2018 Fiscal Year Research-status Report
Strain Effects on Excitonic Photoluminescence in 2D Transition-Metal Dichalcogenides
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17K05051
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内田 和人 東京大学, 物性研究所, 技術専門員 (20422438)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 遷移金属ダイカルコゲナイド / 励起子 / 歪み / スピンホール効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず液体中で振動する薄膜の微小領域(数 10μm 角程度)において、発光スペクトルのイメージングを行う顕微発光イメージング装置を開発した。さらに当初は予定していなかったが、振動媒体として用いるフッ素系不活性液体の試料プールへの注入・排出機構を設計・製作した。 具体的には、最大倍率 3.500 倍を有する市販の顕微鏡システムと高フレームレートで録画でき、かつ波長感度が有利なモノクロタイプの CMOS カメラを組み合わせ、本来、同軸落射照明用に設計されたポートを改造し、半導体レーザーを励起光として薄膜直上からスポット入射できるようにした。また、直線偏光板と合わせて用いることでレーザー光の円偏光特性を瞬時に切り替えられる半波長液晶リターダを導入し、接眼レンズ直下に励起光成分を除去できるノッチフィルタを組み込むことで、歪みの時間変調と円偏光特性の時間変調の両位相検出による発光スペクトルの高感度測定を可能にするシステムを完成させた。 薄膜を振動させる媒体としては、励起・発光の波長帯域における透明度が高く、かつ薄膜試料を振動させる動力源として用いるピエゾ素子等の電子機器に影響を与えないフッ素系不活性液体を用いることとした。また、試料プールへのフッ素系不活性液体の注入と排出の際に、液の流れや液面変化の際の表面張力の影響で、薄膜へダメージが加わる可能性があり、送液スピードを制御する必要が出てきた。そこで、脈動がなく、かつ送液スピードと液量を電子制御できる精密ダイヤフラムポンプを導入し、四方バルブを組み合わせることで液体の注入・排出を簡単に切り替えられるようにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一の目標であった顕微発光イメージング装置は無事完成し、当初予定していなかった、励起光の円偏光特性(右回りと左回り)も変調できるシステムとした。これは、今後捉えようとしている励起子ホール効果の信号が微弱であると予想されるために、位相検波的な高感度測定手法のバリエーションを広げたかったからである。また、試料プールに液体を注入・排出する際の送液の脈動による薄膜へのダメージについては予想していなかったが、脈動を極力抑え、かつ送液スピードと流量を電子制御できる精密ダイヤフラムポンプを導入することでほぼ解決した。 第二の目標は単層および複数層 MoS2/h-BN/PMMA 薄膜の作製であったが、単層あるいは数層程度の極めて薄い薄膜で、かつ数十ミクロン以上の面積の試料を従来の機械的剥離法で作製するのは、当初の予想よりも時間がかかり、非効率であることがわかった。そこで、より効率的な剥離を行うために、従来の方法を抜本的に見直し、一つのテープ上に厚みの異なる薄膜が等間隔に配列できる転写装置を開発した。まだ試験的な段階であるが、これにより、単層及び複数層 MoS2 薄膜試料の作製が容易になると考えている。現在、フッ素系不活性液体中において、薄膜試料に見立てたシリコンゴム膜の振動の様子を観察・記録することで、歪み制御系と光学系の性能チェックを行い、さらに複数層 MoS2/h-BN/PMMA 薄膜の作製、および顕微鏡観察を試みている。早い段階で単層の試料も含めた最適な試料を選定し、スリット型基板に転写・架橋化を行い、単層および複数層 MoS2/h-BN/PMMA 薄膜の一軸性歪み、および異方的な歪み下における励起子発光の層数依存性を観察する予定である。 以上のことから、一部、当初の予想と異なる問題もでてきたが、それぞれに対処法も準備しており、おおむね順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに液体中で薄膜を振動させ、薄膜の面内歪みを制御する装置と、励起光として用いる半導体レーザーの円偏光特性を変調させ、顕微発光イメージを高感度、高フレームレートのモノクロタイプ CMOS カメラで取得できる顕微発光イメージング装置をそれぞれ作製した。最終年度は、まず単層および複数層 MoS2/h-BN/PMMA 薄膜を、新たに開発した転写装置を用いた機械的剥離法により作製し、角型開孔基板上に転写・架橋化する。そして、フッ素系不活性液体中で、架橋化された薄膜を振動させることにより、非一様な歪み下における励起子発光のイメージングを行い、励起子ホール効果の室温での観測に挑戦する。また、MoS2 は複数層においても室温で K 点での励起子発光が観測されるが、単層化すると間接型-直接型転移により発光強度が極めて強くなることが知られていることから、歪みの導入により、発光強度の層数依存性がどのように変化するのか、実験的に確かめたい。 課題として、励起子ホール効果の信号が極めて微弱であることが予想されるが、本研究では、歪みの有無、あるいは周期的な歪みの変調と円偏光特性の変調を加えられることから、位相検波的な手法により高感度の測定が可能と考えている。また、液体媒質であるフッ素系不活性液体が、励起子の生成から再結合、発光に至る過程で何らかの影響を与える可能性があるが、実験に用いる波長領域で十分透明な液体を選定することができるうえ、MoS2 にさらに h-BN 膜をのせ、h-BN によるサンドイッチ構造とすることも可能である。h-BN は、5.9 eV のバンドギャップを持つ絶縁体であることから、これらの工夫により十分励起子発光の観測が可能であると考えている。
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Causes of Carryover |
本年度、薄膜試料作製を本格的に行う予定であったが、まだ試験段階にとどまっており、最終年度において、その経費に充てる予定である。 翌年度分として請求した助成金は、試料作製のための薬品や、石英基板等の消耗品の購入、及び成果発表のための旅費等に充てる予定である。
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