2018 Fiscal Year Research-status Report
戦前期中等学校国語科教科書における古典教材の採録状況に関する研究
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17K04786
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
小笠原 拓 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (20372675)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中等学校国語科教科書 / 戦前期中等教育 / 古典作品 / データベース |
Outline of Annual Research Achievements |
二年目は、一年目の研究によって明らかとなった本研究領域の状況、具体的に言えば、中等学校国語科教科書の出版状況に関する情報が十分に整理されていないことを踏まえて、改めて研究を推進する方法論と体制作りを中心に作業を進めてきた。作業をより円滑に行うために、以下二つの方法で研究の推進を試みようと考えた。 第一に、現在分かっている中等学校国語科教科の出版状況に関する情報を整理し直し、現状の情報では、実際の出版状況との乖離が大きく、歴史的な事実を踏まえた研究となり得ないことを特定の教科書を素材として具体的に明らかにすることを行った。戦前期の代表的な中等学校国語科教科書の一つとして評価されている吉田弥平編吉田弥平編『中学国文教科書』(光風館書店)を取り上げ、本教科書の出版状況、改編の過程、検定の有無を整理し直すとともに、その過程において教科書に掲載されている古典作品の採録状況がどのように変化しているのかを分析した。その結果、これまで行われてきたような田坂文穂『旧制中等教育国語科教科書内容索引』(1984年、教科書研究センター)等をもとにした分析では、実際の出版状況を反映したものとは言えず、古典教材の採録状況も実際とは全く異なるものとなってしまうことを明らかにした。 第二に、上述の事実を踏まえ、研究の道筋の再構築を試みた。具体的には『検定済教科用図書表』(1985-86、復刻版、解題・中村紀久二、芳文館)に基づいて、中等学校国語科教科書の検定状況を整理し、出版の全体状況を把握することを研究の第一段階とした。それを踏まえた上で、第二段階として、出版状況が明らかとなった国語教科書について、目次をデータベース化し、それを分析することを目指そうと考えた。付け加えて、今後は、この二段階の作業を行うために他の研究者との積極的な連携を目指すこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度と比較し、問題の所在が十分に明らかにされてきたことにより、研究の方向付けが明確となってきたことから、おおむね順調に進展していると評価した。先の「研究実績の概要」において述べた第一の作業の内容については、第135回全国大学国語教育学会において自由研究発表を行い、その成果を広く学会に問うことができた。またこの発表をきっかけとして、類似するテーマの研究を行っている別の研究グループと、今後の連携を確認することができた。このことは、本研究の意義や方向性の正しさを示す証左であるとともに、今後の進展を大きく期待させる事実である。 さらに他の研究グループや関連する研究を行っている研究者との連携が深まるにつれて、先に挙げていた具体的な研究作業が大きな進展を見せていることがある。連携グループのメンバーや他の研究者により、既に中学校国語科の教科書および中等学校全体の文法書に関する検定状況が整理されていることが明らかとなった。それらの事実を踏まえ、本研究においても高等女学校の国語科教科書に関する検定状況の整理を完了することができた。現在は、中等学校の一つである師範学校や実業学校の検定状況について整理を進めている。 これらの成果については、第136回全国大学国語教育学会において、ラウンドテーブル形式での発表が既に予定されている(発表申込済)。本ラウンドテーブルにおいて、研究の具体的な進展を示すとともに、今後に予想される更なる大きな作業について、多くの研究者からの協力を得ることができるのではないかと期待している。 上記のような研究状況から、当初予定していたデータベース構築の基盤的な研究が形作られつつあり、その研究体制についても整いつつあると言える。以上のことから、研究はおおむね順調に進展しているということができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで述べてきたように、データベースの基盤となる戦前期中等学校国語科教科書の出版状況については、本年度の研究によって大幅な進展を見ることができる。但し、これらをデータベース化し、さらにそれぞれの教科書に関する目次データを整理するためには、まだいくつかのハードルが存在することも事実である。今後はそれらのハードルを適切な助言を得ながらクリアし、具体的な成果に繋げていこうと考えている。今後は次の二つの方法で研究を推進する予定である。 第一に、現在の研究連携をさらに進展かつ拡大し、教科書の具体的な目次に関するデータベース作成へと作業を進めていくことがある。おそらく数千冊の教科書を対象とする大掛かりな作業となるため、関係機関とも協力しながら効率的に作業を行っていく必要がある。また完成後のデータベースが有効利用できるように、データベースの構築方法や公開の仕方についても、過去の他教科の例(「明治以降外国語教科書データベース」(外国語教科書データベース作成委員会(委員長:江利川春雄))などを参考にしながら進めたい。 第二に、全体像の構築とは別に、今年度行ったような特定の教科書をもとにした研究を進め、データベースの有効性を先取りして示していきたいと考えている。本年度の研究から見えてきたのは、仮に特定の教科書であったとしても、その出版状況を正確に捉えた上で、採録作品の変遷を整理することによって、教科書の作品採録がどのような意図や背景を通じて決められてきたのかをより具体的に明らかにすることができるということである。これまでそのような研究はほとんど行われておらず、今後の教科書における古典作品の位置づけを考える意味でも重要な研究になると考える。
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Causes of Carryover |
既に述べてきたように、本研究は当初の研究目的と比較して大きな作業が予想され、他の研究グループとの連携および今後の研究の発展が予想される。よって連携の進展に伴う新たな研究課題の構築や科研による申請を踏まえて、研究の方向付けを行う必要があると考え、本年度後半については研究費使用の抑制に努めた。研究の方向が定まり次第、新たな連携対象との研究交流や実際のデータベース作成作業に資金を振り向けたいと考えている。
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