2021 Fiscal Year Research-status Report
The Structure of Correlation among "Education", "Philosophy" and "Politics" in the History of Educational Thought in Japan
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17K04580
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
櫻井 歓 日本大学, 芸術学部, 教授 (60409000)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 勝田守一 / 藤田昌士 / 道徳教育 / 自主性 / インタビュー / 西田幾多郎 / 読書 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度には、過年度に実施した教育学研究者への聴き取り調査(インタビュー)の記録を活用した雑誌論文を発表したほか、本研究課題で対象とするテクスト群の一つである西田幾多郎(1870-1945)のテクストに関わる随筆的文章を発表した。本年度の研究実績を分節化すると概ね以下の通りである。 (1) 教育科学研究会(略称:教科研)編集の月刊誌『教育』2021年6月号に「「資質・能力」と道徳性の問題」を発表した。本論文では、近年のカリキュラム改革における「資質・能力」と道徳性をめぐる問題について、教科研「道徳と教育」部会(以下、道徳部会と記す)の議論とも関連させて概念整理を行った。論述のなかで、本研究課題によるインタビュー記録『教育学研究者の自己形成と戦後日本の教育学 ――堀尾輝久氏、宮澤康人氏、藤田昌士氏への聴き取り調査の記録――』(2019年8月)を活用し、道徳部会の議論をリードしてきた藤田氏が、教育学者勝田守一(1908-69)のいわゆる「自主性」論をどのように受容・継承したかを紹介した。藤田氏へのインタビューでは、「自主性」の概念が〈価値選択の自主性と方向性〉あるいは〈自主性と社会性・集団性〉といった概念対のもとで議論されてきたことが語られていることなどを述べた。学校における道徳教育の基本を「自主的判断の能力を育てる」ことに置いた勝田の議論が受容・継承されたコンテクストなどを論じた。 (2) 日本大学図書館芸術学部分館活動誌である『日藝ライブラリー』第6号(2022年2月)に、「思想家の骨(こつ)をつかむ――西田幾多郎の読書論――」を執筆し発表した。1938(昭和13)年発表の西田の随筆「読書」に注目して、思想家の書を読むことに焦点づけて書かれたこの随筆が、芸術作品から学ぶことを考える際にもヒントを与えてくれる文章であることなどを述べ、その背景にある西田の哲学思想にも触れた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前年度に引き続いて本年度の進捗状況についても「遅れている」と自己評価せざるを得ない。 2017・18年度に3名の教育学研究者へのインタビューを実施し、2019年度にインタビュー記録冊子を発行できたことは大きな成果と言える。しかしながら、2020年以来の新型コロナウイルス感染症の世界的流行の影響を受けて研究活動が停滞していることに加え、前年度末に依頼を受けた本研究課題以外の原稿執筆の仕事を2021年夏に行ったことにより、本年度に本研究課題のために割ける研究時間が一部制約を受けたことは否めない。これらのことにより「遅れている」と判断する。 本研究の全体的な目的は、近代以降の日本教育思想史における〈教育〉〈哲学〉〈政治〉の連関について、三つのテクスト群から読解することである。三つのテクスト群とは、(1)西田幾多郎のテクスト、(2)京都学派の系譜に属する哲学者・教育学者・教育実践家らのテクスト、ならびに(3)戦後教育に携わった研究者や実践家らへの聴き取り調査より創出されるテクストである。 この研究目的に照らして、インタビュー記録は第3群に属するものであり、この領域では一定の研究成果を挙げてきたと考えている。また、本年度までに実現した論文発表や学会発表により、第2群や第3群に関していくつかの研究業績を作ることができた。本年度に発表した雑誌論文(前記「「資質・能力」と道徳性の問題」)も、京都学派の哲学に出自を持つ戦後日本の教育学者である勝田守一の思想の受容・継承に関わるという点では、第2群と第3群に関わる業績と言える。 しかしながら、第1群の西田のテクストに関しては、筆者が年来取り組んできた領域でありながら、本研究課題では未だ大きな研究の進展がないのが実情である。こうしたなか、本年度に発表した随筆的文章(前記「思想家の骨をつかむ」)は、本研究課題での西田研究の端緒となる可能性のあるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
前項に記載の通り、進捗状況は遅れていると自己評価しており、その理由としては2020年以来のコロナ禍の影響などにより研究時間が制約を受けたことが挙げられる。研究期間は当初2017~2020年度の4年間としていたが、コロナ禍による研究期間の延長および再延長が認められ、2022年度までの6年間となった。研究が遅れていることには忸怩たるものがあるが、期間の延長により時間的余裕が生まれたことにより、研究計画の一部修正を含めて研究活動を発展させる新たな可能性が生まれたとも言える。今後の研究の推進方策を分節化して捉えれば以下のようになる。 (1) 2019年に発表したインタビュー記録『教育学研究者の自己形成と戦後日本の教育学』の言わば続編として、2022年度に新たに1名の教育学研究者への聴き取り調査を実施することが決まっている。オーラル・ヒストリーによるテクストの創出は近年の教育学研究の動向にも対応するものであり、新たな対象者へのインタビューにより創出されるテクストは、現代日本の教育と教育学研究に関する貴重な証言となるに違いないと考えている。本研究課題の最終年度に当たる2022年度中に、その結果をインタビュー記録冊子にまとめる予定である。 (2) 後手に回っている西田幾多郎のテクストの研究を進展させることは、依然として重要な課題である。例えば、西田の最後の完成論文「場所的論理と宗教的世界観」(1945年執筆)を国家論的観点から再検討し、人間形成における個と共同性の相剋という根本的テーマに迫ることは年来の課題であり、本年度にいくつかの関連文献の検討を行ったところである。西田の思想の教育学的研究は筆者自身にとって長期的な研究テーマであるが、2022年度に優先的に遂行すべき課題はむしろ上記の(1)であると判断してそちらに注力することとし、西田のテクストの研究はより長期的な課題として取り組んでいく。
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Causes of Carryover |
本年度は、コロナ禍により各種学会がオンライン開催となり旅費の支出がなくなったほか、前年度末に依頼を受けた本研究課題以外の原稿執筆の仕事のため研究時間の制約を受けたこともあり、多額の未使用額が見込まれる事態となり、研究期間の1年再延長を申請することとなった。次年度使用額が生じることとなったのはこうした理由による。なお、本年度に支出したのは、文献資料(思想・哲学・教育分野を中心とする図書)の購入費や、研究成果(インタビュー記録や研究論文)を関係者に送付するための通信運搬費、および資料複写料であった。 次年度の使用計画としては、研究期間の再延長により繰り越す研究費を、新たに実施する教育学研究者1名への聴き取り調査のための謝金やテープ起こし費用、およびインタビュー記録冊子の制作費用に充てることが大きな課題となる。インタビューの回数は4回程度を予定しているが、実際の実施回数や録音時間は未確定であり、また作成する記録冊子のページ数や印刷部数によって印刷製本費も変動してくるため、支出の見込み額は流動的な面が大きい。いずれにしても、インタビューの実施から記録冊子の制作まで総合して数十万円規模の支出を見込んでおり、本研究課題の最終年度に当たる2022年度中にこれを仕上げることが課題である。その他の支出としては、文献資料の購入費用、インタビュー記録冊子の普及のための通信運搬費などを支出する予定である。
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Research Products
(2 results)