2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K04752
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
佐藤 哲夫 新潟大学, 人文社会科学系, 教授 (90187211)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 二人称的観点 / 作品との対話 / 鑑賞 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度は,「他者性の対話」を基底に持つ対話型鑑賞教育の必要性と可能性を,理論面から明らかにすべく,哲学的他者論と美術鑑賞との接点についての研究を実施した。ここでの他者論は,レヴィナスの他者論と芸術についての考えを中心としたものだった。平成30年度は,倫理学者のスティーヴン・ダーウォルの,「二人称的観点」こそが道徳の基礎とする理論に注目し,二人称的観点と対話による鑑賞の関係を,ペアによる鑑賞の調査実験によって調べた。対象者は,3組(延べ6組)の中学生ペアである。実験は,話し合うテーマの提示も無いままに二人だけで,一つの絵画作品を前に30分間、作品を見ながら自由に会話してもらうというものであった。 対話による鑑賞では,対話は,一緒に鑑賞する相手との対話と,向き合う作品との対話の二つの対話が含まれている。作品を前にしてペアで話し合う時,生徒は相手への気遣いと下心のない誠実な率直さがお互いに要求されていることを理解している。二人だけの会話は相手に宛てられており,第三者の誰かに向けられたものではない。しかし,ペアでの鑑賞においては,生徒は相手と向き合う事と,作品と向き合う事の二つの行為を繰り返すことになる。芸術作品の鑑賞が,作品との「二人称的観点」に立った対話であるなら,その対話は,もう一方の生徒と作品の対話とは,意味が根本的に異なるが,それぞれの対話の経験について,ペアの二人はどのように話すのか。あるいは話さないか。そもそも準人格である作品との対話は,今の中学生にも成立するのかのかを調べようとした。 結果,「二人称的観点」に立った作品との対話は,一組のペアの二回の鑑賞において見出されたが,残りの二組のペアには見出せなかった。また,前者のペアについても,お互いの鑑賞内容の一致や共感が際立ち,差異や隔たりの部分があまり見出せなかった。調査実験の方法を改良する課題が残った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
次年度実施予定の本実験と調査に向けての予備実験をおこなうという当初の目的の中核の部分はほぼ達成された。ただ,ペアによる鑑賞実験結果の分析方法の確立という部分に関してはまだ模索中である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究の目論見の理論の部分と実験の部分の両方において,見直しや修正が徐々に必要になってきている。これらは研究や理解の進展の結果の面もあるので,当初の研究計画に過度に囚われ過ぎないようにして,柔軟に進めて行きたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度の予備実験の段階で,本実験での鑑賞に使う複製画資料などを購入して揃えておく予定であったが,中学生の鑑賞に適切な資料の再検討と見極めが必要なことが分かったため,資料や機材の購入を次年度に持ち越すこととした。
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Research Products
(1 results)