2017 Fiscal Year Research-status Report
発達障害のある大学生のための包括的なプランニング力支援プログラムの開発と実践
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17K04942
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
吉田 ゆり 長崎大学, 教育学部, 教授 (20290661)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田山 淳 長崎大学, 教育学部, 准教授 (10468324)
西郷 達雄 北海道医療大学, 心理科学部, 助教 (50622255)
鈴木 保巳 長崎大学, 教育学部, 教授 (90315565)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 発達障害 / 大学生 / 実行機能 / プランニング力 / 修業支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究は、発達障害学生の修学困難となる要因の一つである、実行機能の障害に起因するプランニング力の基礎的研究、及び事例分析によるプランニング力の実態の整理を中心に行った。1)予備研究及び2)研究1「プランニング力のアセスメント」である。 1)予備研究 ①文献研究:青年期の発達障害の、プランニング力をはじめとする実行機能に関わる基礎研究を、文献研究により行った。ほとんどが海外論文・書籍であるため、共同研究者が分担し精読した。また、高齢期や高次機能障害で使われる、標準化された実行機能検査等の項目や構成について研究し、青年期もしくは発達障害を対象とした研究への使用可能性について検討した。②事例の後方視的分析:発達障害学生の過去の事例を数例精選し、面接記録や他のフィールドノーツを後方視的に分析し、プランニング力に起因する困難について整理した。③障害学生支援・学生相談実践実績、特にプランニングに関わる支援を行っている大学を選定:早稲田大学障がい学生支援室(発達障害専門分室)の視察調査を行った他、AHEAD JAPANに参加して他大学の実践のヒアリングや情報交換を行った。 2)研究1 発達障害学生のプランニング力のアセスメントによる分析 ①定型発達学生の学生生活における課題分析として、定型発達学生100名(長崎大学在学生1~4年生)への、予備研究を元に作成した、大学生活の様々な場面を想定した質問紙調査を行った。その上で、10名への半構造化面接を行い、データの質的分析を行い、大学生活に必要なプランニング力の項目収集を行った。これらの結果を基に課題分析表の作成を行ったが、現在も作成中であり、継続して行う予定である。②発達障害学生のプランニング力のアセスメント:発達障害学生10名(長崎大学在学生1~4年生)の面接によりエピソードの収集、知能・認知発達検査の実施とメンタルヘルス検診結果情報の統合を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究の中心は予備研究及び研究1として発達障害学生のプランニング力のアセスメントについてである。 具体的には第1の目標として、予備研究により、発達障害の青年期における実行機能の基礎的理論を研究し、プランニング力を含めた実行機能の理論的枠組みを作成した。さらに定型発達学生100名(1~4年生)に対し質問紙調査を行い、さらにそのうちの10名に対して半構造化面接を行い、具体的な大学生活のライフスキルについてこれらのデータを得ることができた。目的は大学生活に必要なプランニング力の項目を収集し課題分析表を作成することにあったが、面接のみを念頭に置いた当初計画よりも拡充した研究となっている。現在はこのデータを元に課題分析表の作成をおこなっている。 さらに第2の目標としては、発達障害学生10名(1~4年生)を対象として継続した面接を行うことであったが、対象数は現在のところ9名であるが、特に大学生活を中心としたエピソードの収集を詳細に行い、可能な範囲でのGPA推移の参照、メンタルヘルス検診結果を統合することができ、既存ツールやスクリーニング尺度を活かしたテストバッテリーの構成(知的・認知発達、実行機能検査結果等)と実施を継続していることから分析に時間を要しているが、研究の進展としては順調である。 第3の目標である支援ニーズに焦点化したプランニング力の評価については、当初計画より平成30年度までかけて実施する予定であったため、計画通りである。一方で、発達障害学生を研究対象とし、障害種ごとの分析は予定していなかったが、研究の進捗状況より、実行機能、特にプランニング力と大学における修業には大きな関連があることが明確になりつつあるため、ADHD(注意欠如多動症)学生に焦点化した分析も必須であることがわかりつつある。よって研究の発展も見込まれており、概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度以降の計画は以下の通りである。 ◯研究1の継続として、大学生活に必要なライフスキルの課題分析表を完成させる。作成した課題分析表を、面接した発達障害学生10名(現在は9名、増やす予定)に実施し、信頼性・妥当性を検証しつつ修正を行う。結果から、発達障害学生10名が苦手、あるいは困難が明白である領域及び項目を確定させる。 ◯研究2はプランニング力支援プログラム(入学前・初年次)開発を目的としている。研究1の成果を元に全員で協議を重ね、分析し、大学生活に特化した、修業困難をターゲットとしたプログラムを開発する。必要に応じて追加面接や多職種からのヒアリングを同時に行う。プログラムは、作成した課題分析表により修業スキルごと(出席、レポートの提出、実験場面、実習場面など)に場面を想定する。 ◯研究3 試行によるプログラムの妥当性信頼性の検証を行い、ワークブックを作成する。ワークブックは、自記式を基本とする形式を考えているが、これまでの研究から、ワークブックの実施については、個々の事例ごとに再面接し、綿密で構造的なコーチングが必要であろうと考えている。ワークブックは、コーチングがあることを念頭に置いて作成する方向である。よって、コーチングの方法についても先行研究の分析やそのあり方についての検討を行う。その後、発達障害学生10名を対象に6ヶ月間(半期)プログラムを試行する。試行の様子を見て信頼性・妥当性についての検討を行う。その結果を踏まえ、協議の上結果を統合し、コーチングと併用するワークブック(簡易印刷)を作成する予定である。結果は学会発表を行う。さらに総合的な研究結果は学会発表及び国内誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
・物品費(設備備品含む)については、購入予定であったアセスメントツールのうち知能検査・認知検査(WAIS、KABC-Ⅱ、DN-CASなど、及び分析物品やソフト)について、テスターが予定より1名少なく、既存物品を利用することができたことによる。次年度以降はテスターを雇用するなどして検査の実施を進める予定であるため、検査ツールの購入、分析物品やソフトと人件費が必要となる予定である。 ・視察調査及び成果発表について、予定していたより2カ所ではなく1カ所にとどまったことから出張旅費が使用されなかった。次年度に視察調査を繰り越して実施する予定である。
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