2018 Fiscal Year Research-status Report
Elucidating nonlinear dynamics of nanometer-scale fluids with microscopic experimental study
Project/Area Number |
17K05064
|
Research Institution | Osaka Electro-Communication University |
Principal Investigator |
影島 賢巳 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (90251355)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 非ニュートン流体 / 原子間力顕微鏡 / 粘弾性 / 緩和時間 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で、Si基板上への生体適合性高分子2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine (MPC)の付着の有無によって、ガラスコロイド探針を用いた水中での微小振幅シア応答が異なることを見出し、観測された特異的な二値的挙動が、探針-基板間への水分子層の介在の有無によるのではないかとの仮説を立てていた。2018年度は、これを検証する目的で、ガラスコロイドに代わり、疎水性の表面を持つグラッシーカーボン球の探針を製作し、MPC基板吸着表面において同様の測定を行った。その結果、MPC分子が存在しているにもかかわらず、二値性が全く観測されず、また、振幅を変化させても、ガラスコロイド探針では観測されていた顕著な振幅依存性が全く観測されなかった。これは、ナノギャップ中のMPC分子が疎水性のコロイド探針から退けられてシア応答に寄与しなくなったためであると推測される。以上の一連の計測から、シア応答の二値的挙動やその顕著なシア振幅依存性に、MPC分子の存在がどう寄与しているかについての描像が明確になった。 また、副次的な成果として、探針-基板間に閉じ込められた2成分系の流体が、相分離する温度に接近する際に作用するとされる臨界カシミール力を計測することができた。ここでも粘弾性計測の考え方を用いて、臨界カシミール力の勾配と、同じく臨界性に起因する粘性抵抗係数の異常を同時計測した。液体中の相関長に近いかこれを下回る距離レンジである10-30 nm程度の距離で臨界カシミール力が直接測定された例はほとんどなく、臨界現象に関する統計力学的議論に大きく寄与する結果となることが期待される。 以上2点の研究成果について、論文を執筆する段階まで漕ぎ着けることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の主たる課題である、高分子-水複合系の非線形挙動に関する実験結果について、これまで決定的な解釈をつけることができずにいた。しかし、今年度新たに追加した実験結果によって、かなり明確な描像を打ち出せるようになり、論文として仕上げられる見通しが立ちつつある。 いっぽう、本研究の手法を応用して行った臨界カシミール効果の計測では、これまで報告されたことのない距離レンジで明確なデータを提示することができ、相転移現象における複素応答計測という新たなアプローチを提示できる可能性を示すことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
高分子-水複合系の非線形挙動に関するこれまでの実験結果をまとめ論文として投稿することを計画している。最近の理論では、摺動する界面と流体の間で有限長さののスリップが生じる可能性が指摘されているので、これも考慮して最終的な解釈を固め、論文投稿する予定である。 臨界カシミール効果については、まず現有のデータである親水性コロイド-親水性基板の組み合わせのデータについて解析を進め、できるだけ早期に論文として投稿するとともに、基板を疎水性のものに切り替えて臨界カシミール力がどのように変化するか検証することを計画している。
|
Causes of Carryover |
今年度は、臨界カシミール効果の検証という新たな実験にも着手し、実験に集中してデータ収集に努めた。その結果、当初計画していた国際学会での研究成果発表を行わなかったので、計上しておいた海外旅費1回分に相当する金額が不使用となった。今年度に得た新たな実験結果を、次年度に国際学会を含めた場で精力的に成果発表する予定であるので、そのための旅費として今年度の不使用分を使用する予定である。
|