2019 Fiscal Year Research-status Report
2モードファイバに動的励起する周期摂動を用いた全ファイバレーザの高機能化
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17K05074
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
坂田 肇 静岡大学, 工学部, 教授 (40377718)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ファイバレーザ / 波長可変レーザ / Qスイッチレーザ |
Outline of Annual Research Achievements |
全ファイバ型レーザ共振器で波長制御とQスイッチ制御を実現する研究を行っている。計画当初の2モードファイバへの動的長周期ファイバグレーティング(LPFG)形成方式では、Tm/Ho共添加ファイバレーザ(THFL)に適用し、1900nm帯で97nmの可変範囲を得ている。2018年度から開始した多モード干渉(MMI)方式では、シングルモードファイバ(SMF)-マルチモードファイバ(MMF)―シングルモードファイバ(SMF)からなるSMS構造において、MMFを二分した隙間に液体を挿入し液体コアを作製した。ファイバ共振器にSMS構造を挿入し、液体コアの長さを制御することで64nmの可変範囲を得た。2019年度では、MMF領域を石英コアと液体クラッドで構成し、MMF領域の温度制御により発振波長を100nmにわたってシフトした。この動作原理は、液体の持つ大きな熱光学係数を利用することで、温度変化に対するMMF領域の実効モードフィールド径が制御され、その結果、透過ピーク波長がシフトすることに基づく。この効果による波長制御は材料や構造の設計次第でさらに広帯域の波長可変性が得られると考えている。 また、レーザ共振器を構成するSMFにピエゾアクチュエータ(PA)で動的LPFGを形成し、共振器損失の制御を行った。THFLに適用し、PAに予め与える負荷を最適化することで、波長1630nmの励起光パワー168mWに対して、パルス幅627ns、ピークパワー2.6Wのレーザパルスを得た。現在、SMS構造を含んだ共振器内でQ値制御を行う実験を進めている。さらに、動的LPFGについては、研究当初の2モードファイバでのモード変換にとどまらず、数モードファイバ内の高次モード変換に基づけば広帯域の光透過制御が可能な見通しを得た。実験では4モードファイバを使用し、LP11モードからLP21モードへの変換を実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)ファイバ内波長可変BPFの研究と波長可変ファイバレーザへの適用 波長可変バンドパスフィルタ(BPF)としてMMI方式の研究に新たな成果が得られている。SMS構造の透過ピーク波長を変化させるため、2018年度はMMFの一部を液体コアとし実効的MMF長を伸縮させた結果、1900nm帯において最大64nmの可変波長範囲を得た。2019年度は、透過ピーク波長を制御するパラメータとして、MMF長ではなく、MMFの実効径を制御する研究を行った。素子を試作し、温度制御実験の結果、1900nm帯において100nmの可変波長幅を確認できた。純粋にファイバだけで構成した波長可変ファイバレーザとしては研究代表者の知る限り最大の可変幅である。また、パラメータの異なる幾つかのSMS構造をTHFLに適用し、全体として1858nmから2015nmにわたる発振波長を得ることができた。 (2)動的応力付加によるファイバ内Qスイッチング ファイバへの動的LPFG形成によるQスイッチ発振動作は確認されているが、課題として透過損失のダイナミックレンジの狭さが挙げられる。そこで、SMS構造をレーザ共振器内に挿入し、PAによる応力付与で発振出力を制御した。しかし、SMS構造による透過ピーク波長とQスイッチ発振時の波長が一致せず、Qスイッチパルス発振は得られるものの、動的LPFGにて得られたパルス特性に及ばなかった。現在、活性ファイバ長を調整して1630nm帯レーザダイオードによる励起を両方向から行いCW発振時のレーザ出力を向上させている。動的LPFGを形成するための波形プレートの周期を調整し、PA印加によるQスイッチ発振による光パルス出力の向上を図っている。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」でも述べたように、計画当初にはなかった新たな方式によるファイバレーザの可変波長範囲の広帯域化を進めている。Tm添加ファイバやTm/Ho共添加ファイバでは、医療用や計測用の応用に広い利得帯域幅が生かせるため、それに見合った波長可変機構の実現を目指している。現在、MMI効果に基づき最大100nmの可変範囲を実証している。今後、さらなる拡張可能性が望めるSMS構造について、構成要素であるSMF、MMF、キャピラリ、屈折率可変媒体である液体ないしジェルクラッド等の研究を行い、レーザ共振器内のファイバ制御でありながら、外部光学系制御に劣らない特性を生み出したいと考えている。 また、1900nm帯と合わせて、Er添加ファイバを用いた1550nm帯でも同じ原理のMMI方式でファイバレーザの研究を進める。1550nm帯では通信分野の様々な測定機器が使用可能なため、レーザ発振特性に加えてSMS構造の透過光スペクトル特性等についても併せて評価できる。その結果を1900nm帯の研究にフィードバックすることと、さらに、MMF領域が外部環境の影響を受け易い特徴を生かして、新たなレーザセンシングに発展できる可能性がある。 さらに、波長可変ファイバレーザを構成する共振器内ファイバの一部を波形プレートで挟み込みPAの高速駆動により共振器内の伝搬損失を制御する研究を行う。波長可変ファイバレーザでは発振波長に依存してレーザ発振の閾値が変化するため、レーザの閾値変化に合わせたQ値のダイナミックレンジ制御を要する。そのため、PAからのファイバ応力付与に加えて、ファイバへ予め与えておく負荷を制御する動的LPFG機構を研究する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、「今後の研究の推進方策」に記載したように、全ファイバレーザ共振器内で発振波長制御ならびにQスイッチ制御を実行する新たなファイバレーザの研究を継続進展させるための経費として計画的に残した。消耗品費として、希土類添加ファイバや各種の特殊光ファイバ素線、屈折率液体や屈折率整合ジェルなど熱光学効果を利用する素材、キャピラリやフェルールなど精密光学部品、ピエゾ駆動系の整備、励起用レーザダイオードなどへの使用を予定している。また、今年度は光学やレーザ工学に関する代表的な国際会議が幾つか開催される。今後の海外渡航状況によるが、発表が可能になれば、国際会議での講演発表費用に使用したいと考えている。
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Research Products
(7 results)