2017 Fiscal Year Research-status Report
Strain Effects on Excitonic Photoluminescence in 2D Transition-Metal Dichalcogenides
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17K05051
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内田 和人 東京大学, 物性研究所, 技術専門員 (20422438)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 励起子 / 歪み / スピンホール効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
遷移金属ダイカルコゲナイド薄膜において注目され、理論と実験の両面から研究されている励起子スピンホール効果は、励起子が電気的に中性であるために、通常のホール効果のように、電場によりキャリアを駆動することができず、観測を困難なものにしている。そのため、実験の面では現在、極低温においてわずかに観測例があるのみである。そこで、本研究では、歪みによるポテンシャル勾配により励起子を駆動し、発光の偏光依存性を検出することにより、室温での励起子スピンホール効果の観測に挑戦する。 この研究の技術的核心である歪み制御法は、液体媒質中で架橋化した薄膜を振動させ、薄膜の上下面に生じる圧力差により薄膜面内の歪みを制御するという、これまでにない全く新しい方法である。そこで、初年度にあたる本年度は、歪み制御装置の製作、及び動作実験を行った。 薄膜振動の駆動力として用いる圧電素子は水気を嫌うため、水槽となる試料空間と圧電素子を設置する空間を分離する必要がある。そこで、これらの空間をゴム板で上下に分け、圧電素子の振動をゴム板と磁石を介して水槽中の薄膜試料に伝達させる機構を考え、装置を設計、製作した。観察窓となる液槽内の液面には、振動による液体表面の光の散乱を抑制するために、ごく薄いガラス窓を配置してある。次に、歪み制御法の実証実験として、金薄膜を金属枠に固定し架橋化した薄膜試料を作製し、圧電素子への入力信号(強度、周波数)に対する金薄膜の動きを観察した。その結果、周波数にして1 Hz程度の低周波領域から50 Hzまでの周波数領域にわたって、圧電素子への入力信号に追随して振動する薄膜の様子が確認された。さらに、入力信号波形を正弦波、三角波等、変化させた時の振動の様子も詳細に観測し、新たな薄膜の歪み制御法の開発に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
歪み制御装置の設計、製作から本研究をスタートさせたわけであるが、これまでにない装置であることから、構造も大変ユニークなものとなった。ただ、複雑なわりにはコンパクトにでき、顕微鏡下に設置して、十分観察可能なサイズにとどめるなど、ほぼ想定通りの機能を備える装置を完成させることができた。 歪み制御の実証実験として、当初の予定では、スピンコートにより成膜、単離したPMMA薄膜を用いて行う予定であったが、PMMA薄膜は透明であり、通常の顕微鏡観察が困難であると判断し、金薄膜を用いて行うこととなった。また微細加工されたセラミック基板を用いたミクロンスケールの顕微鏡観察を想定していたが、より簡便、かつ詳細に観察できるように、第一段階としてミリスケールの金属枠上に架橋化した金薄膜での実験となった。その結果、圧電素子の入力信号に、見事に追随して振動する金薄膜が観測され、本研究において技術的に最も重要であった歪み制御法が確立できたことは、大きな成果であったと考えている。また、次の段階として、PMMA薄膜の作製にも着手しており、次年度以降、歪みゲージを用いた定量的な評価に加え、実際に遷移金属ダイカルコゲナイド薄膜をPMMA薄膜上に転写した試料を用いて、顕微鏡観察を行う予定であるが、その準備も着実に行っている。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、液体中で振動する数 10 μmの領域の励起子発光イメージングを行う顕微発光測定システムを構築する。そのために、最大倍率 3.500 倍、作動距離 10.6 mmで、同軸落射照明用のポートとフィルターポートを有するデジタルマイクロスコープを購入し、適宜改良を行う。直線偏光されたHe-Neレーザー光(632.8 nm)を同軸落射照明用のポートからスポット照射し、さらにハーフミラー直上に円偏光板と短波長カットフィルターを挿入する。これにより、試料からの発光の円偏光依存性の検出が可能となる。また、歪みが刻々変化する薄膜からの発光強度を連続観察するために、高フレームレートを持ち波長感度が有利なモノクロタイプのCMOSカメラを検出器として採用する。 次に、単層および複数層 MoS2/h-BN/PMMA薄膜を作製する。まず、シリコン基板上にPVA膜、さらにPMMA膜をスピンコートし、機械的剥離法により作製したh-BNをその上に転写する。同様の機械的剥離法により準備したMoS2薄膜を顕微鏡下で、先ほどのh-BN上に転写し、その後PMMA膜とPVA膜を分離することにより作製する。最後に、スリット基板に転写し架橋化する。そして、顕微発光測定システムと圧電素子を用いた歪み制御装置を組み合わせ、単層および複数層 MoS2/h-BN/PMMA薄膜の一軸性歪み制御下における励起子発光の層数依存性を観察する。 最終年度、角型開孔基板上に単層および複数層 MoS2/h-BN/PMMA薄膜を架橋化し、非一様な歪みを加えた系について、励起子発光を観測する。そして、歪みの有無、あるいは周期的な変化による発光イメージの差分抽出により、室温での励起子スピンホール効果の観測に挑戦する。
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Causes of Carryover |
当初、予定していたピエゾアクチュエーター及びコントローラーのセットは、予算内で購入できなかったため、ピエゾアクチュエーターをより低価格のものに変更し、コントローラーは他の装置で使用中のもので代替することとした。また、セラミック基板の作製を次年度以降に変更したことなどから、予算の一部を次年度に繰り越すこととなった。翌年度、予算計上していなかった励起用レーザー及び、周辺光学部品等の購入に充てる予定である。 翌年度分として請求した助成金は、計画通り、主に顕微鏡システム及び検出器であるCMOSカメラの購入に充てる予定である。
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