2018 Fiscal Year Research-status Report
Adhesion process of a graphene nanomechanical switch and its optical control
Project/Area Number |
17K05105
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
乾 徳夫 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (70275311)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | グラフェン / カシミール力 / MEMS / メカニカルスイッチ / 固着 / 分子動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェンは優れた電気伝導性と強靭性を兼ね備えているため,マイクロメカニズムへの応用が進められている.本研究ではグラフェンが基板とどの様に固着し,またそれをどの様に防ぐかについて調べている.昨年度までの研究で,グラフェンと基板間に作用するカシミール力がグラフェンナノスイッチに及ぼす効果と,それを光の照射で制御する方法を示した.また,カシミール力と静電気力が同時に作用する場合の平衡形状についても考察した.しかし,グラフェンをメカニカルスイッチとして使う場合,グラフェンの動力学が重要であり,その部分は十分には解明されていない.この問題を解決するために研究を行い,次の結果を得た.(1)これまではグラフェンを薄板として近似して解析を進めてきたが,精度を向上させるにはの分子動力学シミュレーションによる解析が望まれる.その為には基板とグラフェンの相互作用力を精度よく計算する必要がある.29年度の研究において,拡張されたレナード・ジョーンズポテンシャルを用いると計算可能であることを示したが,その誤差の厳密な評価が出来ていなかった.そこで,グラフェン内の炭素原子と基板間のポテンシャルを対和法で計算する際に生じる和の打ち切り誤差について考察した.(2)グラフェンメカニカルスイッチは空気中を高速で動くため,気体とグラフェンとの衝突について分子動力学法を用いて調べた.気体が付着したナノグラフェンシートが振動すると,付着原子も加速され高速で飛び出すことが分かった.これはグラフェンナノスッチが気体の局所加熱器として応用できることを示唆している.(3)グラフェンが単層ではなく2層である場合,層間に気体を閉じ込めることができる.気体の量を調整しグラフェンを変形させることで基板との接触面積が変われば固着防止になる可能性がある.そこで,アルゴンを閉じ込めた場合のグラフェン形状とアルゴンの密度分布を計算した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
グラフェンナノスイッチの固着防止を考える上で,最も重要なのは形状の最適化である.可動電極であるグラフェンは静電気で駆動されるが,必要な電圧は主としてグラフェンと固定電極間の距離が小さくなるほど低くなる.一方,グラフェンと基板間に作用するカシミール力は間隔が狭くなると急激に大きくなる性質を有する.グラフェンナノスイッチが繰り返し動作するためには,電圧がゼロとなった場合,グラフェンの復元力で平坦な形状でもどる必要がある.間隔が狭いとカシミール力のみで基板に接触し機能が発揮できいない.これまでの研究で,グラフェンと導電性基板に作用する力を計算できるようになり,さらにカシミール力が作用する状態で,電圧とグラフェンの変形量の関係を計算することが可能となっている.これにより,グラフェンナノメカニカルスイッチの最適な形状を計算する手段が得られた.さらに,基板をシリコンで,光照射により電子-ホール対を基板表面で発生できればカシミール力を変化させることができ,その結果,グラフェンの形状を変化させることを示した.これらの理論的な研究に加え,懸垂グラフェンの新たな作製法についても検討している.まず,光リソグラフィ技術を用いて酸化シリコン上に微小なピットパターンを形成し,CVD法で作製されたグラフェンをピット上に転写した.電子顕微鏡および原子間力顕微鏡で表面を観察し,懸垂グラフェンが作製されていることを確認した.しかし,光リソグラフィーには高度な技術と時間を要するため,作製方法の簡略化を検討してきた.その結果,シリコンの劈開性を利用することで,微小間隙の溝作成とその上の懸垂グラフェンを光リソグラフィー技術を使うことなく作製できるようになっている.以上,研究計画で挙げた課題の多くが解決されてきたため,予定どおり進展していると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
グラフェンナノスイッチには静電気力とカシミール力が同時に作用している.本研究ではカシミール力に注目し,その力によるグラフェンの変形と光制御を目的としている.カシミール力は対象とする物体の誘電関数や温度に依存するため,これらの物性値を変化させることでカシミール力も変化させることができる.凝着防止という観点からするとカシミール力を弱くする方法の開発が望まれる.通常,カシミール力は引力であり,斥力化することは困難である.過去の研究において大きな反磁性を有する物体は,透磁率が0に近づくとカシミール力が小さくなることを理論的に示しているが,超伝導体を除き既存の反磁性の透磁率はほぼ1に近く,カシミール力に及ぼす効果は小さい.グラファイトも反磁性を有するがカシミール力に及ぼす影響は極めて小さい.しかし,グラフェンを適当な回転角で回転させながら積層させた多層膜は小さな透磁率を有する可能性があることを知った.その場合,磁性効果を用いるとカシミール力は大きく減少する可能性がある.よって,可動グラフェン部分をこの積層グラフェンに変更することで,新たなカシミール力の制御が可能となる.そこで,今年度は反磁性有するグラフェン多層膜も含めて,凝着過程とその制御方法を考察して行く.
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Causes of Carryover |
実験においては,懸垂グラフェンの作製とその評価を行っているが,作製に関しては簡易な作製法を見つかったため,予定より少額となっている.また,評価に関しては電子顕微鏡とラマン分光測定を公的機関で行ったため,予定測定額より少額となった.しかし,来年度に自作のカシミール測定システムを構築予定で,今年度の剰余分を使用する.また,理論解析で多用していたMathematicaは学内ライセンスにより無償となったため,その分の費用が不要となり差額が生じている.しかし,ライセンス契約が今年度で終了する為,Mathemataicaを新たに購入する必要があり,今年度分剰余分から充当する.
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