2019 Fiscal Year Research-status Report
Japan's Curriculum Administration at the Crossroads
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17K04539
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
磯田 文雄 名古屋大学, アジアサテライトキャンパス学院, 特任教授 (60745488)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 教育課程行政の変容 / キー・コンピテンシー / 大統領制 / リベラルアーツ / 人文知 / 新学習指導要領 |
Outline of Annual Research Achievements |
教育行政課程の変容をもたらした要因として本研究当初から政治主導、グローバル経済を取り上げその分析を行ってきたが、昨年度は新たに教育産業複合体の影響力の強さを指摘し教育産業複合体に翻弄される公教育の現状を考察した。さらに令和元年度は、大統領的行政運営に問題の核心があることを明らかにすることができた。 2001年の中央省庁等改革以来、順次、内閣及び内閣官房機能の強化が進められてきており、行政の「分担管理原則」が崩壊し、大統領制的行政運営が議院内閣制の法制度の下で行われている。その結果、統治者である総理も法の支配に服さなければならないという「法の支配」そのものが機能しなくなっているのである。教育課程行政の変容は、「大統領化する民主主義」(ピエール・ロザンヴァロン)の一つの表れであり、教育行政固有のものではないことを解明した。 キーコンピテンシーを超える対抗実践として、香川大学附属高松小学校及び同附属高松中学校において、教科を重視するとともに「創造」及び「創造表現活動」を創設とする二つの研究開発を進めてきた。本年度の成果は、教科と生活、教科と総合の関係について、石井洋二郎(2020年)のリベラルアーツと人文知の理論を応用し循環型のモデル開発に成功したことである。生活から教科へ、そして、教科から総合すなわち生活へという流れである。特に人文知の概念を取り入れることにより、教科すなわち合理的なるものに対し、人文知すなわち非合理性をカリキュラムにおいて大切にする必要があることを明らかにした。 新学習指導要領を円滑に導入することは極めて困難であることを、論理国語、小学校3年の「自分たちの市」、小学校4年の算数「変化と関数」などで具体的に示した。その上で、新指導要領への対応としては、カリキュラムの中心に「基礎基本」を据えることであることを再確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「教育課程行政」の変容について、広田照幸(2014年、日本カリキュラム学会合同課題研究)は、政治資金規正法の改正、小選挙区制の導入、中央省庁等改革など主要な要因について的確に分析している。また、2014年の内閣人事局の誕生を重視する論者も多い。しかし、それらの要因が折り重なって生じている現状の権力構造を統一的に論じる意見はまだ少ない。 本質的な問題は、行政の分担管理原則が崩壊し、大統領制的行政運営が議院内閣制の法制度の下で行われ、「法の支配」が内閣総理大臣及び内閣官房に及ばないことにある。議院内閣制の法制度の下では各省が分担管理原則に基づいて行政を運営し、各省の行政は「法の支配」に服する。しかし、内閣総理大臣及び内閣官房の行政機能が質量ともに拡大し、大統領制的な行政運営が行われるようになると、議院内閣制を前提とした法制度の支配の及ばない行政領域が大幅に生まれたということである。しかも、国の重要な行政施策においてである。このような統一的な理論を構築できたことは学術的に極めて意味があると考える。 また、カリキュラム理論における生活と科学、分化と総合の関係について、石井洋二郎のリベラルアーツと人文知の理論を応用し循環型モデルを構築できたことは、カリキュラム研究に新たな視点を提供できたと考える。 しかしながら、令和2年4月から名古屋大学が岐阜大学と統合し東海国立大学機構になるための準備で忙殺され、海外のカリキュラム改革についての動向調査は不十分であった。大統領制的な行政運営が現場の教育実践に与える影響を分析するためには、国内の教育実践事例をより多く調査する必要がある。また、この大統領制化の問題は、いくつかの国で顕著であるので、比較研究も重視すべきであると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
教育課程行政の変容については、これまでの研究で大統領制的行政運営が議院内閣制の法制度の下で行われていることに原因があることを明らかにした。令和2年度においては、なぜ大統領制的行政運営が多くの国で生まれているのかその原因とその向かうところを考察する。今回の新型コロナウイルス感染症への政府の対応は典型的な事例として分析するに値する。 キー・コンピテンシーを超える対抗実践については、香川大学教育学部附属高松小学校と次の研究課題を検討中であるが、学問とリベラルアーツと人文知を重視したカリキュラム案を検討し、令和3年度からの実践研究開始をめざしたい。香川大学教育学部附属高松中学校の研究実践については、昨年度、創造表現活動の評価、取りまとめを行ったので、今年度は、今後の研究の基本的枠組みを検討したい。 キー・コンピテンシーとカリキュラムマネジメントを中核とする新学習指導要領については、新型コロナウイルス感染症の影響で4月当初からそれを実施できないという困難に直面している。この混乱の時期だからこそ、キー・コンピテンシー、カリキュラムマネジメント、知識技能等をめぐる本質的な問題の議論が進むのではないかと考えている。各学校現場の本年度の取組をていねいに調査しながら、議論を進めていきたい。 国内外の調査については、新型コロナウイルス感染症の影響もあり見通しが立たない状況にある。少しでも可能であれば、英米の研究者との意見交換を行うとともに韓国、台湾及び日本のキー・コンピテンシーを超える取り組みを調査したい。
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Causes of Carryover |
名古屋大学国際担当副総長が、同氏が兼務する法務業務が令和2年4月1日発足する東海国立大学機構の準備で多忙を極めることとなったため、研究代表者が国際業務の多くを担当することとなった。 このため、国内調査については多忙な中でも順調に進めることができたものの、海外調査については英米の研究者との意見交換を始め調査に必要な時間を確保することができなかったので、令和2年度に実施したい。
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