2018 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Okinawa Youth Group Movement and Community and Adult Education
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17K04630
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
山城 千秋 熊本大学, 大学院教育学研究科, 教授 (10346744)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
農中 至 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (50631892)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 青年団 / 祖国復帰運動 / 奄美・沖縄 / 機関誌・紙 / 米軍占領期 / 産業開発青年隊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦後の米軍占領下に置かれた奄美・沖縄の青年団運動を祖国復帰運動との関連で捉え、運動を担う青年たちの言説と思想を機関誌・紙から解明することを目的としている。本年度の研究の主軸は、一つに昨年度に引き続き、奄美大島および沖縄島での青年団機関誌・紙の所在調査および関係者への聞き取りであり、もう一つは、12月に開催された沖縄県青年団協議会の結成70周年記念式典に向けた記念誌作成と関係者への機関誌復刻企画の周知である。 1.奄美・沖縄における青年団史料の調査分析 機関誌調査では、鹿児島県立図書館奄美分館、鹿児島県教職員組合奄美支部ならびに鹿児島県大島支庁県政資料室で『新青年』の調査を行い、複数の原本発見に至った。機関誌『沖縄青年』は、沖縄県教育庁文化財課史料編集班および沖縄県議会図書室で新たな原本を確認した。機関紙『沖縄青年』、『青年隊だより』は、発見には至らなかったが、引き続き関係機関での調査を実施する。占領期の青年団史料調査では、沖縄県立公文書館所蔵の琉球政府社会教育課および米国民政府の史料を対象に調査し、特にUSCAR文書から沖縄産業開発青年隊に関する史料が多く見つかり、USCARと青年団との関係を知る新たな手がかりを得た。奄美分館では、『南海日日新聞』から青年団および機関誌に関する記事を収集し、当時の社会情勢における言説と機関誌の言論との関連を複眼的に分析する視点を得ることができた。 2.沖縄県青年団協議会結成70周年記念誌の作成 沖縄青年連合会が1948年に結成されて70年となる節目に、70年の青年団運動の歩みをまとめた記念誌、占領期の青年団運動を牽引したリーダーの証言録『戦後沖縄青年団運動の証言』、復刻企画のチラシを作成し、青年団関係者へ機関誌・紙の理解と発見の協力を求めた。また式典に関連して「沖縄タイムス」文化面において「琉球弧の青年群像」を2回にわたり掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
戦後の奄美・沖縄の青年団による祖国復帰運動の研究は、それぞれ個々に分析・評価されてきたが、占領期という共通の時代に生きた青年による言論の運動という視点からの分析は、充分になされてきたとは言いがたい。祖国復帰運動を青年たちがどのように形成し主導してきたのか、青年団運動の内実を知る青年団機関誌・紙の言論分析から明らかにし、奄美と沖縄を同時代的に捉えることが、本研究に課された課題である。研究手法としての機関誌・紙復刻は、占領期の青年団運動への関心を広げ、教育学だけでなく歴史学や政治学など多領域の研究に寄与できると考えている。占領期における青年団運動を物理的な運動だけに矮小化せず、青年たちの言論の裏付けを得てはじめて、実態を捉えることができる。その意味で、本機関誌・紙復刻の意義は大きい。 復刻作業では、一つに機関誌・紙の原本調査と、もう一つに関係者からの聞き取り調査を関連させながら実施してきた。前者の原本調査では、本研究の助言者である藤澤健一准教授(福岡県立大学)の指南を得て、関係機関での悉皆調査を実施した。その結果、地道な調査により想定しない場所からの史料発見や関係者との情報および連携構築など、多くの副産物を得た。さらに、青年団機関誌だけでなく、地方紙・同郷者メディア分析の視点を得たことも大きい。戦後の地方紙には、青年団が自ら機関誌をつくる以前の出来事、島嶼間の情報や交流、報道の仕方などの特徴が分かり、占領期における民主主義の胎動を読み取ることができるため、未発の地方紙にも注目した。 もう一つの青年団関係者への聞き取りは、多くの方々が鬼籍に入るなかで、貴重な証言を得る最後の機会と捉えている。沖縄および奄美では、機関誌・紙づくりに携わった、あるいは執筆者という方々から証言を得ることができ、文字化されていない背景や経緯などを直接伺い知ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、占領期奄美・沖縄の青年団運動の全体像を描き、機関誌の復刻企画を完了の上、研究的到達点を示す。その目標達成のための調査研究として、①宮古・八重山群島における青年団史料調査、②同郷コミュニティおよび同郷者メディア調査、③復刻企画の完了、が上げられる。 まず①では、本年度は奄美・沖縄を中心に史料および聞き取り調査を行ってきたが、宮古・八重山についても同様なレベルでの調査が必要である。戦後八重山では、多くの新聞が発刊されていたことが断片的に分かっているものの、その実態および内容分析まで至っていない。各島々での青年団の動きが分かる貴重な史料であり、宮古も含めての調査が急がれる。 ②は、本研究が対象とする群島の外に存在する同郷コミュニティおよび同郷者メディアの調査である。奄美・沖縄は、戦前から本土および海外に出稼ぎとして多くの同郷者を送出してきた経緯がある。その同郷者集住コミュニティで読まれる同郷者のメディア分析は、母村とのつながりを表しており、青年団・機関誌についての記述も散見される。また『新青年』が南米で読まれている記録も残っており、当該群島だけでなく、人の移動とともに形成された同郷コミュニティの調査も不可欠であるといえる。奄美・沖縄人が多く集住する関西・関東、そして南米の同郷コミュニティおよび同郷者メディア分析も重視する。 最後の③は、本研究の基盤となる機関誌・紙の復刻企画の完成である。編集協力として高橋順子氏(日本女子大学)、櫻澤誠氏(大阪教育大学)、近藤健一郎氏(北海道大学)、藤澤健一氏(福岡県立大学)とともに解説書を作成する。一方でまだ欠号となっている機関誌・紙の調査と関係者への周知を行う。 以上の調査研究を学会発表および紀要投稿を通して成果を問いたい。
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Causes of Carryover |
本年度中に産業開発青年隊の機関紙および聞き取り調査としてブラジルおよびアルゼンチンへの渡航を計画していたが、年度内での実施が難しくなったため、次年度への旅費・調査費として繰り越したい。なお、すでに次年度の渡航計画および調査日程については、確定済みである。
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Research Products
(4 results)