2018 Fiscal Year Research-status Report
「多面的・多角的に考える道徳」「議論する道徳」に関する教育思想史的研究
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17K04874
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
上地 完治 琉球大学, 教育学部, 教授 (50304374)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 佳世 横浜国立大学, 教育学部, 准教授 (50454153)
小林 万里子 岡山大学, 教育学研究科, 准教授 (90325134)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 道徳特設論争 / 道徳の教科化 / 教師の指導性 / 勝田守一 / 森昭 / 人間形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、前年度の研究成果をさらに掘り下げる形で研究をすすめた。 まず、戦後の道徳教育における教師像を道徳の時間の特設前後に着目して抽出した。戦前の修身科への反省を出発点とした戦後の道徳教育では、子どもの主体的な学習を促進する教師の指導が求められ、それを「子どもに寄り添う教師」「子ども同士の関係を築く教師」としてまとめた。そして、こうした教師像を価値内面化授業、価値の明確化の授業、モラルジレンマ授業という道徳教育の指導方法の中で考察し、「子どもの主体的な学習を実現するための教師の指導のあり方」という教師の指導性の問題が重要であることを明らかにした。 こうした道徳教育の戦後の展開の中に勝田守一の道徳教育論を位置づけて分析すると、米ソ冷戦や逆コース、階級的観点からの指摘も見られるが、それよりも、自主的判断の強調や、知的な学習の意義、国民教育の確立、生活指導と道徳教育の関係といったより内在的な問題関心を有していたことがわかる。そして、勝田の主張が「生活指導イコール道徳教育という考え方に対する批判」であり、知的な発達という観点からも道徳教育を捉えているという特徴は、道徳の教科化の議論において注目されるようになったシティズンシップ教育と道徳教育の接近(ないしは近距離性)を暗示するとも言えよう。 また、森昭の道徳教育思想の解明を進めた。人間形成(生成)の視点から構築された道徳教育の理論は、教育内容と主体のあり方を分離させない考えに基づくものであり、当時の社会生活への考察を必要とするものであった。森の述べる人間生成とは、成長を意味するだけではなく覚醒も意味し、そのことが社会生活の中で実践されることを理想としており、道徳教育においても内面と実践の統一が目指されていたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
戦後の道徳教育において議論された教師像を抽出して、「多面的・多角的に考える道徳」「議論する道徳」という観点から考察するという課題については、研究2年目の成果の一部を公表することができたが、勝田守一の道徳教育論を「多面的・多角的に考える道徳」「議論する道徳」という文脈から考察する作業や、森昭の道徳教育論に関する研究成果の公表は2019年度に持ち越された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度にあたる2019年度には、道徳の教科化の特徴として取り上げた「多面的・多角的に考える道徳」「議論する道徳」の特質や課題について、勝田守一、森昭、平野武夫の道徳教育論に依拠して論じるとともに、こうした道徳のあり方をどのようにして「学び」へと適切につなげるかという最終的な課題についても取りまとめる。そして、3年間の研究成果を学会・紀要等で積極的に公表していく。具体的には、2019年6月に神戸市外国語大学で開催される日本道徳教育方法学会第25回大会で研究成果を発表する予定である。
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Causes of Carryover |
2018年度の研究成果の公表(学会発表)が2019年度にずれ込んだことと、研究の若干の遅れが物品費の繰り越しにつながってしまった。最終年度にはこうした遅れが取り戻される予定であり、今年度発表できなかった成果報告は次年度におこなうことで、この問題は解消される予定である。
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Research Products
(1 results)