2017 Fiscal Year Research-status Report
Development of three-wavelength absorbing organic photovoltaic cells
Project/Area Number |
17K05029
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
佐野 健志 山形大学, 有機材料システム研究推進本部, 教授 (20374142)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機薄膜太陽電池 / 有機太陽電池 / 光電変換 / 光起電力 / 有機エレクトロニクス / スクアリリウム / タンデム |
Outline of Annual Research Achievements |
「農業応用を目指した3波長発電型透明有機薄膜太陽電池の開発」を研究課題に掲げ、その実現のため、植物が光合成のために用いる青色光と赤色光を透過しつつ、植物に不要な紫外光、緑色光、近赤外光の3波長を吸収して発電する、新たな太陽電池の実現を目的として研究開発を進めている。平成29年度は以下に示す通り重要な研究成果が得られた。 【実施内容】上記研究目的達成のため、各波長領域で光を吸収し発電する材料の開発及び太陽電池基本性能の確認、さらに、異なる波長で発電するセルをタンデム構造化する際に必須の中間層の開発など、主要な要素技術の開発を進めた。 【具体的な研究成果】(1)近赤外域吸収材料として新規スクアリリウム材料を開発し、変換効率7%以上を実現した。(年度目標達成、論文発表:ACS Energy Lett., 2017, 2, 2021.)(2)逆型有機薄膜太陽電池の変換効率を向上させる手段として、発電層/ホール取出層界面での失活を抑制する技術を開発し、変換効率8%を実現した。(従来構造より約1割向上、論文発表:Org. Electron., 2017, 50, 191.)(3)逆型タンデム構造において、電圧加算を可能とする中間層の開発・最適化を行い、タンデム化による電圧ロスが0.03Vと小さい素子を実現した。(論文発表:RSC Adv., 2017, 7, 34664.) 【研究成果の意義、重要性】(1)新規スクアリリウム材料については、材料自体のバンドギャップと開放電圧の差がわずか0.56Vとこれまで発表された材料の中でも最小クラスであり、非常に有望な材料系であることが分かった。(2)逆型構造での界面改良技術及び、(3)逆型タンデム構造の中間層技術は、目的とする3波長発電型有機薄膜太陽電池実現のため有効かつ最重要な技術であり、検証結果が得られたことで、より実践的な素子設計が可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
【進捗状況全体】研究実施計画において設定した、平成29年度の開発項目及び目標:(1)3波長の吸収・発電分担材料の選定と基本太陽電池性能の確認(目標:変換効率7%以上)、(2)中間層構造の基礎検討、に対し、順調に研究全体が進捗しており、設定した数値目標をクリアし、かつそれ以上の数値(変換効率8%)を実現することができた。研究成果面では、論文成果(3報)、特許出願(特願2017-146241)、国際会議での招待発表(ICFPE 2017)など、計画以上の成果を創出することができた。 【進捗状況詳細~材料面】紫外光及び緑色光域で発電する材料については、フラーレン(紫外光~青色領域で吸収)とジベンゾペリフランテン(DBP、500 nm~650 nmで吸収)を組み合わせることで、既に7%以上の変換効率を実現できることを確認している。近赤外光で発電する材料については、新規スクアリリウム材料(D-IDTT-SQ、600 nm~800 nmで吸収)もしくはPTB-7系の高分子系材料(600 nm~750 nmで吸収)が候補であるが、それぞれ7%から8%の変換効率を実現できている(目標以上)。 【進捗状況詳細~デバイス面】透明タンデム構造の開発を目標としており、今回、逆型タンデム構造として[ITO/Ca/C70/DBP/MoO3/Ca/C70/DBP/MoO3/Al]という素子構造を構成し評価したところ、シングルユニット[ITO/Ca/C70/DBP/MoO3/Al]での開放電圧0.89~0.90Vに対し、タンデム素子の開放電圧1.76~1.77Vが得られ、タンデム化による開放電圧ロスは0.03V以下と低く、タンデム素子として良好な電圧加算結果を得た(目標以上)。また、基礎評価段階だが、フィルファクターは最大0.74で、有機薄膜太陽電池の中でも高い値が得られ、今後に期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
【今後の研究の推進方策概要】平成29年度に得られた研究成果を受け、平成30年度は予定した研究実施計画に従い、目的とする「3波長発電型透明有機薄膜太陽電池」の実現を目指す。具体的には、有機薄膜太陽電池素子を2段に組み合わせ、特に、中間層の評価及び作製法確立及び、透明タンデム有機薄膜太陽電池の試作に注力して、研究開発を進める。 【具体的な研究の進め方】既に、平成29年度の検討において、1段目と2段目に同じ発電層(C70/DBP)を用いたシンプルな繰り返し構造のタンデム素子で、良好な電圧加算を確認した。その製法を受け、平成30年度は、1段目に近赤外光発電層、2段目に緑色光発電層と、上下で異なる発電層を用いたタンデム構造を作製し、電圧加算が実現できているか確認する。また中間層の最適化により、開放電圧(Voc)のロスを最小化する(目標:Vocロス0.06V以下)。最後に上部電極を透明化し、透明タンデム構造を実現する。 【潜在的な課題】1段目と2段目の発電層材料が異なることで、光吸収量や内部電界などのバランスが変化し、想定していた電圧加算のバランスが崩れる可能性がある。上部電極の透明化においても同様に、材料系が変化することで電圧面でのバランスが崩れやすい。今回、透明タンデム構造を実現するために、おさえるべき物理パラメータが何か、原理原則に戻って、材料及び素子構造の設計を進める必要がある。また中間層として、現状、Caなどの酸化しやすい材料を用いているが、素子中で、金属膜なのか、酸化物となって機能しているのか、代替でより安定な材料を用いることができるのかなど、独自かつ実用性に寄与する研究内容へも挑戦する。 【研究体制】研究代表者とポスドク研究員の楊氏からなる研究体制を中心に、山形大学の笹部准教授、伊藤電子工業の奥山研究員、また海外とも必要な研究連携を行い、目標達成に向け研究開発を推進する。
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Causes of Carryover |
今年度はITO基板や有機太陽電池材料、ソーラーシミュレータ用Xeランプなどの必要な消耗品については、既に所有していた消耗品を利用し、基礎的かつ重要な実験を集中して行ったため、当初予定していたそれらの研究消耗品購入による支出がなかった。次年度は、本来予定していたITO基板や太陽電池用材料購入、測定用Xeランプやその他消耗品、学会発表等による支出を予定しており、今年度の残額と併せて予定通りの使用を行う。
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