2017 Fiscal Year Research-status Report
重水素化ポリマー膜コーティングによる光ポンピング原子のスピン緩和防止技術の創出
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17K05079
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
熊谷 寛 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (00211889)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 原子層堆積法 / スピン偏極 / 光ポンピング / 原子磁気センサ |
Outline of Annual Research Achievements |
アルカリ金属原子のスピン偏極を用いた光ポンピング原子磁気センサは、室温でSQUIDを超える感度が期待できるため、ベットサイドでも心臓や脳神経由来の微小磁場をモニタリングできる可能性がある。しかし、偏極スピンは原子がセル内壁に衝突すると緩和されてしまう問題点があった。そこで、もし原子セル内壁にスピン緩和防止の高性能コーティングを施すことができれば、偏極緩和を抑制できることになる。 本課題では、アルカリ金属原子の電子スピンとコーティング内原子の核スピンとの双極子-双極子相互作用の効果を最小限に抑えるため、磁気モーメントの小さい重水素核に注目し、申請者が独自に開発した逐次的表面化学反応による原子層堆積法を発展させて重水素化したポリマー薄膜の分子層堆積法を世界で初めて開発し、更には表面界面のダングリングボンドのOD基終端や重水素化したポリマー薄膜の膜厚を精密制御する事でスピン偏極の緩和を抑制し、ついには光ポンピング原子磁気センサの感度を向上させることを目標に研究が行われた。 まずD2Oを酸化剤として重水素を含有する酸化アルミ膜の原子層堆積を実施した。D2Oを堆積チャンバー内に導入しOD基で表面を覆い、余剰のD2O蒸気を排気した。次にTMAを導入し、表面化学反応を誘導し、余剰のTMAを排気した。原料ガスの自発的な熱分解を抑えることができた。すでに水蒸気では実証済みで、重水蒸気に対しても室温で、極めて高精度に膜厚制御を実現した。また繰り返しTMAとD2O蒸気の交互供給で膜構造を形成していくが、D2O蒸気のガス導入時間で、余剰の重水素の含有量を制御できることを明らかにした。 また、ポリマー膜の分子層堆積法の開発を世界に先駆けて実施した。エチレングリコール(EG)とTMAとの組み合わせから、有機無機ハイブリッドポリマー薄膜の分子層堆積を実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず平成29年度に実施予定であった、D2Oを酸化剤として重水素を含有する酸化アルミ膜の原子層堆積を行った。D2Oを堆積チャンバー内に導入しOD基で表面を覆い、余剰のD2O蒸気を排気した。次にTMAを導入し、表面化学反応を誘導し、余剰のTMAを排気した。原料ガスの自発的な熱分解を抑えることができた。すでに水蒸気では実証済みで、重水蒸気に対しても室温で、極めて高精度に膜厚制御を実現した。また繰り返しTMAとD2O蒸気の交互供給で膜構造を形成していくが、D2O蒸気のガス導入時間で、余剰の重水素の含有量を制御できることを明らかにした。 また、もう一つ平成29年度に実施予定であった、ポリマー膜の分子層堆積法の開発を世界に先駆けて実施した。 エチレングリコール(EG)とTMAとの組み合わせから、有機無機ハイブリッドポリマー薄膜の分子層堆積を実現した。エリプソメーターの測定から、室温では材料ガス吸着の利用により内壁の至る所に一様に堆積できることを実証した。
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Strategy for Future Research Activity |
ルビジウム原子セルの作製技術は既に開発済みなので、原子セル内壁の至る所へのポリマー膜の室温コーティング を実施する。 そして、ポリマー膜の一様な室温コーティングを行ったルビジウム原子セルに対して、非線形磁気光学回転による精密測定システムを用いたスピン緩和時間の計測を実施する。 外部共振器型半導体レーザーを用いて、レーザー光は87Rbの共鳴周波数に合うように周波数ロックし、PI制御により周波数安定化を施す。レーザー光はアイソレータ、アパーチャーを通過して、偏光ビームスプリッター(PBS)に入射する。直前のλ/2 板の回転により、入射光の一部は波長計に分岐されるが、直進したレーザー光は、グラントムトンプリズム、λ/2 板を通過し、直線偏光としてポンプ光およびプローブ光として利用される。非線形磁気回転効果では磁場に極めて敏感に、偏波面の回転が起こる仕組みで、偏波面の回転角は、スピンの緩和レートに凡そ反比例するため、スピンの緩和防止コーティングが有効であれば、回転角が大きい、つまり感度が高くなる。偏波面の回転角を精密に測定し、スピンの緩和レートを見積もることを目指して、研究を推進する。
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Causes of Carryover |
装置の安全対策のために、試作した原子セル充填用真空チャンバーをポリマー薄膜コーティングに特化することで、ルビジウム導入機能がなくなり、備品費を減額できた。次年度使用額はセルへのルビジウム充填費として有効に使用する計画である。
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