まえ,単元習作に関する理論・歴史の論文1件と実践記録集への掲載文を,これまで書き貯めてきた単元習作ワークショップの事前・事後のメモや,参加者アンケートなどを集大成して完成させ,発表することができた。また,コア・カリキュラムについて,戦後初期の小学校が作成した研究紀要を集成した資料集(東日本編)を完成させることで,今後の単元研究と〈システムと生活世界〉研究とに実証的に活用し得る資料がまとめられた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,時事的なテーマも含めたワークショップを,現場教員や市民・専門家とも連携して開くが,加えて日本教師教育学会の特別課題研究Ⅰ「防災教育・学校安全と教師教育」,横浜市ESD推進コンソーシアムなどとも連携し,このワークショップを研修・計画の方式として展開・普及することも模索する。データも取り,記録やメモを蓄積して,それらをシステムと生活世界の理論などを活用しつつ整理・分析することを引き続き試みる。併せて,システムと生活世界の理論を使って分析できる事例やその問題解決をめざす抵抗線となりうる要素を拾い出し,分析を深める。とくに昨年度参加したニューヨークのパフォーマンス心理学のワークショップはそうした事例を峻別し,分析する際に参照できる。 さらに,教育課程・教育方法論,および同科目の非常勤講師としての科目,とくに当研究の応用・実践の意図も含めた社会思想史演習AおよびBでは,学生自ら思想やいわゆるマイ・カリキュラムの形成と,それらを活用しての社会の未来像,あるいは学校の授業案・単元案のデザイン過程を支援することをめざす。その際の足がかりとして,当年度にまとめた編著『カリキュラム・マネジメントと教育課程』を活用する。初等生活科教育法,初等社会科教育法との関連でも,ふりかえりに当研究の知見と成果を活かしたり,学生たちの感想から学びとったりすることで,当研究を大学や学校の実践へと活用できる見通しを得たい。 以上をもとに,研究会や学会大会での発表・報告や論文化も試みていくが,ここにこれまで数回の科研におけるコア・カリキュラム研究,とくに戦後初期の小学校が作った冊子類を編集・復刻した東日本編,続いて編集中の西日本編を活用し,また中学校編にも着手する。
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Causes of Carryover |
・2018年度末に予定されたニューヨーク出張に多額の航空運賃,宿泊費,諸経費がかかると予想していたが,実際はかなり節約できたとともに,2019年度に行くこととなった中米出張の方により多額な費用がかかるとわかったため。年度当初にその出張で,繰り越し分も含めて多くを消費してしまう。 ・学内委員会,育児,講義と,本研究以外のことにかなりのエフォートを傾ける年になったため。
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Research Products
(5 results)