2017 Fiscal Year Research-status Report
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17K05118
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
斎藤 峯雄 金沢大学, 数物科学系, 教授 (60377398)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 陽電子消滅 / 第一原理計算 / 原子空孔 / 酸化亜鉛 / スピン分極 / 強磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ZnO中Zn原子空孔の研究を行った。この空孔は、強磁性を引き起こす事で注目されている。まず、この空孔はC3vの高い対称性を保ち、欠陥準位はE表現に属し、2個の電子が占有する事がわかった。この結果、スピン3重項状態が最安定であり、このことが、強磁性を引き起こす上で重要であることを明らかにした。原子空孔に近接する4個の酸素原子は、空孔から遠ざかる方向に緩和する事が分かった。このことにより、この系におけるJahn-Teller効果が小さくなり、対称性低下によって引き起こされるスピン一重項状態は、最安定とはならないことが明らかになった。また、この格子緩和により、酸素原子の作る結合は、120°に近くなり、スピン密度は、主として、近接酸素原子の非結合のp軌道が主成分である事が明らかになった。 報告者が開発した、2成分密度汎関数法に基づく計算コードを用いた陽電子寿命の計算より、多数電子スピンと少数電子スピンに対する値は、それぞれ、207 psと216 psであることが分かった。十分に大きな寿命の差と考えられ、今後陽電子消滅実験により観測される可能性もあると考えられる。 空孔における電子スピン密度の分布は、多数電子スピンの方が少数電子スピンよりも空間的な分布が狭まっていることが分かった。スピン偏極陽電子消滅の実験からは、多数電子スピンの運動量密度の分布は少数電子スピンに対するものよりも狭まっており、上記の空間的分布の差を反映したものと予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、第一に、ZnOにおけるZn空孔におけるスピン分極が、近接酸素原子の外側への緩和によりJahnーTeller効果が抑制されることにある点を議論した。このスピン分極の発生は、原子空孔が引き起こす強磁性発現の機構を明らかにする上で極めて重要である。今後、強磁性を引き起こすほかの半導体中原子空孔の研究に対しても重要な知見をい与えるものと期待される。また、自作の計算コードを用い、多数スピンと少数スピンに対する有意な寿命の差がある事を明らかにした。さらに、多数スピンと少数スピンに対して実験で観測された、運動量密度分布の差に対する、理論的理解を深めた。以上により、本研究は、概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の知見をもとに、運動量密度の計算をすすめていく。まず、運動量密度の信頼性の高い計算手法に基づく、プログラムの作成を行う。これをもとに、ZnO中Zn原子空孔における運動量密度を計算し、実験結果との整合性をチェックする。多数スピンと少数スピンに対する運動量密度の違いを明らかにし、その原因を究明する。さらに、ZnOだけではなく、ほかのワイドギャップ半導体系(GaN等)における強磁性を引き起こす原子空孔の研究を推進する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は10718円であり,ほぼ計画通りである。物品費の購入(ワークステーションの購入)において、幾分支出が計画より少なかったが、ワークステーションの購入により、次年度以降の研究においても円滑に行える環境が整っている。次年度は、旅費の一部に使用する予定である。
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Research Products
(8 results)