2018 Fiscal Year Research-status Report
グラフェンを用いた硬/軟ハイブリッド基質によるヒト間葉系幹細胞の分化誘導
Project/Area Number |
17K05009
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Research Institution | Nippon Institute of Technology |
Principal Investigator |
伴 雅人 日本工業大学, 基幹工学部, 教授 (70424059)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
沖川 侑揮 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (50635315)
石原 正統 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (70356450)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | グラフェン / 幹細胞 / 分化 / 神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、神経系疾患に対する細胞治療技術に資するための神経系細胞供給源として、ヒト間葉系幹細胞をより短時間で効率的に神経系細胞への分化誘導が可能な細胞足場用基質を提供することを全体構想とする。この中で、超高弾性率・導電率という特異な特性を持つグラフェンを付着させた軟質基質を伸展しグラフェンを微細なドメインに断片化させた「硬/軟ハイブリッド基質」を作製し、これを用いたヒト間葉系幹細胞の培養試験により、神経系細胞への分化誘導に対し、生化学因子を用いる手法の代替あるいはその効果を相乗的に高めることが可能な足場基質を設計することを目的としている。 当該年度は、前年度に引き続きグラフェンの存在効果の検証を行い、その結果、グラフェンが付着したポリジメチルシロキサン(PDMS)軟質足場基質上でヒト間葉系幹細胞を培養すると、グラフェンが付着されていない同基質に比べ、細胞は大幅に増殖し、また、より伸展することを定量的に明らかにすることができた。また、現段階ではクロスチェックが必要な段階ではあるが、免疫染色法により、神経細胞への分化誘導因子であるレチノイン酸を含まない培地において、グラフェンがPDMS上に存在することにより、ニューロンマーカーであるMAP2やTuj1を発現した細胞の増殖が促進される、ということが推測された。また、前年度に課題となった低弾性率の軟質基質表面へのグラフェンの転写やそのハンドリングについては、基板構造やプロセスの改善により解決することができ、実験の効率化が図られた。グラフェンを微細なドメインに断片化する方法については、その制御性や再現性に課題が残り、グラフェンの転写プロセスの改良や評価方法の見直しが必要となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、プラズマ支援CVD法により成膜した高品質グラフェンを軟質材料に転写付着させ、この基質を伸展させることでグラフェンを断片化させた「硬/軟ハイブリッド基質」を作製し、これを足場としてヒト間葉系幹細胞を培養し、その形態変化および分化誘導に関する評価を行うことが、計画の全体概要である。 当該年度は、前年度に課題となった低弾性率の軟質基質の作製とその表面へのグラフェンの転写手順について、実験におけるハンドリングの面からも再検討を行い、カバーガラス上に硬/軟ハイブリッド基質を乗せた基板を作製した。これと、コントロールとしてPDMS(グラフェン無し)を足場として、神経分化誘導培地(含:レチノイン酸)のほか基本培地を用いて、ヒト間葉系幹細胞を2週間まで培養した。培養後、蛍光染色により、細胞核および細胞骨格となるF-アクチンを蛍光顕微鏡にて観察・撮影し、得られた画像を解析することで、細胞数および細胞形態の定量データを得た。その結果、グラフェンがPDMS上に存在することにより、細胞は大幅に増殖し、より伸展することがわかった。また、免疫蛍光染色にて神経系細胞マーカーとなるMAP2、Tuj1、GFAPおよびnestinの発現について調査した。具体的には、蛍光顕微鏡での観察・撮影にて得られた画像から、全細胞数と発現割合の相関について評価した結果、PDMSにグラフェンを付着させることで、神経細胞への分化誘導因子であるレチノイン酸を含まない培地において、ニューロンマーカーであるMAP2やTuj1の発現割合を維持したまま、大幅に細胞増殖を促進できる可能性があることが推測された。ただし、本染色試験での発現については、遺伝子発現解析などによる追加実験にてクロスチェックを行う必要があり、この意味では当年度は暫定的な結果に留まった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる来年度は、より新規性・実用性のある目標を達成することを念頭に、この2年の研究において判明した多くの課題に優先順位をつけ、効率的に実験を進めていく。つまり、当初計画である、神経系細胞への分化誘導に対しより効率的で時間的な優位性を示す基質の設計指針が示されるようなデータを得るということに基盤は置くものの、特にニューロンとグリアへの選択分化に利用できるような硬/軟ハイブリッド基質の設計を目指したいと考えている。その上で、具体的には、当該年度改善した方法での基板作製とこれによる細胞培養試験を次年度も継続して実施し、まずは遅れている部分として早急に、当該年度に得られた免疫蛍光染色での発現結果のクロスチェックとして、リアルタイムポリメターゼ連鎖反応(RT-PCR)装置による遺伝子発現解析を行い、ニューロンおよびグリアへの分化のレベルの比較評価を行う予定である。そして、グラフェンのドメインサイズと弾性率の異なる数種類の硬/軟ハイブリッド基質を作製し、当該年度までに確立した方法にて細胞培養および評価試験を実施する。ドメインサイズについては再現性のあるコントロールが難しいことがわかってきたため、異なるプロセスで作製した基板の異なる表面構造と培養結果との相関という視点でのまとめ方となる可能性が高い。 外部発信については、得られたデータは随時各種学会にて発表・議論をしながら、グラフェンの存在による細胞増殖促進と形態変化に関する結果を先行して論文化し、さらに、免疫染色および遺伝子発現解析結果を整理し論文投稿する計画である。
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Causes of Carryover |
消耗品使用が計画より低額で収まったため次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金と合わせて、細胞分化評価のための抗体などの消耗品購入に充てる予定である。
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Research Products
(8 results)