2019 Fiscal Year Research-status Report
イギリスにおける「自律・競争・協働」による学校統治方式の可能性と限界に関する研究
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17K04670
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Research Institution | The National Center for University Entrance Examinations |
Principal Investigator |
山村 滋 独立行政法人大学入試センター, 研究開発部, 教授 (30212294)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 学校統治 / 準市場 / 自律 / 競争 / 協働 |
Outline of Annual Research Achievements |
先進諸国では、1980 年代頃より、国・地方公共団体が学校教育制度を管理するという伝統的な学校統治(ガバナンス)の方式に対して、新たな学校統治のあり方の模索が進められてきている。イギリスでは1988年教育改革法に基づき、学校に自律性を与えるとともに、学校選択の自由化により学校間に競争が導入された。さらに近年は「協働」も強く奨励する教育政策が採られている。これは、学校統治の観点からは「自律・競争・協働」による学校統治方式と捉えることができる。このような学校統治方式は、これまで批判されてきた官僚統治や専門職統治に代わる優れた学校統治の方式になり得るのか。本研究は、イギリスにおいて進められている「自律・競争・協働」による学校統治方式の可能性と限界を明らかにしようとするものである。 このような学校教育制度を分析する理論的視座を得るための昨年度の理論的分析の成果-「抑制と均衡モデル」による学校選択制度による教育改革を主張した黒崎勲の学校選択論の学校統治の観点からの分析-を実際のデータに適用し検討した。 黒崎の学校選択論において最も重要なのは、「教育を受ける者の意志にしたがって教育が行われなければならない」=「教育の正統性」であった。そして、この正統性評価の具体的指標として、黒崎の論から導出できたのが「親の安心・子どもの満足」である。 正統性に関する指標-教育水準局が公表している各学校単位の「保護者の評価(Parent View)」-を、「自律・競争・協働」の視点からの分析結果は次のとおりであった。すなわち、「私の子どもはこの学校で幸せだ」「あなたは他の人にこの学校を薦めますか」など12の項目に関する「保護者の評価」についての量的分析によれば、自律、競争、協働のいずれの視点との関係からも特に差異を確認することはできなかった。今後の課題は分析方法および分析モデルを検討することである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大学入試改革・高大接続改革の展開に伴い、その意義や課題・問題点等の解明のための業務の遂行に、共同研究者の転出も重なり、時間を大幅にとられ、しかも単独で遂行しなければならなくなった。したがって本科研の遂行に極めて僅かの時間しか割けなくなったため。
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Strategy for Future Research Activity |
1年間の補助事業期間の延長が認められたため、本年度に実施できなかった現地調査を実施する。その際、これまでの調査データ等の分析を踏まえて、特徴的な学校について事例分析(訪問調査)を行い、「自律・競争・協働」の3つの要素がどのように機能しているのか、どこに隘路があるのか等について把握する。また、本年度に実施した「教育の正統性」と「自律・競争・協働」の関係を分析するためのモデルを検討し、さらに分析を進める。なお、コロナウイルス禍が収束しない場合には、訪問調査の実施が困難となることが予想される。その場合には、既存の調査データやイギリスの研究等を利用して課題の達成を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は、業務との関係で、現地調査が実施できなかったため次年度使用額が生じた。これは次年度の現地調査ならびに量的調査研究・分析費用に充てる。
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