2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of three-wavelength absorbing organic photovoltaic cells
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17K05029
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
佐野 健志 山形大学, 有機材料システム研究推進本部, 教授 (20374142)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 有機薄膜太陽電池 / Organic Solar Cell / スクアリリウム / OPV / シースルー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「3波長発電型有機薄膜太陽電池」の素子作製技術の開発を研究目的とし、吸収波長域の制御された「シースルー発電パネル」の実現を目指している。 2019年度は、材料設計上の課題である近赤外光を吸収し発電する材料の開発を行った。その結果、長波長化に有効な「π-D1-A-D2」型の色素材料の合成指針を見出し、それを実際の材料合成に適用、スクアリリウム色素の吸収ピークを711 nmから748 nmに長波長化(レッドシフト)させることに成功した。加えて太陽電池の変換効率を、4.15%から5.69%に向上させることができた(Dyes and Pigments 163 (2019) 564)。 また、目的とする「シースルー発電パネル」のプロトタイプ開発と展示を行った。具体的には紫外域及び可視光中心波長域を吸収し発電するパネルと、可視光長波長域から近赤外域の波長を吸収する発電パネル(各10 cm角)を試作し、都内(西新宿)リビングデザインセンターOZONE 6Fショールームに展示した(山形大学ニュースリリース2019年5月15日、朝日新聞にも掲載)。さらに、多色・透明有機薄膜太陽電池パネル(最大外形70 cm角)を試作し、JFlex展(2020年1月29日~31日、東京ビッグサイト)にて展示を行った。 以上、新たな材料設計指針により、色素材料の吸収波長を近赤外方向へシフトさせることに成功した。それにより、植物の育成、即ち葉緑素が吸収する青色及び赤色の光を透過し、それ以外の波長域を吸収して発電する有機薄膜太陽電池の実現に向け前進した。都内で展示を行った「多色・透明有機薄膜太陽電池」は、従来のシリコン太陽電池とは一線を画すものであり、デザイン性を有する採光型の発電窓としての応用可能性を提示した。秋季応用物理学会シンポジウムではシースルー太陽光発電に関する講演を行い成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで「3波長発電型有機薄膜太陽電池」、「シースルー発電パネル」の開発を目的として、材料及びデバイス技術の開発を行い、コアとなる複数の技術開発に成功してきた。 材料面では、ソーラーシェアリング用として、植物が吸収する特定の波長を透過しつつ、それ以外の波長を吸収して発電する半透明な有機薄膜太陽電池を低分子系材料で実現した。具体的には、紫外域300-400 nmを吸収するフラーレンと、吸収ピーク波長がそれぞれ580 nm、700 nm、760 nm、820 nmと異なるスクアリリウム色素を用いることにより、吸収波長域がよく制御されたカラフルな半透明有機薄膜太陽電池素子を試作することができ、発電特性や分光感度特性を確認した(ACS Appl. Mater. Interfaces 2018, 10, 31, 26465)。 また、新規スクアリリウム色素として、「A-D-A」型の低分子系材料を開発し、バンドギャップと開放電圧の差である、エネルギーロスを最小化することに成功(多くの有機太陽電池材料の中でも最小クラスのEloss: 0.56 eV)、高い開放電圧0.93 Vを得ることに成功した(ACS Energy Lett. 2017, 2, 9, 2021)。開発した材料については、特許出願を行った。 デバイス面では、タンデム構造、特に逆型タンデム構造の素子の試作に成功、励起子拡散距離の小さい低分子系有機薄膜太陽電池の欠点をカバーし、高いフィルファクター(0.77)を得ることに成功した(RSC Adv. 2017, 7, 34664)。 以上、紫外、可視光中心波長、赤色~近赤外の3波長域を吸収して発電する材料とそれらを用いた「シースルー型」有機薄膜太陽電池について、材料及びデバイス面において要素開発を進捗させた。パネル化についても展示会等で展示できるレベルのプロトタイプ試作に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開発においては、多色・透明有機薄膜太陽電池やそれに用いる材料、高いフィルファクターを示すタンデム構造等の要素技術を獲得したが、実用化を目指すにあたり、各技術の高度化や、それらの技術を組み合わせた、より高性能な有機薄膜太陽電池の開発及び高信頼性化が必要と考えている。 具体的には、短波長吸収スクアリリウムと長波長吸収スクアリリウム、もしくはそれらの代替材料を用いて3波長吸収を単セルの中に集約した有機薄膜太陽電池の検討を行いたい。材料面では、近赤外域を吸収する非フラーレン系アクセプタ―の利用により、さらに材料構成の幅が広がると考えている。 素子構造面では、タンデム構造の中間層をより突き詰めて、接合による電圧ロスが小さく透明性の高い透明タンデム構造を完成させることが一つの方向である。タンデム構造では高い開放電圧とフィルファクターが期待できる。有機ELディスプレイで実用化実績のあるタンデム構造を参考にすることでさらなる高度化が行えると考えている。 一方、もし複数の材料を混合することにより、容易に高効率な3波長吸収が獲得できるのであれば、製造容易性やタクトタイムの面で有利である可能性がある。複数の材料の混合の場合は、より高い短絡電流を実現する必要がある。信頼性では、長期保存、高温高湿、1SUN照射時の劣化特性等の評価とそれを受けての改良が求められる。今後、製法や信頼性を含めて、総合的な開発が必要と考えている。 応用面では、農業用以外にも、意匠性を有した発電窓や、IoTセンサ、ソーラービーコン、軽量可搬型あるいは貼り付け型の新しい太陽電池実現が期待されるが、他の太陽電池では実現できないキラーアプリケーションの開発が必須となる。企業等との連携を通じて、今後も引き続き、シースルー型太陽電池の性能向上と応用探索を継続する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大に関連して、急な学会の中止や実験用部材入手面での遅れが生じ、当初予定していた旅費や物品費について、2019年度内の予算執行が難しくなった。その状況が判明した時点で、次年度に研究成果発表を行うこととして研究期間の期間延長を申請し承認を受けた。 今回生じた次年度使用額については、上記理由で参加できなかった学会発表を2020年度に行うため必要な旅費及び、最終的な成果報告に向けて実験結果を充実させるための物品費に充てる予定である。
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Remarks |
ホームページのトップバナーや研究グループ紹介の部分に、開発した透明有機薄膜太陽電池の試作品の写真を公開している。
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