2019 Fiscal Year Research-status Report
未来社会志向の単元習作ワークショップと理論の研究-システムと生活世界を手がかりに
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17K04533
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
金馬 国晴 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (90367277)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ワークショップ / 単元習作 / 生活世界 / システム / 研修 / 新教育 / キューバ / コミュニケーション |
Outline of Annual Research Achievements |
目的の第一は,理想の社会像を描くこととその実現とを教師や子ども達が共に試みるような未来社会志向の単元を,教師・市民・学生が参加するワークショップを開いて構想・試作することであった。これまで得られた知見と論点,およびその捉えの根拠となる戦後初期の事例の分析を3冊の大学テキストの4章分にまとめ,とくに単元習作の方法論として明文化して掲載できた。基礎資料として,『戦後初期コア・カリキュラム研究資料集』の続編を編集・刊行し,日本教育方法学会の大会と研究集会で,関連する報告を行なって参加者と論議をすることで,現在の総合的な学習やカリキュラムの全体構成,その始源としての新教育に関する研究に資する視点を得ることができた。 単元習作ワークショップは応用も含めて4回実施した。現場教員向けの研究集会分科会で2件,高校生向けの教職課程学習体験の他に,保育士研修でも試みた。また,総合的な学習の時間に関する新設講義では,これまでの成果を実験することができ,上記の大学テキストの草稿を検証することにもなった。それらを通じて,多彩な意見を創発するために,いかなるワークの形式が必要か,ということを具体的に考えることができた。 目的の第二としては,理論的な道具として,ユルゲン・ハーバマスの〈システムと生活世界〉論を研究し活用することであった。キューバ渡航を通じて視察した小中高校や日常生活の事例を通じて,コミュニケーションの重要性他について考察し,報告集にまとめた。関連する視点が,年間150件以上の研究会,シンポジウム,実験検討会などに参加することで何点も得られた。この視点とは,生活世界の側からシステムを押し返す見通しに関わる。 以上を通じて,こうしたワークショップや講義・研修での語り合いや,議論・活動を豊かにする試みが,固いシステムを緩める一つの風穴として機能し得る,という見通しが立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以上のような知見・視点を得るまでに,様々な作業を多方面にわたって進展させた。 上記のワークショップにおける研究集会との共同としては,神奈川県民教での総合学習分科会に加えて,日本生活教育連盟の「生活科と総合学習」分科会でも再び試みた。さらに講演や講義での活用としても,引き続き神奈川県立総合教育センター主催の高校生のための教職課程学習体験で,また本学の講義(新設の総合的な学習の時間の理論と実践を含む)で,理想の授業案・単元案・学級・学校案づくりのファシリテートを試み,その成果として,単元習作の方法論などを2冊の大学テキストに掲載した。加えて,社会思想史演習Bでは,「システム思考」のワークショップをさらに発展させ,未来社会のイメージやプランづくりに活用し,方法論を理論的にも磨くことができた。 リソースを得るべく,学会大会,研究会,講演会,シンポジウム,ワークショップなど,教育や社会問題に関する企画に,科研費を使わないものも含めるとほぼ2日に1回のペース,多くて1日で3件の割合で参加した。市民やNPOの企画にも積極的に参加した。これらから得た情報やその視点・発想を,上記や学術論文,雑誌論文でも活用することができた。 参考文献の整備でも,教育学関連と隣接する分野の文献購入とともに,今後の自身の研究と貸与に活用すべく追加配架を行なった。とくに日本の社会と教育,新学習指導要領などに関する文献の動向や,哲学や歴史など様々な近接領域への広がりが把握できた。 以上を踏まえ,大学のテキストの分担執筆(未刊行を含む)3件以外にも雑誌論文2件を完成させ,発表することができた。また,コア・カリキュラムについて,戦後初期の小学校が作成した研究紀要を集成した資料集(西日本編)を完成させることができ,今後の単元研究と〈システムと生活世界〉研究とに実証的に活用し得る資料をまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,時事的なテーマも含めたワークショップを,現場教員や市民・専門家とも連携して開くが,新型コロナウィルス流行のため困難が予想されるが,日本教師教育学会の特別課題研究Ⅰ「防災教育・学校安全と教師教育」などと連携し,このワークショップを研修・計画の方式として展開・普及する準備は進めたい。理論的にも,事前でのシステムと生活世界といった理論に関連づけたテーマ設定や,事中のワークショップ内での発問や進行の具体,そして事後のふりかえりと分析に関する考察などを深める。以上についてのデータも取り,記録やメモを蓄積して,整理・分析することを引き続き試みる。併せて,システムと生活世界の理論を使って分析できる事例やその問題解決をめざす抵抗線となりうる要素を拾い出し,分析を深める。 さらに,教育課程論,および同科目の非常勤講師としての科目,総合的な学習の時間の新設科目,とくに当研究の応用・実践の意図も含めた社会思想史演習AおよびBでは,学生自ら思想やいわゆるマイ・カリキュラムの形成と,それらを活用しての社会の未来像,あるいは学校の授業案・単元案のデザイン過程を支援することをめざす。オンライン講義も実施せざるをえないが,それがコミュニケーションとしていかに代替になるかとともに,システムを使いこなす積極的な意義を実はもちうる,との仮説をもって実践かつ研究を進めていきたい。初等教科教育法(生活),初等教科教育法(社会)との関連でも,ふりかえりに当研究の知見と成果を活かしたり,学生たちの感想・小レポートから学びとったりすることで,当研究を大学や学校の実践へと活用していく見通しを得たい。 以上をもとに,雑誌論文などでの発表を模索する。少なくとも,これまで数回の科研におけるコア・カリキュラム研究,とくに戦後初期の小学校が作った冊子類を編集・復刻した東日本編,西日本編に続く附属校編は完成させる。
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Research Products
(6 results)