2017 Fiscal Year Research-status Report
レアアースフリー蛍光体のためのAgゼオライトにおけるPL機構の解明
Project/Area Number |
17K05026
|
Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
鈴木 裕史 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (50236022)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮永 崇史 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (70209922)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | ゼオライト / フォトルミネッセンス / Agクラスター / XAFS |
Outline of Annual Research Achievements |
レアアースを使用しない蛍光発光物質であるAg型ゼオライトについて、本研究は以下の2点に目的をおいて研究を遂行した。 A:これまでは励起光に405 nmを主に用いてきたが、より短波長の励起光を網羅的に用いることにより、これまで見落としてきた可能性のある発光種を探索した。本申請で購入した蛍光分光器を用い、励起光として220 - 600 nmを連続的に照射したところ、これまで405 nm励起で観測されていた蛍光は、A型ではサブバンドでありX, Y型ではメインバンドの裾野であることが判明した。メインバンドはA, X, Yそれぞれで530, 510, 460 nmであり、励起波長は270 - 350, 260 - 350, 250 - 330 nmであった。この励起波長帯は人体に最も悪影響を与える紅斑紫外線領域とほぼ一致していることが明らかとなった。加熱処理温度依存性も調査し、最大強度の蛍光が得られるのは加熱時間が3時間の場合A, X, Yそれぞれ400℃, 500℃, 700℃であった。 B: 発光源がゼオライト骨格である場合に、Agクラスターの役割は何か? クラスターの存在によって骨格の構造がどのように影響を受けるか調べる。そのためにゼオライト骨格原子であるAlおよびSiのK端XAFSを測定し、ゼオライト骨格の構造変化を調査した。データは現在解析を勧めている段階であるが、Agの存在および加熱処理により骨格に歪みが生じていることは明らかとなった。また、冷却開始直後からの蛍光発光を1分毎に計測したところ、Agクラスターの崩壊過程およびそれに伴うAgイオンの位置変化が原因と思われる蛍光発光エネルギーおよび強度の変化が観測できた。同様の測定をXAFSで行うことにより、この仮説を実証する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
広範囲の波長にわたって励起を行うことにより、これまでとは違う励起波長・蛍光波長の蛍光発光を発見した。これは当初の二つの目的のうち一つを達成したことを意味する。さらに、この励起波長領域は人体に最も悪影響を与える紅斑紫外線領域とほぼ一致しているため応用範囲がさらに広がると考えられる。今後は今回発見されたメインバンドの各種挙動を中心に研究を遂行する。 XAFSによる測定により、Agクラスターの形成と崩壊によりゼオライト骨格に歪みを与えていることを明らかにした。PLの発現はこの骨格の歪みにより引き起こされていると考えている。このことはAgが蛍光発光に直接関与していない可能性を示しており、他の元素を用いても蛍光発光が観測されうることを示していると考えられる。 加熱後の冷却過程における時間依存蛍光発光測定により、Agクラスターの崩壊とその後のAgイオンの移動を示唆する結果が得られた。因みに、冷却開始直後には顕著な蛍光発光は観測されておらず、これはAgクラスターが発光点では無い事を示していると思われる。この測定結果は、これまでに真空中加熱後真空中(XAFSによりこの状態ではAgクラスターが存在している)で行った蛍光発光測定結果(顕著なPLが観測されない)を支持する結果である。 以上のように、当初の目標であった二つが順調に進んでいる。さらにこれらに加え、加熱終了後・冷却開始過程におけるAgイオンの動きが捉えられる可能性もでてきた。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度は予定通りの進行に加え、新たな知見も得られている。次年度以降は初年度の結果を踏まえ、当初の目的を達成するため以下に示す方向で研究を進める。 新たに発見した300 nm前後の励起光による蛍光発光のさらなる伸展。焦点をこの波長の蛍光発光に合わせ、加熱温度のみならず加熱時間に対する発光エネルギー・強度の依存性を明らかにする。また、Ag K端のXAFS測定およびその解析をこのメインバンドの挙動をもとに行うことにより発光発現機構の解明に取り組む。これは今後の応用展開において重要な知見となる。 既存の低圧水銀灯光源に313 nmのバンドパスフィルターを組み合わせ、既存のマルチチャンネル分光器とともに高エネルギー加速器研究機構のPF・ARに持ち込み、XASFと蛍光発光の加熱後冷却時間依存性を同時に観測する。このことによりAgクラスターの形成・崩壊およびAgイオン移動過程と蛍光発光の関係性を明らかにする。 これまでのXAFS測定はスペーサーを用いて厚さを規定したAgゼオライトをカバーガラスで挟むことにより行ってきた。(この測定法はこれまでの蛍光発光測定と同じ条件である。) しかし、この方法は加熱後冷却時間依存の測定には適さない。そこで新たにカバーを用いない方法を用いる必要がある。そのためには、XAFS測定に蛍光法を採用しなければならい。蛍光法では試料の自己吸収による弊害を取り除くため、試料を物理的に薄くする、あるいは信号を与えない物質で希釈する必要がある。本研究では他の物質で希釈するのでは無く、Na型ゼオライトで希釈することによりAg-k端の測定を試みる。Na型で希釈することで蛍光発光に影響を与える可能性は十分に考えられるので、XAFS測定を行う前に同じ条件で蛍光発光スペクトルを観測しておくことが必要となる。ゆえに、Na型ゼオライトで希釈されたAg型ゼオライトの蛍光発光測定を網羅的に行う。
|
Causes of Carryover |
最も大きな支出である分光蛍光光度計の価格が、購入する際に入札により見積額より安価になったために次年度使用額が生じた。その額は全体の1.7%程度である。翌年度分の助成金はほぼ消耗品費であり、次年度使用額は次年度の旅費として高エネルギー加速器研究機構等への旅費にあてる予定である。
|