2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K04724
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Research Institution | Heian Jogakuin (St. Agnes') College |
Principal Investigator |
新谷 龍太朗 平安女学院大学短期大学部, その他部局等, 助教 (10783003)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | コモンコア / AVID / PLCs |
Outline of Annual Research Achievements |
米国においてPISA型学力向上に向けて全米レベルで取り組まれている「共通コア州スタンダーズ(以下、コモンコア)」がテストに反映され始めた2013年以降のノースカロライナ州における学力推移を見ると、テストの難度が高くなったと判断できる。貧困生徒だけを見ると、「習熟」に達していない生徒は2013年では8割以上いたことなどから、コモンコアにより低学力層の学力保障が難しい状況が生まれていることが追認できた。 調査校で、数学に比べ読解の変化が一定枠内に収まったのは、理科や社会など他教科でもリテラシーを意識したことが影響している可能性を一つ指摘できる。特に社会科においては、非大卒の保護者など社会経済的に不利な家庭の子どもに対する進学支援をするAVIDのメソッドを身につけた教員により、生徒が考え、話し、書くという授業が展開されることで、生徒の読解能力の下支えにつながったと推察できる。 一方で、コモンコアにより数学でより思考力を問われるようになり、また、テスト提供者側の試行錯誤もあり、測られる学力と現場の授業とに乖離が生じた。加えて、リテラシーにはELA以外の教科も関わる体制となっていることに反して、数学ではその学年で数学を教える2~3人程度の教員だけが実質的に学力保障を担っているという状況であるため、カリキュラム変更への対応が難しかったと推察できる。 こうした状況を踏まえ、次年度の研究課題として、6年生から7年生になり、生徒がどのように変化したのかを学力データの推移から把握すると共に、その要因が何かを、学校生活の観察や関わりのある教員へのインタビューから明らかにすること、教師の学びあいの場(PLCs)での話し合いが低学力層の「書く力」「考える力」を向上させる上で、どのような影響を及ぼしているか、について観察したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3年の期間の初年度にあたる本年度は、コモンコアをめぐる先行研究及び近年の米国の教育改革の動向を調べると共に、ミドルスクールでの現地調査を行うことを予定していた。4月から7月にかけて予定していた「米国のコモンコアをめぐる先行研究の調査及び訪問依頼」についてみると、先行研究の調査については関連書籍を購入したり、近年の論文に目を通すことはできたが、学校内部のダイナミズムを描きつつ、低学力層の下支えまでを捉えた研究については、やはり見つけることはできなかった。特に、コモンコア以後の「書く力」「考える力」という高次の思考力に焦点を当てた研究は、2017年度の論文でも試行錯誤している、という様子が伺えた。その中で、調査を通じて訪問した学校で取り組まれていた「ライティング・ワークショップ」や、橋作りのプロジェクト学習、Calkinsの『読み方を教える技』など、現地の教員が準拠している書籍や授業法を知ることができた。また、当初より予定していたミドルスクールへの訪問も果たすことができた。ただし、長年継続して関係を構築してきた校長が12月で退任することから、今後の訪問計画の修正が必要となった。 7~9月にかけて予定していた「米国の教育改革の動向の情報収集及び訪問準備」については、トランプ政権下で不安定な政治状況の中、教育政策についても確固たる構想が示されておらず、テーマとするコモンコアについても政治的イシューとして扱われる状況が続いている。実際に訪問する中で、この政治不安が、社会経済的に不利な環境にある子どもと宗教が結びつくようになり、これまでになかった学校内での宗教的分断や、授業内容での生徒の発言に宗教的要因が見られるようになったことがわかった。また、北朝鮮のロケット問題が、訪問中に授業内で問題になることもあり、今後も政治状況の変化が調査内容に影響することが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の10から12月に予定していた「ミドルスクールへの訪問」は、9月に実施することができ、コモンコアの影響や教員同士の討議の様子を詳細に観察することができた。しかし、継続して観察する対象となる生徒の絞込みについては、データの制約もあり困難となったため、次年度以降に教員からのヒアリングを中心に特定していくよう計画を修正する。2年目の調査は9月中に同じミドルスクールへの訪問をするために、新校長への打診を5月中に行なう予定である。また、調査計画にあるように教育委員会への訪問を予定している。なお、校長が交代したことや、大統領選の中間選挙を11月に控え状況の変化が予想されることから、三回目の訪問を繰り上げるか、同行人数を抑えるなどして、3月にも訪問し、状況把握をした上で、最終報告に向けた計画修正をできるだけ早く行うことも検討する。 初年度の1月から3月に予定していた「研究成果のまとめ・発表」については、2017年10月のアメリカ教育学会で口頭発表を行い、2018年6月の日本教育経営学会での口頭発表、2018年9月の教員養成協議会でのポスター発表を予定している。また、研究成果を学内紀要などで発表する予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度での研究成果発表の場を東京と予定していたが、名古屋開催の学会で発表することとなったため旅費交通費を抑えることができたため、未使用額が生じた。次年度以降も研究成果の発表を予定しているため、未使用額はその経費に充てる事にしたい。
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