2018 Fiscal Year Research-status Report
盲ろう者のコミュニケーション生成・変容過程の手話学的検討
Project/Area Number |
17K04934
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
鳥越 隆士 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 教授 (10183881)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 触手話 / 盲ろう者 / 手話学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,盲ろう者による触手話の特徴とその生成・変容過程を言語学的に解明するものである。手話話者が(アッシャー症候群等により)後天的に視覚に障害を受けた後,使用するようになる触手話は,手話言語の一変種とみなされるが,その言語学的な構成については未解明である。本研究では,まず①触手話のコーパス の構築とその分析的な枠組みの検討を行い,これに基づき,②通常の日本手話から接近手話を経て触手話に至るまでの言語資料を収集し,その変容過程を言語学的に分析・解明する。特に視覚的,空間的な文法装置に着目する。①に関しては,汎用映像分析ソフトELANを用いて,分析のためのプラットフォームの構築を試みた。ただ接触的で微妙な動きは視覚的には十分に解析が困難で,引き続き検討課題を残したままである。当事者の分析への関与も含め引き続き検討中である。また②に関しては,昨年度の5名の盲ろう者に加え,居住地域の異なる2名の盲ろう者の触手話による自然な対話資料を収集した。現在詳細に分析中であるが,これらの対象者は,失明時期やそれまでの手話話者としての経験は様々である。また引き続き,欧米等での先行研究のレビューを行った。昨年度も議論したが,触手話を通常の手話言語の一変種とみなす立場と新たな言語の創出とみなす立場があった。本調査で得た資料の分析からは,通常の手話言語の文法を触覚的に拡張している部分と視覚的な原語には見られない,独自の文法的な特徴の両者が見いだされた。また話者によっては日本語をより援用する傾向も見られた。これらの発話資料に関して引き続き,詳細に分析する予定であるが,触手話の通訳者の発話資料も併せて分析することの必要性も明らかになった。このことについては本年度さらに取り組みたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
触手話に関する先行研究のレビューを引き続き行った。また5人に加え2名の盲ろう者による触手話の対話を収録し,分析を行っている。文法の分析により,もともとの手話の文法の拡張,新たに生まれた文法的特徴,日本語の援用など,明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
さらに先行研究をレビューして,触手話の手話学的な研究の動向を明らかにする。また現在収集した触手話会話の詳細な分析を引き続き行いつつ,触手話通訳者の資料の収集の必要性が明らかになった。盲ろう者と通訳者の平行的な分析を進め,手話の視覚的,空間的文法の変容過程を引き続き解明したい。
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Causes of Carryover |
触手話の資料の収集のための対象者の選定や手続きに時間がかかり,予定した人数の対象者に依頼ができなかった。広範囲の対象者から触手話の資料が得られるよう,引き続き努力したい。
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