2018 Fiscal Year Research-status Report
Plasma potential control by dual target HPPMS for film structure modification
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17K05106
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
中野 武雄 成蹊大学, 理工学部, 教授 (40237342)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 大電力パルススパッタ / プラズマ電位制御 / 薄膜構造制御 / 低温製膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
「現在までの進捗状況」の項目に記したように、今年度は本研究課題の直接的な目的に関しては装置の整備段階にあったため、対外的な発表は実施しなかった。ただし関連したいくつかのテーマについて、プロシーディング執筆を含めて数件の口頭発表を行なった。 代表者の研究室では、大電力パルススパッタ(HPPMS)の応用として、電界放出型微小真空電子源のひとつであるスピント型エミッタで用いる、鋭い円錐状のMo陰極を作製する研究を行ってきている。本研究課題の手法も、この作製に適用する予定である。今年度は、放電ガスの違いに着目した研究を行なった。これは、陰極形成時に膜の圧縮応力が非常に強くなり、膜が剥離する現象が多発したためである。一般に、質量の大きいMoターゲットに対して軽いArでは、ターゲットへ入射したイオンの帯電中和と後方散乱によって中性高速粒子が発生し、圧縮応力の一因となる。ガスを重いKrにすることで、このエネルギーの抑制を期待した。実際に実験を試みたところ、膜の圧縮応力は予想の通り顕著に減少した。ただし鋭いエミッタ構造は得られず、Mo粒子のイオン化率への悪影響、ないし基板前面のシースで加速されるMoイオンがKrガスによって散乱を受け受ける散乱などが考えられた。この結果は口頭で報告したほか、電子情報通信学会の技術研究報告としてまとめた。 また、圧力や電位印加などの製膜条件以外に、円錐形成のテンプレートとなるキャビティの形状が、形成される円錐の鋭さに顕著な影響をもたらすことがわかり、この結果は春の応用物理学会にて発表した。これは2019年度のInternational Vacuum Congressでも報告する予定である。 このほか、反応性スパッタプロセスの基礎過程について、また生体材料に熱ダメージを与えない金属膜の堆積プロセスについても研究を実施し、数件の学会発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではふたつのスパッタターゲットに、互いに半周期ずれたタイミングでHPPMS放電をさせ、かつそれぞれ間欠期のターゲットに正電位を印加することで、プラズマの電位を正に保つ。これにより、イオン化した堆積粒子を接地基板に対して高いエネルギーで入射させ、膜の構造を変化させようとする。一年目にはターゲットを二基供えたスパッタ装置を作製し、それぞれのターゲットからの放電動作を確認した。 二年目は追加電源を購入し、デュアルカソード放電の基礎特性の計測を実施する予定であったが、以前よりもコンパクトなサイズの電源を要求してしまったこと、また納期に対する当方の態度の甘さもあり、電源の完成が年度末までずれこんでしまった。さらに、以前から利用していた方の電源が電圧印加時に異常な電流の振動を見せるようになり(おそらくスイッチングに用いているIGBTのトラブル)、現在修理中である。このため、デュアル放電の実現にはいまだに至っていない。 その他の要素技術としては、周期内部の波形をそれぞれ独立に設計できる2ch出力のファンクションジェネレータ製品の存在を知り、別予算で購入した。計画当初は単一のファンクションジェネレータからのパルス信号を片方のターゲット用の電源に与え、もう一方の電源に与えるパルス信号はアナログ遅延回路ないしRaspberry PiなどのIO付きマイコンで生成する予定であったが、このファンクションジェネレータによって、技術的な課題が克服できた。 左右両ターゲットの放電状態は、それぞれの電圧・電流波形をモニタして確認する。電力はそれらの積の積分として得る。これには、電源からの電圧モニタ出力信号、ならびに電流プローブの信号を、それぞれ専用のオシロスコープで計測し、制御に問題ない速度で計算し電力表示するPCプログラムをVisual Basicで作成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
電源の修理待ちの状況であるが、それまでに可能な作業はしておき、電源が戻り次第にデュアルHPPMSの検証実験をできるようにしておく。放電動作に必要な直流電源は2台あるので、ふたつのターゲットの磁場配位をopenループ・closeループとしたときに、放電様式がどのようになるかを観察する。またプラズマ電位計測に用いる既存設備のラングミュアプローブの動作確認も兼ね、それぞれの放電におけるプラズマ密度の垂直方向の位置依存性を計測する。さらにデュアルDC放電時の製膜速度を計測し、HPPMSと比較できる基礎データとする。また、片方のターゲットに(通常とは逆の)正の電位を加えた場合について、プラズマ電位が上昇するかについても計測する。 電源が戻ったら、デュアルターゲットHPPMSの動作を確認し、ラングミュアプローブでプラズマ電位・密度の時間分解計測を行い、プラズマ電位が想定通りに上昇しているかを確認する。また、両スパッタガンの磁場配位を開ループ型・閉ループ型と変更したときに、放電の様子や、プラズマ密度・温度・電位といった各プラズマパラメータがどのように変化するかについても評価する。 ターゲット材料には、HPPMS研究で一般的に良く用いられるTiを使う予定である。実際に製膜を行い、製膜パラメータ・装置構成と薄膜の構造との相関について議論する。膜の構造は既存設備である走査型電子顕微鏡ならびに学内施設であるX線回折装置によって評価する。 装置の基礎特性が計測できたら、HPPMSの応用例としてスピント型真空電子源用のMo錐状電極作製も試みたい。これは堆積粒子の垂直入射性が大きく影響するもので、HPPMSのエネルギー制御性と並ぶもうひとつの利点である、入射方向制御に対する本手法の良い評価軸になると考えている。
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