2018 Fiscal Year Research-status Report
若手教員の初年度授業力充実をめざす教員養成教育についての研究~実技教科を中心に
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17K04757
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
隅 敦 富山大学, 人間発達科学部, 教授 (30515929)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹内 晋平 奈良教育大学, 美術教育講座, 准教授 (10552804)
三根 和浪 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (80294495)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 実技教科 / 若手教員 / 発話 / 導入部 / 教員養成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,授業力を「子供に学力をつけるために教師に求められる力」と規定し,教員養成教育の段階での学びがどのように生かされているか,若手教員を対象にして授業分析及び聞き取り調査を行ってきた。 平成29年度の分析結果を踏まえて,平成30年度は特に一部の実技教科の必修科目において模擬授業の際に,「発話チェックカード」を用いて,教師役の発話を確認させることにし,板書やICT機器の活用と発話を結びつけた指導の妥当性について確認できるようにした。 一方で,導入部における「指示」に分類した発話の出現率が非常に高く,授業の展開部においても,導入部の「指示」が徹底していない課題を踏まえて,特に「実技教科における導入部の教員の発話の質と量が,展開部における児童の活動を支えている」と仮説を立て,若手教員の1年次の実技教科授業のビデオ記録を基に質的データ分析ソフトを用いて分析した。 その結果,「導入部充実型」と「導入部簡略型」に分類され,たとえ導入部の発話が簡略化されていたとしても,展開部において,評価観点に関わる「指示」や「質問」等の発話を行うことで,児童の活動を促し,「同意」の発話で評価が行われる場合があることなどが分かった。また,図画工作科においては,「導入部充実型」の授業を前提として行うことが必要であることが確認できた。 そこで,今後も教員養成の段階における導入部で有効な発話をすることができるように,講義内において,模擬授業等を行いながら,発話を意識した指導していくべきだという結論を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、特に前研究で収集したデータを含めて採用1年次の若手教員の導入時の発話の有効性について,質的データ分析ソフトを活用して分析を行った。そこでは授業の評価目標の観点(評価規準)に関わる内容をどのように導入部で指導し,展開部で定着させているのかについて,それぞれの発話で分類可能なものを教科ごとに分類していき,「指示」等の発話の分類と合わせて二重にコーディングをした。 本研究では導入部の発話が複数の評価の観点を含む場合が多い授業を「導入部充実型」,評価の観点が少ない場合がある授業を「導入部簡略型」と規定して,展開部において,導入部の発話の定着がいかに図られているのかについて検討した。 その結果,「導入部充実型」の授業に分類した授業においては,いずれも,導入部での「指示」が多いが,展開部では「同意」に分類される発話が多いことが分かった。また,「導入部簡略型」授業に分類した授業は,いずれも,導入部の発話が展開部に比べて少なく,展開部における評価観点に関わる発話が多くなっていた。しかし,展開部において,その都度,評価観点に関わる内容の「指示」等の発話を行った場合は,その観点に結びつく「同意」の発話を行おうとしていることも確認できた。 今回の研究で特に導入部と展開部の発話に着目して,発話の種類のみならず,現行の学習指導要領に基づく評価観点をクロスさせて分類して分析を行ったことで,導入部では「指示」や「示範」の発話の質が問われていることが分かった。 よって,導入部の教員の発話の質と量は,実技教科において,展開部の児童の活動に少なからずの影響を及ぼしていることが分かり,大学における教員養成教育の充実に向けての課題が明確になり,模擬授業を重視した講義内容の見直しが可能になった。
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Strategy for Future Research Activity |
前回の研究の成果を得て, 2017年度から前期に筆者の担当する講義「図画工作科教育論」において,学生による模擬授業を全14回取り組ませてきた。さらに2018年度からは,模擬授業の後の振り返りの際に「発話チェックカード」を使用させて,授業者の発話を意識させている。約30分の模擬授業であるが,学生はこのカードがあることで,自分たちの発話について振り返りながら,展開部における児童役の学生の学びにどのように影響を与えているのか確認する作業も行い,現在,そのデータを収集して分析も行っている。 一方,単に教員の発話の質と量のみで授業力が問われるとは考えられず,前回の研究で課題となっていた「学習環境の構成」については,今回の分析においてもその要素として設定することができなかった。若手教員がICT機器を使用しながら発話を行うことで,児童の展開部での活動に生かされるような事例もあった。また,導入部におけるパフォーマンスに注目して授業力の向上について研究する初任教員の教授成果について確認する研究も存在する。 今後もあくまでも発話を中心に,授業ビデオ記録を基に,学習環境をいかに構成しパフォーマンスを行いながら授業を構成していくかについても,分析していく必要も出てくる。今回の分析では9人を対象としたが,今後,前回の対象者4人分のデータの再分析も含めてより多くの研究対象者に実施することで,より信頼性の高い分析結果を得たいと考えている。 前研究から引き継いだ本研究の最終的な目標は,1年次の若手教員でも,授業力が発揮できるように教員養成教育をいかに行うべきかについて,また,新学習指導要領を踏まえ新しい評価の観点にも対応した講義シラバスの改善も含めて見直していくことである。そのために,今回の研究で明らかになった「導入部簡略型」の授業における発話の重要性についても,講義において意識して指導を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
質的データ分析用の新ソフトを購入。残りは、主として記録データの文字起こしに係る費用に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)