2017 Fiscal Year Research-status Report
高強度場・アト秒科学のための時間依存結合クラスター理論の開発
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17K05070
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 健 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (30507091)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アト秒科学 / 高強度物理 / 波動関数理論 / 結合クラスター理論 / 多電子ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
超短パルス・高強度レーザーを用いた実験は物質の高励起や多重電離, 電子相関の絡む複雑な現象を観測するため, 実験単独では, あるいは不完全な理論では, その解釈や予測が極めて難しい. 例えばCalegariらはフェニルアラニン分子に極端紫外X線パルスを照射して一重電離状態の波束を生じさせ, 近赤外プローブによる二重電離収率の振動から超高速電荷マイグレーション (核の動きを伴わない電荷移動) を観測したと報告した [Calegari et al. (2014)]. しかしその根拠は「核の動きにしては速過ぎる」という消去法的論法に大きく依存 している. 当該分野が永続的な学問領域として確立し, 実社会に貢献する成果を生み出すには, 実験技術のさらな る進歩とともに確実な予言力のある精密な理論・計算手法の飛躍的発展が不可欠である. 申請者らは, この問題を克服するために TD-CASSCF 法と呼ぶ新しい方法を開発した. TD-CASSCF 法では, 全電子を弱く束縛され外場に強く応答するアクティブ電子と, 強く束縛され物理的に不活性 なコア電子にフレキシブルに分類し, アクティブ電子は完全CIで厳密に, コア電子は平均場近似で扱う. これに より従来不可能だった多電子系の精確なシミュレーションを可能にした. 私たちはさらに重要な配置のみ取り入れることで計算コストを大幅に削減するTD-ORMAS法を開発している。 しかし, 厳密ゆえ計算コストが過大な MCTDHF法を除き, CI波動関数に基づく手法はいずれも,「サイズ無矛盾性の欠如」という問題を抱えている. 本研究ではこの課題を解決するために時間依存の軌道関数を用いた時間依存結合クラスター理論を定式化し、多項式計算コスト、サイズ無矛盾性、ゲージ普遍性を同時に満たす新しい時間依存多電子理論を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
超短パルス高強度光源を活用した高強度場科学・アト秒科学が発展し注目を集めている。高強度レーザー実験は原子・分子の高励起や多重電離、電子相関の絡む複雑な現象を観測するため、実験単独ではその解釈や予測が極めて難しい。確実な予言力のある精密な理論・計算手法が不可欠である。これまで、レーザー場中の多電子ダイナミクスの第一原理シミュレーションを目的として、時間依存多配置Hartree-Fock (MCTDHF) 法を筆頭に多くの手法が提案されてきた。これらは強力な計算手法だが、(時間に依存するアクティブ軌道空間内の)完全配置間相互作用 (CI) 波動関数に基づくため厳密だが計算コストが電子数に対して指数関数的に増加するか、または打ち切られたCI波動関数に基づくためコストスケーリングは多項式的だがサイズ無矛盾性を満たさないか、のいずれかの問題が本質的に避けられない。平成29年度研究では、この問題を解決するために時間依存最適化結合クラスター理論を定式化し、原子のための実空間計算コードを実装し、高強度フェムト秒レーザー場中のAr原子に対する応用計算を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在まで, 定常状態理論を含め電子系の CC 法の実装は量子化学分野でのガウス関数基底, 周期系の平面波基底, および一次元モデルハミルトニアンに限られている. しかし, 原子・分子の超短パルス・高強度レーザー実験を再現するには三次元第一原理ハミルトニアンに対する実空間実装が必要である. これを実現するには, 原子核近傍で軌道関数を精度よく記述するために十分きめ細かく, しかも電離電子波束を十分遠方までサポートする広い空間領域でグリッド離散化する必要がある. 申請者はこの高度に挑戦的な課題に対して, 先行研究におけるTD-CASSCF 法, および TD-ORMAS 法の実装を通して技能を培ってきた. これを発展的に応用してTD-CC法の実空間基底プログラムを実装する. 平成29年度研究で原子のための極座標を用いた実装を完了させた。次年度以降、先行研究で開発したデカルト座標上の多重解像度有限差分法を適用し, 分子の全電子計算コードを開発する。
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Causes of Carryover |
単一の大型物品購入のため生じた少額の次年度繰り越し分。次年度消耗品費として使用する。
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