2019 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半イギリスにおける大学成人教育の一展開―「大学間協議会」を中心に―
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17K04597
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Research Institution | Kurashiki City College |
Principal Investigator |
土井 貴子 倉敷市立短期大学, 保育学科, 准教授 (00413568)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 大学間協議会 / 成人教育史 / イギリス / ソーシャル・ワーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,1918年に設立された「ソーシャル・スタディのための大学間協議会」(以下協議会と略記)の設立背景と過程,初期の活動をイングランドの成人教育史に位置づけ分析し,福祉社会における大学と社会との関係の一側面を明らかにしようとするものである。協議会では,福祉社会の進展により必要が増したソーシャル・ワーカーの養成が中心的な課題となっており,大学以外の養成機関との差別化並びに養成教育の高度化が模索されていた。 本年度は,初代議長を出すなど初期の協議会で中核的な役割を果たした大学の一つであるバーミンガム大学におけるソーシャル・ワーカーの養成とソーシャル・ワーク教育について成果をまとめ,社会教育学会で発表した。バーミンガム大学は,成人教育機関であるウッドブルックと連携してソーシャル・ワーカーの養成に取り組んだ。地域の中に存立基盤を有していたウッドブルックとの連携によって,困難を抱え福祉を必要とする人々の支援をおこなうべく地域の学校,福祉施設,家庭に出て行き援助をおこなう場や機会を組織できたこと,救援ギルドといった新しい民間福祉を養成教育に取り入れることができたことなどが明らかになった。大学が既存の成人教育機関と連携して地域社会と結びついていた事例であった。 大学成人教育の視点では,成人教育機関と連携した大学の門戸開放をさらに進めた事例であったことが指摘できた。その内容は,実用的な高度職業教育であり,実際に福祉領域の高度な知識と技術をもった専門職業人を輩出した。こうした点で,伝統的なリベラル・アダルト・エデュケーションの系譜とは異なる大学成人教育の事例であることを明らかにした。また,大学以外の成人教育機関と連携することで実践と結びついた養成が可能となり,かつ大学による試験の実施と成績評価,ディプロマの付与による高度化が図られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度,大学のある倉敷市において発生した西日本豪雨災害の影響等を受け,研究の進捗が遅れた。そのため,3年間で研究を終了する予定であったが,研究期間を1年間延長することとし,2020年度に研究の取りまとめをおこなうこととした。当初の計画からすれば,現時点での研究の進捗はやや遅れている。 ただし,2019年度は単年度でみれば,研究はおおむね順調に進展した。研究計画における研究テーマ①の「協議会」設立前史として,研究実績の概要に示した通り,バーミンガム大学におけるソーシャル・スタディの展開を労働者教育協会並びに居住型成人教育機関ウッドブルックとの関わりという観点から考察し,学会発表した。成果は論文にまとめた。 また,研究テーマ②バーミンガム大学,リバプール大学,LSEが中心となって組織した「協議会」の初期の活動について議事録等を中心に史料の整理,分析を進めている。協議会の活動を福祉社会に位置づけ考察をしている。この時期,自由党政権下における老齢年金等の導入といった国家福祉の拡大だけでなく,相互扶助やチャリティといった従来型の福祉に加えて企業福祉や救援ギルドなどの民間福祉団体が新たに組織された。そうした場で活躍するソーシャル・ワーカーが求められていたなかで,大学が単独ではなく連携をすることでいかに社会と結びつき,「社会問題」と向きあおうとしたのかについて検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,収集した協議会の史料の分析を継続し,①1918年に設立された「ソーシャル・スタディのための大学間協議会」(以下協議会と略記)の組織面を明らかにする。具体的には、協会の設置形態、規約、構成員、組織や運営、会費等などを議事録から詳細にみていく。同時に、中心的役割を果たした大学の一つであるバーミンガム大学を取り上げ、バーミンガム大学の史料から協議会と大学との関係も考察する。大学における協議会の位置づけについても明らかにしたいと考える。 ②戦間期の協議会の活動内容についての分析をすすめ、福祉社会における協議会の意義について考察する。設立から協議会の目的が変更された1936年までを対象に,主としてその議事録を用いて,初期の活動について詳細にみていく。当該時期の協議会では,ソーシャル・ワーカーの養成教育が主たる課題であった。本研究では,大学間の連携によるプログラムの高度化並びに他の教育機関との差別化,また福祉社会の進展の2つの観点から分析をする。あわせて,バーミンガム大学におけるソーシャル・ワーカー養成の動向と比較しながら,その特質を明らかにする。大学が連携をすることで社会とどのように結びつこうとしていたのか,その一端が明らかになると考える。成果は、学会等で発表し,まとめる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では2018年度に8から9月と2から3月にかけてそれぞれ1週間程度2回分の史料収集の旅費を計上していた。しかし,8月から9月にかけて豪雨災害の影響もあり,史料収集の出張ができなかった。2020年度まで研究期間を延長しており,研究の取りまとめに使用する。
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Research Products
(2 results)