2018 Fiscal Year Research-status Report
日本の小学校にみられる移民の子どもの儀礼的行為に関する社会学的質的研究
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17K04548
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
森 みどり (高松みどり) 大阪教育大学, 教育学部, 准教授 (20626478)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 儀礼 / 外国籍 / ドラマトゥルギー / 演出論 / ゴッフマン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度には、第一に、神戸市の土曜日日本語教室で大和田教員(日本語教員)より情報提供してもらった。その結果(ビザの関係で日本に保護者が不在の)子どもの同意を得ることが困難で、大和田教員を対象とすることにした。また、彼女の開催する日本語教員セミナーの写真(ホームページに掲載)を調査対象にすることも決まった。来年度はこの写真の分析を行い、論文を作成する。 第二に、外国籍の子どもの統合儀礼に関する研究方法・視点の検討、及び確認作業を行った。その成果をまとめ、2019年5月16日には、大阪教育大学が学術連携を行う、ソウル教育大学より招聘され、国際シンポジウム"Crosscultural and Interdisciplinary Research in Elementary Education“にて発表を行った(発表タイトルThe Dramaturgy in a Classroom)。その結果、参与観察方法・ドキュメンタリー方法といった社会学的質的方法や、通過儀礼・境界性といった儀礼研究の視点、舞台・パフォーマンスといったゴッフマンの演出論の視点が、韓国の初等教育研究においても有意義であることが確認された。 第三に、平成30年度には中井精一とともに、ESDに関する論文を執筆した。ESDという視点は、今後の外国籍の子どもの受け入れについて検討する際にも、極めて重要な役割を果たすと思われる。というのも、「外国籍の子どもをどのように継続的に受け入れていくか」という問題は、ESD教育の問題でも本研究のテーマでもあるからである。 第四に、森征樹とともに「有害」コミックがどのように「教育問題」化したかについて論文を執筆した。教育問題が構築されるという広田の視点は、本テーマにとっても重要な役割を果たす。というのも、外国籍の子どもというトピックもまた社会的に作り出されるものだからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査対象を神戸市の子どもたち(保護者が帰国し調査の同意が取れない)ではなく、日本語教師である大和田教員に変更したが、大和田が開催する日本語教員セミナーの写真(公式サイトに公開)を研究対象にすることが決まったため。来年度はボーンザックによるドキュメンタリー方法による写真分析方法を用い、これらの写真の分析を行う。 当初予定していた、ライプツィヒ大学のディークマン氏と予定が合わず、来日が困難な状況となった。しかしながら、それに替わり、韓国のソウル教育学会の国際シンポジウムに参加し、外国籍の子どもに関する研究の方法論的検討を行うことができたため。今後の本研究にとっても、また韓国の初等教育研究にとっても、こちらの提示した研究方法(社会学的質的方法・ドキュメンタリー方法)が有意義なものであることが確認された。 第二に、平成30年度には、中井精一とともにESD教育に関する論文を執筆でき、本テーマとの関連を探ることができたため。ESDという視点は本研究にとっても極めて重要な役割を果たすことを明らかにできた。というのも、「外国籍の子どもを継続的に受容するためのシステムをどう構築するか」は本研究にとっても、ESD教育にとっても重要な問いだからである。 さらに、平成30年度には、森征樹とともに、有害メディアに関する論文を執筆した。その際に用いられた「教育問題」という広田の視座は、本テーマにとっても重要な役割を果たすことを明らかにできたため。本稿では、どのように特定のコミックスが「有害」と名づけられ、有害メディア問題を構築したか、考察した。この視点は、今後、外国籍の子どもを考察する際にも重要な役割を果たす。というのも、外国籍の子どももまた、その外見や氏名から「中国人の」といったラベリングを受けからである。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の成果をふまえ、令和元年度は、日本カリキュラム学会、あるいは大学教育学会で発表する(ともに2019年6月)。そこで会場から得られた示唆をふまえ、論文を作成し、日本カリキュラム学会(2019年9月末)か大学教育学会(2020年1月末)に投稿を試みる。日本カリキュラム学会の場合、「日本語教員としてのアイデンティティはどのように形成されるか」がテーマとなる。また大学教育学会の場合であれば、「大学教育においてどのような(日本語)教師教育ができるか」、また「そのためにどのような教員研修が可能か」といったテーマとなろう。万が一、審査に通過しない場合には、大阪教育大学大学院の発行する紀要に投稿する(2019年11月以降)。 論文作成の際に示唆的なのは、臼井智美の研究である。臼井は、外国籍児童生徒の教育拡充のための学校教員支援システムの開発について多くの論文・著書がある。また彼女は、「外国人児童生徒の指導に必要な教員の力がどう形成されるのか」という問題を取り上げたり、外国籍児童を受け入れる教員研修教材を開発したりしている。 毎年秋~冬にかけて15回、毎週土曜の午前に神戸で行われる大和田のセミナーもまた、座学に加え、神戸市の小学校における実習や、教材開発(日本語教材『神戸をたのしもう』)を行っている。参加者には毎回参加するたびに共同体意識が芽生えてくると思われる。その意味でセミナー自体が1つの儀礼であるといえる。彼女らはどのような形で「大人」から「日本語教師」となるのか。本研究ではセミナーを「通過儀礼」として捉え、来年度、ゴッフマン、ターナー、ヘネップといった儀礼研究の視点から儀礼分析を行う。
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Causes of Carryover |
年度内に必要な物品(論文作成のための著書や、ソウル教育大学シンポジウム発表のための物品)はすべて購入できたため。次年度には、学会訪問や神戸市訪問(土曜日本語教室)までの交通費として用いる。
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