2017 Fiscal Year Research-status Report
教員や保育士等、実践側のニーズを踏まえた幼保小接続に関する意思決定過程の研究
Project/Area Number |
17K04611
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
瀬戸 健 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (30510036)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水原 克敏 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 特任教授 (00124628)
堀井 啓幸 常葉大学, 教育学部, 教授 (30190234)
阿部 美穂子 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (70515907)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 幼保小接続 / 幼保小接続研修会 / 基本的生活習慣 / 意思決定 / 実践側のニーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
幼保小接続については、地方自治体のほぼ100%が「推進すべき」と言っているのに、保育所、幼稚園、認定保育園(以下、保育所等という)と小学校との間に一貫したカリキュラムを作成して取り組んでいる割合は、全体の半分にも満たない。一前(2016)は、保育所等にも小学校にもカリキュラムを作成するニーズがないことを指摘する。保育所等の保育士、幼稚園教諭等や小学校教員も関心があるのは子どもの基本的生活習慣の状況であり、どれくらい自立しているのか、他者の発言を傾聴できるのかなどということであるという。 そこで本研究が注目するのは、国や地方自治体が推進する接続ではなく、保育士や教員が重視している基本的生活習慣を中核にした幼保小接続である。これに取り組んでいる富山県氷見市の実践に着目し、どのように意思決定がなされ幼保小接続の体制がつくられていくのかを追っている。 これまでの研究では、①平成27年に立ち上げられた「幼保小接続研修会」ができる前と後で、どのような変化があったのか、②幼保小接続研修会において、参加者が共通の課題意識をもつ契機ととなったのは何か、について聞き取り調査を行った。 ①では、研修会立ち上げ前には、保育士等と小学校教員の間には、それぞれの実践情報が共有されておらず、小学校側から幼保に対して一方的な要求が多く出され、信頼関係が成り立っていなかったことがわかった。研修会開始後は、保育所等と小学校との間に情報が共有され、円滑な取り組みが始められている。②では、特に双方の施設比較を行い、どこにも「段差」があることを確認している。このことにより取り組みは、かなり具体性をもつことができたと考えられる。 今後は、幼保小接続の方向を決める教育委員会と子育て支援課との連携による上位委員会の設置等が、だれが、どのようにして実現していくのか、その意思決定のプロセスを追っていきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最初の1年では、「幼保小接続研修会」の実態をとらえるとともに、この研修会を立ち上げることによって、その前後でどのように保育士や小学校教員の意識や取り組みが変化したのか、について調査を行ってきた。 その結果、当該研修会がなかった平成26年までは、保育士と小学校教員との間に信頼関係が成り立ちにくく、特に小学校教員からは保育士に対して「遊ばせてばかりいないで、〇〇ができるような力を十分に付けさせてほしい」などという不躾な意見までもが述べられていた。保育士には、「小学校教員は忙しい」という遠慮もあって、自分たちの実践の意図や効果を述べたり、合同の実践を提案したりすることは少なく消極的であったと言える。つまり保育士や幼稚園教諭にとって幼保小接続は、遠い存在だったのである。 平成27年度から開始された当該研修会は、保育士等にとって小学校教諭の顔が見える研修会となった。また、具体的な段差の検討によって、小学校教諭と保育士等の間に、具体的な課題認識が生まれた。このように、幼保小接続研修会をめぐっての聞き取り調査により、接続に向けた良好な関係が構築されてきていることが明らかになった。 この1年間の調査研究により、幼保と小学校との基本的な関係がわかってきた。このことにより、次のステップとして想定される「意思決定機関の設置」「意思決定機関内での意思決定手続き」などの調査活動が積極的に行える環境が整ったということができよう。それは、この研究が総じて順調な歩みを続けているという一つの大きなエビデンスとなるのではないだろうか。
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Strategy for Future Research Activity |
保育所を所管する子育て支援課と小学校を所管する教育委員会との連携により、年長児を担任する、あるいは昨年度年長児を担任した保育者と、今年度第1学年を担任する小学校教員との合同による「幼保小接続研修会」は、互いに顔を合わせて課題を出し合いながら進める研修会として効果を上げてきた。しかし、その効果は研修会参加者のみが知る効果であり、この研修会に参加したことのない保育者、教員等にはほとんど理解されていない。 今後、当該研修会を通してさらに幼保小接続が、全ての保育士、全ての教員等に理解され、よりよい幼保小接続が実現されるには、研修参加者を広げることや、研修会による成果の広報活動等が欠かせない。しかし、現在の当該研修会の参加者には、参加者の数を増やしたり広報活動を推進したりする権限はない。 今後、幼保小接続の効果やその方法について保育士や教職員、地域の人々などに理解され、日常的に安定し充実した取り組みとするには、取り組みの方向性等を決める組織を作ることが求められるであろう。その組織がどのように生まれ、どのような意思決定をどのような手続きを通して行っていくことになるのか、注意深く調査研究を継続してきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
研究のフィールドとしている富山県氷見市の幼保小接続研修会及び幼保小接続研究指定校・園に、研究分担者全員がそれぞれ訪問し、具体的な取り組み等について調査・研究を実施するため、勤務大学から氷見市までを往復する旅費を計上していたが、日程が合わないなどの理由から、研究分担者1名しか訪問調査できず、旅費の残金が多くなってしまった。 次年度は、これまでに十分に調査ができなかった幼保小接続研修会及び幼保小接続研究指定校・園への訪問調査回数を増やし、接続の実態をより明らかにする。さらに、本研究のテーマである幼保小接続を推進するための意思決定過程を追うため、氷見市子育て支援課と教育委員会との打ち合わせや協議の状況も調査していきたい。支出の多くは、調査のための旅費として支出されることが考えられる。
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