2020 Fiscal Year Research-status Report
未来社会志向の単元習作ワークショップと理論の研究-システムと生活世界を手がかりに
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17K04533
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
金馬 国晴 横浜国立大学, 教育学部, 教授 (90367277)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ワークショップ / オンライン / ブレークアウト / ホワイトボード / Miro / 活用 / システム / 生活世界 |
Outline of Annual Research Achievements |
目的の第一は,理想の社会像を描くこととその実現を教師や子ども達が共に試みるような未来社会志向の単元を,ワークショップを開いて構想・試作することであった。2020年度はコロナ禍に当たったため,会を開催することの困難と多忙さから,この点での実績は少なかった。ただ,大学講義におけるワークショップの試行では,オンラインツールの活用に取り組むことができ,zoomのブレークアウト,ホワイトボード,勤務校の授業支援システムにおけるディスカッション機能,掲示板,さらには付箋紙ワークツールのmiroなどを臨機応変に駆使できた。それらでワークショップの代替をめざすとともに,対面しないがツールを介在させたワークショップの可能性について考え,実験的な実践がかなり積めた。他方で,これまで得られた知見と論点を,とくに総合的な学習の時間について,大学テキストとして共同編集し,一章分を分担執筆できた。 目的の第二は,理論的な道具として,ユルゲン・ハーバマスの〈システムと生活世界〉論を研究し活用することであった。関連する視点が,研究会,講演会,シンポジウム,公開授業などに,オンラインによるものも含めて例年より多い計200件以上への参加を通じて得られた。 以上を通じて,こうしたワークショップや講義・研究会ほかでの論議・活動が,オンラインツールも活用することでかえって豊かになり,生活世界の側から,政治・経済のシステムを活用する一つの事例になり得る,というイメージが具体的に描けた。 以上も踏まえて,雑誌の論考を4件執筆し,発表することができた。また基礎資料として,『戦後初期コア・カリキュラム研究資料集』の第3期・附属校編を編集・刊行することができ,広く教育界への史料提供とともに,編者間の議論を通じて,現在の総合的な学習やカリキュラムの全体構成,その始源としての新教育の研究に資する情報や視点が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はコロナ禍もあって進展が鈍かったものの,多方面への展開が図れた。 ワークショップによる研究会との共同は,例年の会がほぼ中止またはオンラインになったため困難であった。本学の講義(教育課程論,初等教科教育法(生活),初等教科教育法(社会),総合的な学習の時間の理論と実践)における理想の授業案・単元案・学級・学校案づくりについては,チームではなく個人作業にするしかない点で困難を抱えた。とはいえ,zoomや授業支援システムにおけるツールを駆使することで,各人の案を相互交流を通じてブラッシュアップする機会が多く設定でき,オンラインやオンデマンドであっても,ワークショップが進められた。とくに社会思想史演習Bでは,「システム思考」について,Miloによる付せん紙的なワークショップが試行でき,コロナ禍問題を例として,対面で行なうのと同等かそれ以上の質のプランニングが実践できた。 コロナ禍にあっても,オンラインによる学会大会,研究会,講演会,シンポジウム,実践検討会,ワークショップなど,教育や社会問題に関する企画に,無料のものも含めると計200件以上に参加できた。これらから得た情報やその視点・発想を,当研究や雑誌論文でも活用することができた。 以上の準備や考察に活用すべく参考文献の整備と読解も進めることができた。教育学関連と隣接する分野の文献収集とともに,今後の自身の研究と貸与に活用すべく研究室への配架を続けた。とくにコロナ禍,SDGsなど社会問題,教育と哲学や歴史などの近接領域,システム思考に関する文献を収集,整理することで,当テーマの研究見通しが得られた。 とくに,コア・カリキュラムについては,戦後初期の師範学校・国立大学の附属校が作成した研究紀要の復刻資料集(第7・8・9巻)が完成でき,今後の研究において実証的に活用するリソースがさらに整った。
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Strategy for Future Research Activity |
一年間,新型コロナウィルス流行のために開催できなかったワークショップを,現場教員や市民・専門家とも連携して再開したい。まだ対面での実施が難しいと思われる中,2020年度における上述の実験的実践の経験と成果を活用して,オンラインでの開催を模索する。ワークショップについては質的・量的の両面におけるデータとして,記録やメモを蓄積して整理・分析を進める。これに絡めて,システムと生活世界の理論を使って分析できる事例やその問題解決をめざす抵抗線となりうる要素を拾い出し,分析を深める。加えて,新しい科研費基盤研究(C)の開始にあたり,両研究を関連づけて企画・運営と研究を進めていきたい。 さらに,対面講義の再開にあたって,学生自ら思想やいわゆるマイ・カリキュラムの形成と,それらを活用しての社会の未来像,あるいは学校の授業案・単元案のデザイン過程を支援することをめざす。オンラインツールをハイブリッドに併用するが,それがコミュニケーションとしていかに代替になるか否かとともに,システムを使いこなす積極的な意義について,実践しながら研究することで,システムと生活世界の関係をめぐる考察を進めていくことができよう。逆に,講義のふりかえりに当研究の知見と成果を活かしたり,学生たちの感想・小レポートから学びとったりすることで,当研究を大学や学校の授業実践へと活用していく見通しを得たい。 以上をもとに,雑誌論文などの執筆と発表を試みる。また,これまで数回の科研におけるコア・カリキュラム研究として,とくに戦後初期の小学校が作った冊子類を編集・復刻してきたが(東日本編,西日本編,附属校編),続いて中学校編を完成させ,この一連のシリーズを完結させる。その上で,これらの史料と本研究の成果とを活用しての学術的な論文を書き進め,かつ,実践的な論考にも挑戦する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響で,ワークショップが開催できなかった。国内外の出張も実施できず,とくにあらゆる学会大会や現場教員の研究集会,様々な研究会が中止またはオンラインとなったため,交通費,宿泊費が皆無となり,参加費も廉価となった。 かつ学部の中の重要な委員長を務め,コロナ禍の影響を最も受ける例外措置が多い多忙な仕事となったため,研究を進めるどころではない年度となった。 上述したような研究を全面的に回復する過程において,最後の年度となった当助成金を活用していきたい。
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Research Products
(4 results)