2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K05095
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
栗田 弘史 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70512177)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 大気圧プラズマ / プラズマ生物応用 / プラズマ医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、大気圧プラズマの生物・医療応用に向けた基礎研究として、生化学反応への影響を解析することを目指している。2018年度は、前年度にモデル酵素として選定した、過酸化水素分解酵素カタラーゼへのプラズマ照射とその影響について検討した。カタラーゼ溶液に対しプラズマ照射した後で吸収スペクトルを測定すると、カタラーゼ活性中心特有のSoret bandと呼ばれる410 nm付近のピークがプラズマ照射後に消失し、250-280 nm付近の芳香族アミノ酸が示すピークの増大と長波長側へのシフトが観察された。プラズマ照射の代わりに熱変性させたカタラーゼに対して同様の測定を行ったところ、明らかに異なるスペクトルを示した。プラズマ照射で生じた250-280 nmのピークの長波長側へのシフトは、芳香族アミノ酸の開裂を示唆しており、活性種がその反応に寄与していると考えられる。以上のことから、プラズマ照射によるカタラーゼの失活過程は、古くから知られている熱変性とは異なることが推察される。また、研究代表者は以前よりプラズマ照射による核酸損傷に関する研究を進めており、上記に加え、細胞内で生じるDNA修復に関わる生化学反応に関する研究に着手した。これまでにプラズマ照射によって細胞内でDNA切断が生じることが報告されているが、本研究ではDNA塩基修飾に注目した。さまざまな条件でプラズマ照射し、その直後に細胞内のDNAを分析したところ、24h後の細胞生存率が大きく低下しないような比較的弱いプラズマ照射でも塩基修飾が生じることがわかった。このような条件ではDNA修復酵素が細胞内で発現している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度にモデル酵素として選定したカタラーゼについて、その不活化機構が従来と異なるものである可能性が示され、研究開始当初想定していなかった結果が得られた。プラズマ医療応用分野では、プラズマ照射による抗腫瘍効果が重要な研究テーマのひとつであるが、正常細胞に悪影響を与えず、癌細胞のみに細胞死を誘導するメカニズムの解明が急務である。これに関連して、癌細胞と良性細胞の違いの一つとして細胞表面カタラーゼ量に注目した報告があり、この観点で、本研究課題で得られた結果は重要であると考えている。また3年目に実施を計画していた細胞を用いた実験に着手し、DNA修復酵素がプラズマ照射後の細胞で機能している可能性が示された。以上のことからおおむね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
カタラーゼの不活化とDNA修復反応に注目して研究を進める。カタラーゼ不活化については、プラズマ照射によるタンパク質の構造やアミノ酸残基の変化を解析する予定である。また、初年度に選択的過酸化水素分解によるプラズマ照射溶液中の活性種制御や生成メカニズムの解明の可能性を示す結果が得られているので、派生的な内容ではあるが、この内容についても実施を検討する。DNA修復反応については、まずDNA修復酵素の細胞内での発現を解析し、併せて蛍光プローブDNAを用いて細胞内でのDNA修復反応を定量化する実験系を構築する予定である。
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Causes of Carryover |
当初、生化学反応を可視化するためにカメラの購入を計画していたが、配分額・モデル酵素反応の選定などの観点から検討を行った結果、購入しなかった。今年度モデル酵素反応系に適した手法において適切に使用する予定である。
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