2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K04871
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Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
寺岡 聖豪 福岡教育大学, 教育学部, 教授 (80253368)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 平和教育 / 原爆 / 公害 / 負の記憶 / ミュージアム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は「平和教育の再構築を目的とした平和教育教材を開発する」ことである。平成30年度に行ったことは以下の3点である。
(1)原爆や戦争に関連する博物館・図書館を訪問調査し,平和教育教材に役立つ資料を収集した。訪問調査したのは国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市),広島平和記念資料館,広島県立図書館,広島市立図書館,舞鶴引揚記念館(京都府舞鶴市),沖縄県平和祈念資料館(沖縄県糸満市),那覇市立図書館,ナガサキピースミュージアム(長崎県長崎市),ピースあいち(愛知県名古屋市),満蒙開拓平和記念館(長野県下伊那郡阿智村)である。以上の訪問調査により,原爆だけでなく,空襲,沖縄戦,引き揚げ・復員などアジア太平洋戦争によって戦争に巻き込まれた人びとの状況を知る上で欠かすことのできない資料を収集できた。とりわけ多くのミュージアムを見学したことにより,戦争体験者がいない時代における平和教育を考えるための示唆を得た。 (2)広島平和記念資料館では被爆体験証言者の記憶に残る被爆時の光景を若者が絵に描き,当時の状況を伝える「次世代と描く原爆の絵」事業を平成16年度より行っている。この事業に,広島市立基町高等学校創造表現コースでは有志の生徒が「原爆の絵」制作ボランティアとして平成19年度より参加している。広島市平和記念資料館に通うなかで,このことを知り,高校生と被爆者の活動を参与観察した。この活動は被爆者のいない時代における被爆体験の継承に示唆を与えるものであり,「原爆の絵」の制作過程を記録した。 (3)環境ミュージアム(福岡県北九州市)を訪問し,公害経験の継承を考えるために,どのようにミュージアムにおいて公害が展示されているかを調査した。公害は戦争や原爆と同じように「負の記憶」であり,公害経験の継承と戦争体験の継承を比較することによって平和教育教材を開発するための示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)研究2年目に当たる平和30年度は多くのミュージアムを訪問調査した。多くのミュージアムに足を運んだことにより,ミュージアムのスタッフにインタビューし,それぞれのミュージアムの現状と課題を把握することができた。また,ミュージアム研究の動向を概観し,平和ミュージアムのあり方についても検討できた。これらの成果をもとにして,日本教育学会第77回大会(宮城教育大学)において,「原爆投下とミュージアム」という題目で発表することができた。そして,この発表内容をもとにして福岡教育大学紀要に投稿し拙論は掲載された。 (2)基町高校の「原爆の絵」に関する活動は被爆体験を語り部から単に聞くだけでなく,それを絵に描くという活動である。これは被爆体験に関する世代間継承のユニークな取り組みであるが,その教育的な意義を考察した研究は管見の限り行われていない。それゆえ,基町高校に通い,被爆者と高校生との活動を参与観察できたことは平和教育の再構築にとって示唆を与えるものだった。 (3)公害の発生からすでに50年余りが経過した。そのため,公害の被害にあった人も公害を目の当たりにした人も少なくなっている。この点は戦争体験・被爆体験とも共通する。そこで,公害体験の継承という課題を検討するために,環境ミュージアムを訪問し,公害がミュージアムにおいてどのように展示されているかを同館スタッフにインタビュー調査するとともに,資料を収集した。
以上のことにより,「平和教育の再構築を目的とした平和教育教材を開発する」ための準備が整ったと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度は以下の3点に取り組む予定である。
(1)これまで訪問調査したミュージアムで収集した資料を原爆,沖縄戦,復員・引揚というテーマで分類し,小学生・中学生を対象とした教材ハンドブックを作成する。その際,これまで作られてきた平和教育教材を再検討し,子どもたちが当事者意識を持って学ぶことのできるハンドブックを作成する。 (2)基町高校で行われている「次世代と描く原爆の絵」事業の参与観察をもとにしてその研究成果をまとめ,学会で発表するとともに,論文化する。 (3)環境ミュージアムの事例をもとにして,「公害とミュージアム」というテーマで学会発表するとともに,その研究成果を論文化する。 以上のことにより,「平和教育の再構築を目的とした平和教育教材を開発する」という目的を達成したい。
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Causes of Carryover |
資料整理のために学生をアルバイトとして雇い上げることを予定していたが,研究代表者自身で資料を整理することができたので,平成31年度末に作成する教材ハンドブック印刷費の一部にあてる計画である。
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