2018 Fiscal Year Research-status Report
初等教育段階における入学期および就学期間の多様性に関する実証的研究
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17K04635
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
柏木 敦 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (00297756)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 学齢 / 教育調査会 / 日本の初等教育制度 / 義務教育 / 教育の多様化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、国立国会図書館憲政資料室蔵「水野直関係文書」、東京工業大学資史料館蔵「手島精一文書」の調査を行った。前者では教育調査会関係資料中「教育調査会通牒綴」、「教育調査会事項」、「学習院評議会資料」を閲覧、複写し、解読を進めた。後者については同文書約115点を閲覧し、内容を確認の上、複写を確保した。またこれらの調査結果については教育史学会第62回大会で報告した。 「水野直関係文書」中、教育調査会関係資料は、これまで中野実の紹介によって学界にその存在は知られていたものの、研究資料としての活用は高等教育改革に関わる事柄に止まっており、初等教育改革に関わる事柄は、検討の対象となってこなかった。また「手島精一文書」に関しても、中野実、湯川次義らの研究によって、高等教育改革に関する史的事実の解明に活用されてきたものの、初等教育改革に関連する資料については簡単な紹介に止まっていた。 本研究によって、上記の諸資料が初等教育改革に関わる重要な資料を含んでいることを明らかになった。この調査結果は、教育調査会の審議内容が幅広い内容に及んでいることを明確にするだけでなく、これまで関連資料の不足から十分に検討対象となってこなかった教育調査会そのものの史的位置づけを改めうるものであるということ、従来、明治期でおよそ定着したとみられていた学齢および児童の小学校入学時期のあり方が、大正期に至っても再検討の対象となっていたことが明らかになったこと、以上二点に大きな意義を持たせることができる。 本年度の調査結果の重要性は、一、従来十分に検討(整理・解読も含む)がされてこなかった「水野直関係文書」「手島精一文書」を活用し、その内容を学界に紹介したこと、二、1910年代に至るまで日本の学齢ならびに義務教育就学の多様なあり方が検討されていたことを浮き彫りにしたこと、以上の二点にまとめることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究進捗状況は極めて順調であった。当初計画で予定していた国立国会図書館憲政資料室蔵「水野直関係文書」、東京工業大学資料館蔵「手島精一文書」の双方を精査することができ、また必要な資料も収集することができた。「水野直関係文書」については、国立国会図書館憲政資料室作成の目録によって調査対象の資料を絞り、予定していた資料を入手することができた。 ただし本研究で目的とする資料は、手書きによるメモランダムを中心としているので、解読は教育調査会関連資料のみ済ませ、本年度の成果に結びつけることができた。学習院関係資料については目下解読を進めている段階である。 「手島精一文書」は現段階で目録が作成されていないため、本研究を深めることが出来る資料が含まれているか、あったとしてどの程度深めることが期待できる資料なのか、また調査にどの程度の時間が必要になるか、当初は不透明であった。しかし、東京工業大学資料館公文書室スタッフのご協力を得て、極めて効率的に全文書の閲覧、そして複写の確保をすることができた。本資料に関しては、解読などの滞りは生じていない。 本テーマに関わる重要資料が収録されてることが判明し、またそれを活用した研究を行うことができた。 本年度行った調査の成果については、教育史学会第62回大会(於、一橋大学)にて「教育調査会の学齢再検討をめぐる議論」と題して報告を行った。資料や研究について、他の研究者と意見および情報の交換を行うことができた。この報告は論文化を進めている。 また必要資料も予定通り購入できた。計画していた大阪府立中央図書館所蔵の『帝都教育』『都市教育』の調査についても着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に収集した「水野直関係文書」中の学習院評議会関係文書の解読を行い、女子学習院学制改革の中で二重学年制が導入された経緯とその史的意義を検証する。そのため、今年度基礎資料を収集した限りでは、女子学習院、学習院自体、研究対象となっている例はおよそ見られない。数少ない例は、管見の限り三羽光彦『高等小学校制度史研究』(法律文化社、1993年)、渡部宗助『日本における二重学年制の導入・実施に関する歴史的研究』(平成9年度科研費・基盤研究(C)報告書、1999年)に止まる。学習院が編纂したものとしては、目下『学習院百年史』(全3巻、学習院、1980-1987年)、『学習院女子中・高等科100年史』(学習院女子中等科・高等科編、1985年)の内容を確認しているが、いずれも二重学年制を導入したことに触れてはいるものの、事実紹介的な内容に止まっている。今後は未見の刊行物の確認、さらに女子学習院、学習院に関する公文書、新聞資料など、学習院関係資料の収集および検討を進める。 当初計画では、本研究において富山市、東京都(安田記念東京都市研究所市政図書館)の二重学年制関連資料を調査・検討することにしていたが、今年度中に関連資料や情報を収集したところ、残された資料は極めて限定的であることが判明した。特に、当初計画に含めていた富山市の二重学年制については、過去に申請者が行った調査で入手した以上の新資料の発見の見込みは極めて薄い。二つの調査対象について研究計画を変更したが、「水野直関係文書」中に、計画以上の資料を発見することが出来たので、むしろ合理的な計画変更を実現することができたといえる。「水野直関係文書」に含まれたメモランダム部分の解読・翻刻に正確を期するため、学習院関係資料の読解を主な作業とする。
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Causes of Carryover |
研究計画では、本年度、ワークステーションに用いるパソコンを購入する予定であったが、年度内に大幅なOSの更新、それに伴う製品の刷新が行われることが、年度半ばに明らかになった。これにより、OSについてはその安定性や、既存のアプリケーションや周辺機器のドライバとの対応関係、製品については既存の周辺機器との接続如何など、すでにある研究環境との対応関係を確認する必要があった。具体的には、新製品はPCと周辺機器を接続するコネクタの形状・配置が大きく変更されたため、スキャナやプリンタなど、既存の研究環境との接続関係を再度確認し、かつ必要な配線(コネクタなど)の形状や性能、今後、研究途上で予想される事柄への対応如何などを、改めて確認・検討する必要が生じた。 このような状況の下で、当初の計画を優先して拙速な判断をして高額なワークステーションを購入することは、却って研究費の適切な使用ならびに研究の効率的遂行につながらないと判断し、研究目的や研究環境に合った機種を再度選定するため、ワークステーションの購入を次年度早々に行うよう、計画を変更した。 以上のような理由により次年度使用額が生じた。なお年度内においてこれらの確認は概ね完了したので、次年度当初には計画した通りのワークステーションを購入し、研究を円滑に進める展望はできている。
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Research Products
(4 results)
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[Book] 日本教育史2019
Author(s)
平田諭治
Total Pages
212
Publisher
ミネルヴァ書房
ISBN
9784623084517
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