2017 Fiscal Year Research-status Report
高次ナノ構造を持つ新規容器型物質カーボンナノポットの特異構造と複合協働的機能開発
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17K05008
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
横井 裕之 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (50358305)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸田 敬 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (90264275)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ナノカーボン合成 / 表面電位変調 / グラフェン端 / ヒドロキシル基 / 第一原理計算 / ガス吸着 |
Outline of Annual Research Achievements |
カーボンナノポットの合成に用いる液面下基板加熱型化学気相合成(CVD)装置において,電極形状を変更することにより,合成基板を鉛直に配置できるようにした。従来は水平配置であったが,鉛直配置にすることにより加熱基板の両面で合成条件をそろえてCVDを可能とした。合成温度は従来どおり900℃まで昇温可能であった。また,合成基板への原料ガスの供給がスムーズになるようガス流路を変更した。その結果,基板1枚あたりの生成量も増大させることができた。 カーボンナノポットの構造と表面解析のために既存のラマン分光システムに顕微分光ヘッドを組み合わせた。当初は初年度に光ファイバー光学系で顕微分光システムを一旦立ち上げることにより早期にカーボンナノポットの評価を始める計画であったが,予算縮小に対応して次年度予算を一部前倒しすることにより直接接続方式の顕微ラマン分光システムを立ち上げた。 プローブ型顕微鏡による表面解析では,カーボンナノポットの縮径中空胴部と開口端で表面電位が多層チューブ部と閉口端に比べて約5mV上昇することをケルビンフォース顕微鏡(KFM)により見出した。その起源について調査するために,縮径中空胴部と開口端のグラフェン端の形状とその終端炭素原子の修飾基をさまざまに変えた構造をモデル化して第一原理計算を行った。その結果,ヒドロキシル基終端のジグザグ端の場合にKFMによる実験結果とよく合うことが分かった。 電気伝導特性の評価については,電極付け工程を工夫することにより電極付け用基板洗浄時の試料流失の問題を解決して,電気伝導特性に対する雰囲気ガスの調査を行った。その結果,酸素ガスへの暴露により抵抗値が10%程度増大することを確認した。また,一本のカーボンナノポットについて1.7K,15Tまでの極低温強磁場二端子電気抵抗測定を行い,磁気抵抗の負から正への変化や振動的振舞いを観測した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
合成装置の設計では,基板配置の変更による生成物の収量増大という成果が得られた。構造解析では,顕微ラマン分光システムについて計画変更があり,測定への活用に遅れが生じているが,システムの立ち上げについては次年度の計画を考慮に入れると加速になっている。表面解析ではカーボンナノポット特有の構造に起因した表面電位変調の観測に成功した上に,第一原理計算を利用することにより実験結果に合う構造を示唆できたことは重要な進展であると考えている。電気伝導特性についても電極付けが想定よりも困難であることがわかったが,酸素吸着による電気抵抗変化を観測できた。また,極低温強磁場下電気抵抗測定では二端子測定ではあるが磁気抵抗の測定に成功し,特異な振舞いを観測できた。以上によりおおむね順調に成果が得られていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
カーボンナノポットの合成に関しては,新しく開発した基板鉛直配置型合成装置において,触媒担体である酸化グラフェンの酸化度,触媒用金属錯体,合成温度,合成時間,昇温温度などの合成条件を系統的に調整して,それらの合成条件がカーボンナノポットの形態や収量に与える影響を調査する。 カーボンナノポットの構造・表面解析に関しては,初年度に構築した顕微ラマン分光システムで縮径胴部表面のグラフェン端の構造に由来するラマンスペクトルを抽出する。プローブ型顕微鏡による表面分析では,ガス吸着による表面電位の変化を調査し,酸素吸着サイトの特定などを行う。 電気伝導特性の解明に関しては,カーボンナノポットへの電極付けが想定よりも困難であるため四端子プローブ付き走査電子顕微鏡を用いた四端子測定を試みる。電子線描画による四端子素子開発にも引き続き取り組んで,極低温・強磁場下での電気抵抗測定を行うことにより二端子測定で見出した特異的振舞いの再現性を確認し,さらに電気伝導機構を解明する。また,くし型電極素子の開発も平行して取り組むことによりガス吸着特性の検証を先に進める。
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Causes of Carryover |
顕微観察対応ガス検知セルの設計見直しにより計画よりも開発費用が少なくて済んだ。今年度は手持ちの酸素・窒素ガス等を用いて動作確認とガス検知特性を検証を行い,その結果を踏まえて次年度に検証するガス種を決定する計画であったので,余剰分の研究費は次年度に検査用ガス購入費として使用する方が有効であると考えた。次年度はその方針通り余剰分の研究費を検査用各種ガスの購入に充てる計画である。
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