2017 Fiscal Year Research-status Report
ポストアート時代に構想する重層的な美術教育カリキュラムモデルの開発
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17K04783
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
永守 基樹 和歌山大学, 教育学部, 教授 (40164470)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永沼 理善 和歌山大学, 教育学部, 教授 (20304173)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 美術教育 / カリキュラム開発 / 絵画教育 / モダニズム美術 / モダニズム絵画 / 参加型アート / ソーシャリー・エンゲイジド・アート / リレーショナルアート |
Outline of Annual Research Achievements |
1990年代以降の四半世紀、現代美術では、「ポスト・アート」と呼ばれるような状況が生じ、近代の枠組みを超えたアートが浮上。また同時代には、情報化とグローバル化に対応する(脱近代の)教育改革の諸潮流が顕在化した。この史的状況をふまえ、美術と教育との関係性をモダニズムを遡行しつつ再構築し、近未来の美術教育のビジョンを、カリキュラム開発のなかに探求することが研究目的である。 以上の目的に沿って平成29年度においては、以下のA・B・Cの3点から研究を推進した。研究活動は9回におよぶ研究会での討議を場として、研究代表者と研究分担者、そして研究協力者-鷹木朗(京都造形芸術大学)、保富仁之(和歌山県立田辺高校)、湯川雅紀(関西福祉科学大学)、西井惠美子(和歌山市立藤戸台小学校)、辻大地(子どもアートスタジオ)、南洋平(和歌山県立粉河高校)、北野諒(京都造形芸術大学)-の緊密な連携のなかで行われた。 A.「モダニズム絵画をモデルとしたイメージ創造の [基本教育]と、1970年代アートをモデルとした[基礎教育]のカリキュラムモデルの開発」:モダニズム絵画の論理に依拠した美術教育の理論的探究と、それに基づく題材開発を行った。それぞれ出版活動や口頭発表などを通じて公表している。 B.「1990年代アートをモデルとした[メタコミュニケーション教育]のカリキュラムモデルの開発」:参加型アート、リレーショナルアート、ソーシャリー・エンゲージド・アートなどの理論と実践を美術教育の観点から検討し、コミュニケーションをメタ的視点から批評する美的コミュニケーションの実践としての美術教育のビジョンを探求した。いくつかのモデル題材を開発し、実践を試行しつつある。 C. 「以上3つのカリキュラムを統合した重層的な美術教育のビジョンの呈示する」:重層的なカリキュラムのモデル図式をいくつか検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度における本研究プロジェクトの進捗状況を、以下のA、B、Cの3点から報告する。 A.「モダニズム絵画をモデルとしたイメージ創造の [基本教育]と、1970年代アートをモデルとした[基礎教育]のカリキュラムモデルの開発」:モダニズム絵画史を遡行することにより、モダニズムの美術のエッセンシャルな内容を抽出、構造化するために、以下の作家の作品を教育の観点から検討し題材化を行った(前年度からの継続研究も含む)。それぞれの題材は実践を通して検証され、一連のカリキュラムとして構造化されつつある。 エルスワース・ケリー、ブライス・マーデン、サイ・トゥオンブリ、李禹煥、フランク・ステラ、バーネット・ニューマン、マーク・ロスコ、モーリス・ルイス、ジャクソン・ポロック、ピエト・モンドリアン、アンリ・マティス。 B.「1990年代アートをモデルとした[メタコミュニケーション教育]のカリキュラムモデルの開発」:参加型アート、リレーショナルアート、ソーシャリー・エンゲージド・アートなどの理論と実践を美術教育の観点から検討し、メタ・コミュニケーション-コミュニケーションとは何かを問いかける美的実践-の活動を「教育」として、芸術教育の文脈のなかに位置づける理論的基礎作業を行った。コミュニケーションを生成させるゲームを考えさせる活動や、対話を通じた表現活動に関する題材開発を進行中である。 C.「以上2つのカリキュラムを統合した重層的な美術教育のビジョンの呈示する」:モダニズムとポスト(レイト~オルター)モダニズムの二者の統合のあり方について、新学習指導要領の受容のあり方、絵画教育の今後の再生の方途などに関する書籍や学会やシンポジウムでの口頭発表などを通じて公表活動を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は当初の計画に沿って、前年度に引き続き、以下の研究を更に進めて行く。大きな計画の変更はない。 A. モダニズム絵画をモデルとしたイメージ創造の[基本教育]と、1970年代アートをモデルとした[基礎教育]のカリキュラムモデルの開発。(先行科研プロジェクトの成果のブラッシュアップ)(1)ドローイングとペインティングの往還によるイメージ生成の題材開発とカリキュラムモデル作成(2) [図と地]構造の成熟としてのイメージ創造教育のカリキュラムモデル作成(3) 世界との感覚を通しての出会い(造形遊び=汎領域的基礎教育)から芸術形式との出会い、美的リテラシーの獲得へと連なるカリキュラムモデルの作成 B. 1990年代のメディアアートと参加型アートをモデルとした[総合教育:メタコミュニケーション教育]のカリキュラムモデルの開発。(1) リレーショナルアート、ソーシャリー・エンゲージド・アート(cf.パブロ・エルゲラ)などの参加型アートについて、最前線のアーティストや実践者と 対話しつつ調査分析を行う。(2) メディアアートの近年の動向を踏まえて、そのインタラクティヴなアート形式を検証することを通じて、その教育への展開の可能性を探る。先行科研(2002-07)を踏まえ、当時の海外協同研究者であるジャン=ルイ・ボワシエ氏(パリ第8大学)との連携を含め、アーティストや評論家との対話を通じてカリキュラムモデルの開発を行う)。
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Causes of Carryover |
平成29年度研究において、購入予定であったカラープリンタやデジタル一眼レフカメラについて、研究代表者が所属する教室での共有物品での使用が支障なく行われて、購入の必要性が薄れたことにより、購入を見合わせた。その予算で、関連するアーティストたちへの聞き取り調査などを行いたい。
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