2017 Fiscal Year Research-status Report
日本の小学校にみられる移民の子どもの儀礼的行為に関する社会学的質的研究
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17K04548
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
森 みどり (高松みどり) 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (20626478)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 儀礼 / 外国籍 / ドラマトゥルギー / 演出論 / ゴッフマン |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は、本研究に関する文献が収集できた。また、研究協力者・川村日本語指導員には神戸市の小学校の(対象となる)外国籍児童の在籍する学級に週に一度、入ってもらい、そこでの情報を提供してもらった。さらに、以下のような事前調査を行い、本調査の見通しを立てることができた。 調査場所:当初の予定、神戸市の小学校から、神戸アートヴィレッジ会議室に変更した。というのも、そこで四年前から日本語指導を行うO教員によれば、教科内容の縛りがある公立小学校とは異なり、土曜に自由意志で子どもが通う本教室のほうが、細やかな指導が可能であり、O教員の理想の形が本教室に体現されているからである。外国籍の子どもたちは、各学級にバラバラに配属されることが多いが、まずは彼らが外国籍の子同士の結束を強めるプロセスを儀礼として考察したいため、調査場所を変更する。期間:2018年7月~現在まで(夏季休暇中を除く、毎週土曜)対象者:日本語教室に通う10名の小・中学生。出身国はネパールと中国。ハーフはおらず、単親家庭の子どもが多い。2名は日本語も母語も身についていない。方法:本調査の下調べは、実際に外国籍の子どもに日本語を指導しながら行った。中国出身の三名の日本語指導を担当した。プリントの問題を説明し、O先生に提出した。指導の行われる会議室が狭く、ビデオカメラを置くスペースがない。また、教員数が毎回異なり、それに合わせその度学習集団が作られるため、毎回、集団メンバー数が固定しておらず、継続的に一集団のみを観察するということが難しい。 重要性:4年間にわたって行われる日本語教室では、外国籍の子ども同士の集団形成(儀礼)のプロセスを観察できるだろう。というのも、自文化集団のメンバーとなることで、子どもは多くの場合、精神的に安定でき、そうした集団で育まれた社会性は、学級での人間関係の基盤となるためである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、一年目の事前調査により、調査場所(神戸アートヴィレッジ)・調査対象(日本語教員O)・調査方法(インタビュー調査)・解釈の際に用いる理論(ゴッフマンによるスティグマ論と儀礼論)・概念(スティグマ・相互行為儀礼)などについて検討でき、今後の研究の方向性が明らかにできたため。第二に、昨年度、川村日本語指導員に、日本語教室に通う児童の小学校で毎週その子どもの日本語を指導してもらったことにより、クラスの様子について知見を得ることができ、本調査の見通しがたったため。本年度以降は、後の本調査でのデータ(インタビューのトランスクリプト)を、彼らの学級での日常生活と関連づけて解釈することが可能となるだろう。第三に、本年度のインタビュー調査にむけ、その下準備が整ったため。昨年度、土曜の日本語教室で子どもたちに指導を行い、その後の昼食も共にしたことで、本年度に行うインタビュー対象者であるO教員とインタビュー調査にとって必要不可欠なラポールが築けた。これにより、インタビューの際にも打ち解けた雰囲気で、O教員の本音を引き出すことができるだろう。 さらに、O教員と食事を共にした際に、「本研究の主旨が、個別であるはずの子どもの経験を一般化し、体系化することにあるのではない(子どもの諸経験をただあるがままの形で記述することにある)」と説明したことで、こちらの研究に対する理解が得られ、インタビュー調査についての同意も得られた。 他方で昨年度は、再来年度の研究成果の発表の下準備も行うことができた。具体的には、(再来年度に日本の学会、あるいは国際シンポジウムで共同発表予定の)ライプツィヒ大学のディークマン氏にも連絡をとり、共同研究の方針(基盤となる理論や、解釈の際に用いる視点などについて)を告げ、理解を得ることができた。現在、再来年度のスケジュールをディークマン氏に確認中である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、これまで日本語教室を企画・運営してきた中心メンバーである日本語教員O教員に以下のような形でインタビュー調査を行うこととする(すでに本人には承諾済みである)。 【下準備】まず本年度前期中(2018年9月末まで)に大阪教育大学の研究倫理委員会に申請を行う。【概要】本年度後期(2018年10月以降)にはO教員に(子どもたちの集団形成「儀礼」に関する)インタビュー調査を行う。その際にはICレコーダーを用いる。その結果得られるトランスクリプトをゴッフマンによるドラマトゥルギーの視点や、ゴッフマンによるスティグマ概念から解釈する。【対象】日本語教員、O教員(O教員が困難な場合は、教科を指導する小学校教員、M教員か、本教室で指導を行う研究協力者、川村日本語教員)【問い】本日本語教室で、子どもたちは「同類集団(ゴッフマン)」である外国出身の子ども集団(中国人集団・ネパール人集団)に、どのように適応していくのか。中国人集団とネパール人集団の間になんらかの異文化の壁は見られるのだろうか。O教員は神戸市で、彼らの通う小学校の学級にも入り、日本語指導を行っているため、子どもたちの小学校の様子について尋ねる。子どもたちはクラス内で、どのような形で自らの「中国人」・「中国の子」という属性と向き合っているか。また、その属性がネガティブなものと(日本人集団や日本人教員から)判断され、学級で「スティグマ」となることはあるのだろうか。またそのときにはどのようなことが起こるのか。子どもたちが日本人集団のなかで困難に見舞われる場合があるとすれば、それはどういったものか。
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Causes of Carryover |
当該年度の旅費(長居から神戸までの往復運賃旅費)が残ったため。次年度の物品(インタビュー記録のためのノートを購入する)か旅費(長居から神戸まで)の足しにする。
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